迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた

月山 歩

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10.それからの二人

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 食事が終わると私達は、今までどうやって生きてきたか話合った。

 その間もオリオンは私を抱きしめ、離さない。

「これから先は僕と離れ離れになるのは絶対にダメだよ。」

「でも私には、育ててくれたマーシャがいるから、彼女を一人にはできないわ。」

「じゃあ、二人で一緒に村に住むかい?」

「オリオンには王宮で貴族としての仕事があるわ。」

「君と離れ離れになるなら、マルロを養子にして、僕は引退するよ。
 そして、ノアナと暮らす。」

「もう、困った人ね。
 マルロは絵描きなのに、貴族の役割を押し付けるのは可哀想よ。

 そのことに関しては、マルロとよく話し合って。
 オリオンの判断に任せるわ。

 私はとりあえずオリオンとのことを、マーシャに報告に行かないと。」

「僕も一緒に行くよ。
 その方にお礼を言わないと。

 ノアナが不幸な目に合わず生きて来られたのは、その方のおかげだから。」

「うん、そうね。
 私達はマーシャに守られて生きて来たわ。

 それに、マーシャはずっとオリオンに会いたいと言っていたのよ。」

「そう言ってもらえると嬉しいね。
 どんな理由で?」

「私達が出会った時から、生きる力があったからだと思う。

 それは、オリオンのおかげだって私達がよく言っていたから。

 マーシャは自分は高齢だし、金銭もほとんどないから、自分は私達のために何もできないって思っていたそうなの。

 それでも、私達に生きる力があるから、一緒に住もうと言ってくれたそうなの。

 高齢になってから一人で二人の少女を育てるのは、大変なことだわ。」

「生きる力って?」

「名前の通りよ。
 あなたが教えてくれた生活のための知恵と、何でも自分達でやらないといけなかった劣悪な環境が私達の生きる力を作ったの。

 だからマーシャと暮らし始めた最初の頃は貧乏だったけれど、金銭を多く稼ぐのにはどうすれば良いのか、二人でいつも考えるのが楽しかったから、心は豊かだった。

 私達に色々教えてくれたオリオンに会いたいってマーシャがよく言ってたから、オリオンが一緒に行けるなら、村までマーシャに会いに行こう。」



 オリオンは、思いが通じたその日から決してノアナを離そうとはせずに、王都で泊まっていた宿を引き払って、ノアナを彼の邸に住まわせた。

 ノアナが少しでもオリオンのそばから離れるのを、極端に嫌うのだ。

 私はあの頃のように、もうここを離れる必要はないから、いなくなることはないのに。

 今はオリオンの寝室の隣に私の新しい部屋を増築中だから、以前彼が作ってくれたパステルカラーの部屋に私は住んでいる。

 彼がせっかく私のために作ってくれた部屋なのだから、もう大人になってしまったけれど部屋を堪能している。

 この部屋に入って思うのは、オリオンにずっと愛されていると言う喜びだ。

 私は小さな頃から養護院に住み、誰かに大事にされた経験はオリオンとマーシャとカリーヌだけ。

 養護院にいた時からオリオンは優しく、私を大切にしてくれていたけれど、再び巡り合った今は、彼の執着心が私を掴んで離さない。

 それでもいいの。

 オリオンの重い愛が、途切れることなく私に向けられていると知って嬉しかったから。

 オリオンのことは私もずっと好きだったし、彼をどうでもいいと思える日は、決して来ないだろう。

 彼といられるなら、私は貴族社会に加わった後、陰口を言われたり、嫌な思いをすることがあっても、きっと乗り越えられるだろう。

 オリオンは私にとって、ただ一人のずっと欲しかった人だから。




 その後私はオリオンと結婚して、名ばかりの侯爵夫人になった。

 すべての侯爵夫人としての雑務は、オリオンと執事がしてくれているようだ。

 私は笑顔でただ彼のそばにいるだけ。

 オリオンは私に、彼と結婚して貴族になったのだからと、色々な雑務を求めることはしない。

 私が興味を持ったら教えてくれるし、希望すればさせてくれるけれど。

 それよりも私に毎日素敵なドレスを着せて、満足そうに見つめるのだ。

 だから社交とは無縁の私は、秘された侯爵夫人と呼ばれていて、夫人同士のお茶会なども皆無である。

 オリオンは、無理に貴族としての社交をする必要はないと思っているそうだ。

 私が会いたい人達とだけ、会いに行けばいいと言ってくれている。

 だから私は、カリーヌが中心となって、ソースを売る商売は続けている。

 いつかピエラに事業を託したいと言うカリーヌの気持ちを優先した結果だ。

 私の分の利益はオリオンが運営する養護院に寄付している。

 オリオンは少女の頃の私の部屋がプレゼントでいっぱいになると、養護院への寄付と運営に力を注いでいたそうだ。

 だからこそピエラと会った時に、最近していなかった個人的なプレゼントを、私の代わりにピエラに贈りたいと思ったそうだ。

 結婚する前、初めて二人でマーシャを訪れた時に、彼女に王都で一緒に住むかと打診してみたら、ピエラが遊びに来てくれるから、今の村にいたいと話していた。

 ピエラは生まれた時から、マーシャと関わっていて、ひ孫同然なのだそう。

 思いが通じたあの日から、私が出かける時は、エスコートしてくれるオリオンがいつもそばにいる。

 彼は私をどんなことがあっても離さず、常に抱きしめ、甘やかすように私の世話をする。

 長く抱いていた彼の私への望みは、それだけだったから。

 けれども私は、ただ彼とそばにいるだけではなく、オリオンに王の側近の役割も果たすように毎日王宮に送り出す。

 彼の有能さも、必要性も私は幼い頃から誰よりも知っているから。

「ノアナ、今日も王宮に行かないとダメなの?」

「そうよ、オリオン。
 ルイス様が、あなたを待っているわ。」

「わかったよ。
 その代わりに行く前にキスして。」

「ふふ、困った人ね。」

 オリオンは私からもキスがほしいと、屈んでキスをねだる。

 私がその思いに応えてキスをすると、彼は満足そうに笑うのだ。

 王宮に送り出す役割を担っているのは、結婚する際ルイス様が、オリオンを村に引き込まないで、王宮に通わせてほしいと仰ったからだ。

 この国にはオリオンの頭脳が必要だし、そして女の私には、一人で過ごす自分磨きの時間も必要なのだ。

 帰って来たオリオンに愛してもらうために。



             完

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