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9.プロポーズ
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今日はカミーユ様に誘われて、治療院に来ている。
カミーユ様の勧めで、療養中に運動を頑張っている子供達に会うのだ。
病室には、十人くらいの十才前後の子供達が、椅子に座る私の周りのベッドや敷物の上に横になったり、座ったりして集まっている。
テッドにかかれば、子供達を抱いて移動させるのは容易い。
私が事故に遭い、骨を折り運動を経て、今こうして歩けるようになったことを話すと、子供達は皆興味を持って、瞳を輝かせて色々質問してきた。
私はその一つ一つに丁寧に答える。
「事故に遭った時どう感じましか?」
少女が不安そうに尋ねる。
「事故に遭った時の記憶は無いの。
気がついたら、カミーユ先生が私の顔を覗いていたわ。」
「私の時も一緒。」
「そうなのね。」
「痛かった?」
「ええ、目が覚めたら、とっても痛かったわ。
そして、すぐに誰か助けてって思ったの。
だって、あまりにショックで耐えられないと思ったから。」
「僕も痛いの嫌だし、怖かった。」
「そうよね。
私もとても辛かったわ。」
「私も泣いちゃった。」
「私も同じよ。
その後、運動を始めても痛いし、やりたくないって思うこともあるわ。
自分一人だとすぐに諦めたくなるわよね。
私も嫌になって休んだ時があったの。
そしたらね、カミーユ先生が一緒に運動を頑張ろうって、言いに来てくれたの。
だから、そこにいるお兄さんにも手伝ってもらって、運動を続けたのよ。
だから、みんなにも諦めないでほしいの。
カミーユ先生や助手さん達が、あなた達のことを手助けしてくれるわ。
でも、一番大事なのは自分が頑張ることなの。
だって、自分の身体なんだから。」
「わかった。
僕頑張る。」
「ええ、応援しているわ。
だって、私達仲間でしょ。」
「うん、私達仲間だね。」
子供達は笑顔でお互いに頷き合っている。
ここにいる子供達が、少しでも頑張ろうと思ってくれたら、とても嬉しい。
私も子供達のために何かできたという実感が湧き、満足感を感じた。
子供達に別れを告げて、以前三人で運動を頑張った裏庭を訪れる。
いつものベンチにカミーユ様と並んで座り、その隣にテッドが控える。
「シャノン様、僕久しぶりに走って来ていいですか?」
「ふふ、テッドはここに来ると身体を鍛えたくなってしまうのは、変わらないのね。
ええ、どうぞ。」
テッドは早速走り出す。
それを、カミーユ様と見ている。
「シャノン、さっきの話は子供達に運動に対するやる気を与えたと思うよ。
ありがとう。」
「こちらこそ、子供達と話せて楽しかったわ。」
「実は、君に話があるんだが。」
「何かしら?」
「早速だけど、僕と結婚してください。」
カミーユ様は私に向かって、真剣な表情で手を差し出した。
「ありがとうございます。
私で良ければ。」
私はカミーユ様の手をそっと握る。
嬉しくて、カミーユ様と見つめ合う。
私達、本当に結婚できるのね。
「ありがとう、シャノンと結婚できるなんて、夢のようだよ。
僕は君がいれば、どんなことだって頑張れる。
愛しているよ。」
「私もカミーユ様のことが好きです。
私を受け入れてくれてありがとう。」
カミーユ様は私の身体に腕を伸ばして、優しく抱きしめてくれた。
これまで運動を手助けしてもらって、これに近いことをして来たけれど、こうして正面から抱き合うのは初めてだった。
嬉しい。
私を受け入れてくれる人がいるなんて。
「僕は君を生涯大切にすると誓うよ。
君の心も身体も僕が守るし、支えていくから、何も心配しないで委ねてほしい。」
「ええ、ありがとう。
嬉しいわ。」
「実はね、前に少し話していたけれど、僕は正式に貴族になったんだ。
本当はケンブル侯爵家の血筋なんだけど、医師には必要ないと思っていたんだ。
けれども、これからは、カミーユ・ケンブルと名乗る。
だからと言って、僕は妾の息子だから、当主になるわけではないんだ。
あくまで、貴族だと言うだけで、仕事もこのまま続けるつもりなんだ。」
「そうだったんですね。
貴族になるとは、そう言う意味だったのですね。」
「だから、財産があるわけでも、領地を持っているわけでもない、ただの貴族だよ。」
「私はどんな形でも構いません。
カミーユ様が納得できるお仕事を続けていけるなら。
私はあなたと生きて行きたい。
