いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩

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8.夜会

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「ついに夜会にまで、行けるようになったのね。」

 夜会へ行く馬車の中、相変わらずの三人の会話が続いている。

「シャノン様、くれぐれもお気をつけください。
 シャノン様が心配でおかしくなりそうです。」

「テッド、僕が離れずエスコートするから、大丈夫だよ。」

「はい、カミーユ先生、シャノン様をお守りください。」

「ふふ、テッド、私達は戦地に行くわけじゃないのよ。
 夜会に行くだけよ。」

「そうですが、杖も持って行かないとすると無力です。」

「ふふ、元々私は無力よ。
 それに杖があったとして、テッドがいなければ戦うことはできないでしょ?」

「あー、心配だ。
 僕は馬車の中で待機していますから、何かあったらすぐに、馬車まで戻ってください。」

「わかったわ。
 テッドは心配性ね。」

 最近はこうして三人で出かけることが増えてきた。

 カミーユ様の提案で、王都の街にお茶を飲みに行ったり、美しい花園を歩いたり、そのたびに彼がエスコートしてくれるので、足はゆっくり引きずってしまうけれど、そのことで行けないところも、できないこともあまりなかった。

 カミーユ様は、今日はタキシードを着こなし、大人の色気を振りまいている。

 私もシックな色合いのドレスを着て、おしゃれを楽しんでいた。

 怪我をして一つだけ良かったことを挙げるなら、カミーユ様が何処へ行くにもピッタリとエスコートしてくれることだろうか。

 もし、怪我をしていなかったら一人で歩く場面でも、必ず腕を組んで歩いてくれる。

 転倒予防のためなのだけれど、どんな理由であれ、嬉しくなってしまうことは秘密だ。

 ニヤニヤしないように、真剣に歩いているように見せる自分が滑稽で、つい微笑んでしまう。

「楽しそうだね。」

「ええ、楽しいわ。」

 馬車から降りて、カミーユ様にエスコートされて、夜会会場へ向かう。

 やはりここでも注目されているようで、何人もの方がチラチラと私達を見ている。

 その時、ローレッタが、駆け寄って来る。

「シャノン、ついに夜会にも来たのね。
 ご機嫌よう、カミーユ先生。」

「ええ、そろそろ来てみようと、カミーユ様と話していたの。」

「ローレッタ嬢、こんばんは。」

 いつの間にか私達の周りに、興味深々の令嬢達が集まり始めた。

「シャノンさん、ご機嫌よう。
 元気になったのね。
 良かったわ。
 そちらの方は?」

「ええ、大分良くなったの。
 こちらの方は、私を担当してくれたお医者様で、カミーユ医師よ。」

「なるほどね。
 お医者様なら、一緒にいても安心ね。
 またこうしてお話できて嬉しいわ。
 とても気の毒に思っていたから。」

「ありがとうございます。
 彼にはとても良くしてもらっているの。

 だから、お気遣いは不用よ。
 私は今幸せなの。」

「まぁ、シャノンさんらしいわ。」

 久しぶりの夜会で、みんなに温かく迎えられて嬉しい。

 会場では、楽器の演奏が流れ、ダンスをするために皆パートナー達とホールの中心へ向かい、踊り出した。

 私はダンスホールの端で、そんな友人達をカミーユ様と見ている。

「カミーユ様、ありがとう。
 事故の後、ベッドにいる時は、もう二度とここには来れないと思っていたから、今こうして来れたことに感謝しているの。」

「それは、すべて君とテッドの頑張りのおかげだよ。
 君が諦めていれば、あのまま寝たきりの人生もあったんだ。

 だから、君は素晴らしいんだよ。
 自分自身に感謝だね。」

「そうね。
 私にはテッドとカミーユ様がいて、つらい時からずっと支えてもらったわ。

 だから、二人にとても感謝しているし、私のような怪我をした人が、カミーユ様のような方に出会えて、絶望の中から立ち上がってほしいと思っているの。」

「だったら、治療院で治療中の人の相談にのってみないかい?

 君と話すことで勇気づけられる人もいると思うんだ。
 もちろん、無理にとは言わないよ。

 治療をしても必ずしもいい結果になるわけではないから、君の負担になるならやめた方がいい。
 君次第だよ。」

「そうね。
 無理のない範囲で、子供達と話すのはいいかもしれないわ。
 考えてみます。

 それにしても、みんな楽しそうに踊っているわ。
 さすがに私は、ダンスは踊れないわ。
 残念だけれど。」

「そんなことないさ。
 僕と練習してみないか?
 僕は素人だから、一からだけど。」

「転んでしまわないかしら。」

「僕がいるから、大丈夫だよ。
 僕もテッドに負けないように、君のためにできることを増やしたいんだ。

 だってもしそれがうまくいったら、僕だけがシャノンと踊れると言うことになるよね。

 そう考えたら、俄然やる気が出て来たよ。」

「カミーユ様がそう言ってくれるなら。」

「よし、頑張るぞ。」

「ふふ。」

 その時、後ろから女性がぶつかって来て、前のめりに倒れそうになり、カミーユ様に支えられる。

「ビックリしたわ。
 カミーユ先生、ありがとう。」

「あら、お姉様でしたの。
 よろけてしまったわ。」

「リオノーラ、来ていたのね。」

 ぶつかって来たのは、リオノーラだった。
 どうやらリオノーラはクロードと一緒に来ていたらしい。

 美男美女の二人は目立つはずだが、気がつかなかった。

「シャノン、久しぶりだね。
 リオノーラを抑えれなくて申し訳ない。」

「まあ、クロード様、わざとじゃないんだから、お姉様も気にしてないわよ。
 ねぇ、お姉様。」

「ええ、クロード、気にしないで。」

「お姉様はすっかりカミーユ先生といい感じなのね。
 お父様から聞いたわ。
 カミーユ先生がお姉様に結婚を申し込んでいるって。」

「そうなのか?
 シャノン。」

「まあ、ありがたいことにそう言ってくれているの。」 

「僕は本気です。
 近いうちに発表できると思います。」




 シャノンがローレッタ達友人と話している間、離れたところで見守っていると、カミーユのところにクロード卿が一人でやって来た。

「シャノンと結婚するつもりなんですね。
 僕がオーティス伯爵に圧力をかけて、結婚を阻止すると言ったら?」

 クロード卿は、シャノンの前で見せる甘い表情ではなく、彼女には見せない鋭い視線で尋ねる。

 こちらがこの男の本性なのだろう。

「それでも突き進むまでです。」

 ここで負けては、シャノンを失う。
 僕はじっと彼を睨み返す。

「カミーユ先生は貴族ではないですよね。
 オーティス伯爵が承諾するとは思えない。」

「はい、理解しています。
 ですので、シャノンのために僕は貴族になりますよ。」

「その道筋があると?」

「もちろんです。
 そうでなければ動いていません。

 それよりも、あなたはご自分の婚約者に気をつけたらいかがですか?」

「それはどう言う意味ですか?」

「テッドに言われています。
 妹に気をつけろと。

 彼はシャノンをずっと支えている男です。
 だから、僕は彼を信頼しています。

 彼女は蛇のような女性だと言っていました。
 だから、早く結婚してシャノンを彼女から守りたい。」

「テッドもリオノーラを蛇のようだと言っていたのですか?」

「そうですが、何か?」

「僕も彼女は蛇のような女性だと思っています。
 テッドは他には何か言っていましたか?」

「事故の原因はリオノーラでないかと。
 あなたも気をつけた方がいい。」

「わかりました。
 ありがとう。」

 そう言うと、クロード卿はその場を去って行った。





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