迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた

月山 歩

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3.仕事のお手伝い

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 次の日の朝、ノアナとカリーヌとマーシャは畑で、野菜を収穫している。

 養護院でありとあらゆる家事をして来た二人は、施設に畑があり、野菜を育てることもしていた。

 当たり前のように農作業をする二人を見て、マーシャが感心する。

「たまげたもんだね。
 二人は畑作業もできるのかい?」

「はい、野菜を取って、料理に使っていました。」

 劣悪な環境と何もしない大人のそばで育った二人は、オリオンに助けられて、いつの間にか生活に必要なありとあらゆることができるようになっていた。

 三人で手早く農作業を終えると、荷台を引いて野菜を売りに行く。

 市場の所定の位置に着くと、早速三人は野菜を売る。

 周りの大人達は急に現れた少女二人が一生懸命野菜を売る姿に、野菜を買ってあげたくなる気持ちが込み上げる。

 結局その日は、いつもより野菜は多く売れ完売した。

「こんなに売れたのは初めてだよ。
 このお金で肉を買って帰ろう。」

「はい。」

 マーシャの言葉に、二人は手を叩いて喜んだ。

 二人は家に着くと早速肉料理を作り、おばあさんと三人で食べる。

「ところで、野菜を売っている姿を見て思ったのだけど、二人はお金の計算もできるんだね。」

「はい、オリオンに計算の仕方を教えてもらっていました。
 施設では時々バザーもやっていたんです。」

「すごいねぇ。
 オリオンは何でもできるとても賢い子なんだね。」

「はい、そうです。」

 おばあさんは気づいた。

 自分は二人を助けたいと思って、二人に声をかけたけれど、もうすでにお世話になっているのは自分だと。

 この子達は生きるすべをすでに持っている。

 悪い男に捕まらなければ、きっと二人で生きていけるのだと。

 だったら、何もしてやれないけれど、せめて二人を見守ることはできるし、もうすでにこの子達といることが楽しくて、手放したくない。

「私はもうたいしたことはしてやれないけれど、お二人さんはずっとここに好きなだけでいていいからね。」

 マーシャの言葉に、二人はご飯を食べる手を止める。

「いいんですか?」

 二人は期待に潤んだ瞳をマーシャに向けた。

「いいよ。
 お二人さんがかわいくて仕方がないのさ。」

「ありがとう。」

 二人はマーシャに抱きつき、涙を浮かべる。
 二人を抱きしめるマーシャは、うんうんと頷く。

 二人にとって優しい大人は初めてのことで、オリオンを失って不安に思っていた気持ちが和らいだ。

 マーシャは思う。

 もしこの子達が、何もできない小さな子供なら、年老いた自分では、育てるのは難しかっただろう。

 でもこの子達は、すでに色々な生きるすべを持っているから、そばにいるだけで、自分達で学んで生きていくことができる。

 この子達を、ここまでに指導したオリオンとは一体どんな少年なんだろう?

 私もいつか会ってみたい。
 そして、感謝を伝えたいと思うのだった。




 お手伝いをしながらご飯を食べるのに困らなくなった二人だが、元々貧しいマーシャの家では、それ以外を買う余裕はなかった。

 ノアナは野菜を売った帰り道、屋台の飴が気になった。

「あの飴美味しいのかしら?」

 ノアナはいつもそのお店の前を通ると、チラチラ見ている。

「どうだろうね。
 じゃあ、施設にいた頃のバザーみたいに何か売って、飴を買ってみようか?」

 カリーヌが提案する。

「いいわね。
 売るものは何にしようか?」

「パンを焼くとか?」

「パンは材料を買わないとダメだから、畑にあるもの限定にしよう。」

「そっか、畑にあるものだから、トマトでソースは?
 養護院で作っていたやつ。」

「いいねぇ。
 トマトならたくさんあるし。」 

 二人は家に戻ると早速畑に行って、傷の多い売れ残り易いトマトとソースに合いそうな、野菜を鍋にかけて、コトコト煮込み、いつも食べていたソースを多めに作った。

 それを綺麗に洗った空き瓶に詰めて行く。

「できた。」

「おやおや、お二人さんは何を作ったの?」

「これはソースです。
 売って飴を買おうと思って。」

「そうかい。
 売れるといいねぇ。」

「はい。」



 次の日から、二人は早速トマトソースを売ってみるが、道行く人々は気になって見て行くが、買ってくれる人はいない。

「うーん、どうして売れないんだろう?
 美味しいのに。」

「ここらでは、ソースなんて使ったことないからねぇ。」

「えー、ないんですか?」

 マーシャの言葉にノアナは驚く。

「そうだよ。
 昨日の夜に作ってくれたものを、初めて食べたよ。
 美味しかったね。」

「そう言うことか、食べたことがないのなら、売れないのはしょうがないね。」

「だったら、芋も一緒に売っちゃうのどうかしら?

 トマトソースつきの焼いた芋を売るのよ。
 そしたら、ソースの使い方がわかるよね。」

「いいねえ。
 明日からそれにしよう。」

 二人にとって、ソースをつけて肉や野菜を食べることは、養護院では普通だった。

 オリオンが、養護院に来る前に食べていたものを、ここでも食べたいと言って、試行錯誤して作ったのだ。

 ソースは、貴族の食卓には出るが、一般の民には普及していない。

 何故なら、ソースは料理の過程で、料理人が作るものだから。

 オリオンは、その味に慣れているからこそ養護院に来てからもどうしても食べたくなり作って、みんなにも食べさせていた。

 オリオンの影響はここにもあり、結局ノアナはオリオンを思い出さない日は、一日だって無かった。



 次の日、ソース付きの芋を売っていると、隣の肉串を売っているスペンサーが、

「それ何だ?
 一個ちょうだい」

 と言って来た。

 スペンサーは、売り場が隣同士なため顔見知りになっている。

「はい、どうぞ。」

「これはいいなぁ。
 俺肉ばっかりで飽きてんの。」

「スペンサーさん、肉を焼いているこの端っこの方で芋を焼いていいなら、スペンサーさんには食べ放題にしますよ。」

「本当か?
 芋なら食べたら腹一杯になるから助かるよ。
 ここまでなら芋を焼いていいからな。」

 スペンサーは、焼き網に境界線のように印をつける。

「ありがとう。」

 スペンサーの焼き網で焼いたソース付きの芋は、トマトソースがいい香りを出し、興味深々の人達にどんどん売れていく。

 カリーヌがスペンサーの隣で芋を売り、ノアナは芋を洗って切る。

 お昼時になるほど、どんどん売れて忙しい。

「マーシャ、ごめんなさい。
 野菜を売るのを一緒にできなくて。」

「いいんだよ。
 芋もトマトソースも売れるんだから。
 私が一人で野菜を売るのは、前からだから気にしないで。」

「ありがとう。
 終わったら、一緒に野菜売りをやりますからね。」

「いいんだよ。
 ソースもなくなるから家で作っておいで。」

 マーシャは、この子達が来たのがわずか数日前だとは、とても思えなかった。

 もうあっと言う間にお金を作り出す方法を考えている。

 マーシャは、少女達を見守るのが楽しくて仕方がない。

 こんな幸せが息子が結婚して出て行った後に起こるとは、予想もしていなかった。



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