何よりカミーユ様と出会えた幸運が、私の人生を明るくしたのですから。」
「君はきっと僕と出会えなくても、頑張ったと思うよ。
君はそう言う人だから。
でも、僕にとっては、君と出会えたことは最高の喜びさ。
君と出会えなければ、僕は仕事だけして、人生の楽しみを味わうこともなかっただろう。」
「ふふ、嬉しいわ。」
「ちょっと、僕が少し運動しているうちにどうして二人は抱き合っているんですか?」
テッドが運動を終えて、息を切らしながら二人のところに戻って来た。
「ああ、申し訳ない。
僕達は結婚することが正式に決まったんだ。
テッド、これからは僕もよろしく頼むよ。」
「えー、おめでとうございます。
祝福はしますけれど、僕はカミーユ先生の護衛はしませんよ。
自分の身は自分で守ってくださいね。」
「そこは、ブレないんだね。」
「当たり前です。」
三人は笑顔で笑った。
少し遡る。
カミーユはケンブル侯爵の妾の子として生を受け、父が母を蔑ろにして、母は早くに亡くなったことから、ケンブル侯爵を嫌い、医師として独立して、一人で生きて来た。
病いがちであった母の影響で、医学に興味を持ち、医師として働いていた。
時折、父から侯爵の三男として生きることを促されることがあっても、断固拒否していた。
けれども、シャノンと結婚するには侯爵家の一員であることを公にしなければならず悩んだが、オーティス伯爵の貴族以外は結婚させないと言う意見で、僕は目を逸らしていた現実と向き合うことになった。
僕が忌み嫌っていた貴族の一員であることを受け入れる以外に、シャノンと結婚する方法はなかった。
なので僕は今までの父に抱いていた嫌悪感を押し込めて、侯爵家を名乗ることを受け入れた。
僕がシャノンのために覚悟を決めた瞬間だった。
「お前は結局、私を頼るのだな。」
「はい、父上。」
「なら良い。
女のために、忌み嫌う私を受け入れるんだ。
せいぜい孫を期待しているよ。」
「わかりました。
父上。」
僕は屈辱を感じつつも、父を受け入れる。
本当に大切なもののためならば、それくらい容易いものだ。
貴族でなく、シャノンを諦める未来の方がずっと耐えられない。
僕は生前苦しんだ母の思いより、彼女を選ぶ。
ただそれだけだ。
けれども、心優しい彼女にこの思いを告げることはない。
彼女には、幸せだけを感じていてほしいから。
カミーユ様の勧めで、療養中に運動を頑張っている子供達に会うのだ。
病室には、十人くらいの十才前後の子供達が、椅子に座る私の周りのベッドや敷物の上に横になったり、座ったりして集まっている。
テッドにかかれば、子供達を抱いて移動させるのは容易い。
私が事故に遭い、骨を折り運動を経て、今こうして歩けるようになったことを話すと、子供達は皆興味を持って、瞳を輝かせて色々質問してきた。
私はその一つ一つに丁寧に答える。
「事故に遭った時どう感じましか?」
少女が不安そうに尋ねる。
「事故に遭った時の記憶は無いの。
気がついたら、カミーユ先生が私の顔を覗いていたわ。」
「私の時も一緒。」
「そうなのね。」
「痛かった?」
「ええ、目が覚めたら、とっても痛かったわ。
そして、すぐに誰か助けてって思ったの。
だって、あまりにショックで耐えられないと思ったから。」
「僕も痛いの嫌だし、怖かった。」
「そうよね。
私もとても辛かったわ。」
「私も泣いちゃった。」
「私も同じよ。
その後、運動を始めても痛いし、やりたくないって思うこともあるわ。
自分一人だとすぐに諦めたくなるわよね。
私も嫌になって休んだ時があったの。
そしたらね、カミーユ先生が一緒に運動を頑張ろうって、言いに来てくれたの。
だから、そこにいるお兄さんにも手伝ってもらって、運動を続けたのよ。
だから、みんなにも諦めないでほしいの。
カミーユ先生や助手さん達が、あなた達のことを手助けしてくれるわ。
でも、一番大事なのは自分が頑張ることなの。
だって、自分の身体なんだから。」
「わかった。
僕頑張る。」
「ええ、応援しているわ。
だって、私達仲間でしょ。」
「うん、私達仲間だね。」
子供達は笑顔でお互いに頷き合っている。
ここにいる子供達が、少しでも頑張ろうと思ってくれたら、とても嬉しい。
私も子供達のために何かできたという実感が湧き、満足感を感じた。
子供達に別れを告げて、以前三人で運動を頑張った裏庭を訪れる。
いつものベンチにカミーユ様と並んで座り、その隣にテッドが控える。
「シャノン様、僕久しぶりに走って来ていいですか?」
「ふふ、テッドはここに来ると身体を鍛えたくなってしまうのは、変わらないのね。
ええ、どうぞ。」
テッドは早速走り出す。
それを、カミーユ様と見ている。
「シャノン、さっきの話は子供達に運動に対するやる気を与えたと思うよ。
ありがとう。」
「こちらこそ、子供達と話せて楽しかったわ。」
「実は、君に話があるんだが。」
「何かしら?」
「早速だけど、僕と結婚してください。」
カミーユ様は私に向かって、真剣な表情で手を差し出した。
「ありがとうございます。
私で良ければ。」
私はカミーユ様の手をそっと握る。
嬉しくて、カミーユ様と見つめ合う。
私達、本当に結婚できるのね。
「ありがとう、シャノンと結婚できるなんて、夢のようだよ。
僕は君がいれば、どんなことだって頑張れる。
愛しているよ。」
「私もカミーユ様のことが好きです。
私を受け入れてくれてありがとう。」
カミーユ様は私の身体に腕を伸ばして、優しく抱きしめてくれた。
これまで運動を手助けしてもらって、これに近いことをして来たけれど、こうして正面から抱き合うのは初めてだった。
嬉しい。
私を受け入れてくれる人がいるなんて。
「僕は君を生涯大切にすると誓うよ。
君の心も身体も僕が守るし、支えていくから、何も心配しないで委ねてほしい。」
「ええ、ありがとう。
嬉しいわ。」
「実はね、前に少し話していたけれど、僕は正式に貴族になったんだ。
本当はケンブル侯爵家の血筋なんだけど、医師には必要ないと思っていたんだ。
けれども、これからは、カミーユ・ケンブルと名乗る。
だからと言って、僕は妾の息子だから、当主になるわけではないんだ。
あくまで、貴族だと言うだけで、仕事もこのまま続けるつもりなんだ。」
「そうだったんですね。
貴族になるとは、そう言う意味だったのですね。」
「だから、財産があるわけでも、領地を持っているわけでもない、ただの貴族だよ。」
「私はどんな形でも構いません。
カミーユ様が納得できるお仕事を続けていけるなら。
私はあなたと生きて行きたい。
何よりカミーユ様と出会えた幸運が、私の人生を明るくしたのですから。」
「君はきっと僕と出会えなくても、頑張ったと思うよ。
君はそう言う人だから。
でも、僕にとっては、君と出会えたことは最高の喜びさ。
君と出会えなければ、僕は仕事だけして、人生の楽しみを味わうこともなかっただろう。」
「ふふ、嬉しいわ。」
「ちょっと、僕が少し運動しているうちにどうして二人は抱き合っているんですか?」
テッドが運動を終えて、息を切らしながら二人のところに戻って来た。
「ああ、申し訳ない。
僕達は結婚することが正式に決まったんだ。
テッド、これからは僕もよろしく頼むよ。」
「えー、おめでとうございます。
祝福はしますけれど、僕はカミーユ先生の護衛はしませんよ。
自分の身は自分で守ってくださいね。」
「そこは、ブレないんだね。」
「当たり前です。」
三人は笑顔で笑った。
少し遡る。
カミーユはケンブル侯爵の妾の子として生を受け、父が母を蔑ろにして、母は早くに亡くなったことから、ケンブル侯爵を嫌い、医師として独立して、一人で生きて来た。
病いがちであった母の影響で、医学に興味を持ち、医師として働いていた。
時折、父から侯爵の三男として生きることを促されることがあっても、断固拒否していた。
けれども、シャノンと結婚するには侯爵家の一員であることを公にしなければならず悩んだが、オーティス伯爵の貴族以外は結婚させないと言う意見で、僕は目を逸らしていた現実と向き合うことになった。
僕が忌み嫌っていた貴族の一員であることを受け入れる以外に、シャノンと結婚する方法はなかった。
なので僕は今までの父に抱いていた嫌悪感を押し込めて、侯爵家を名乗ることを受け入れた。
僕がシャノンのために覚悟を決めた瞬間だった。
「お前は結局、私を頼るのだな。」
「はい、父上。」
「なら良い。
女のために、忌み嫌う私を受け入れるんだ。
せいぜい孫を期待しているよ。」
「わかりました。
父上。」
僕は屈辱を感じつつも、父を受け入れる。
本当に大切なもののためならば、それくらい容易いものだ。
貴族でなく、シャノンを諦める未来の方がずっと耐えられない。
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ただそれだけだ。
けれども、心優しい彼女にこの思いを告げることはない。
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