君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version

月山 歩

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11.誕生日その1

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 タイラーが目を覚ますと、部屋は明るく今日も良い天気になりそうな予感がしている。

 こんな日は、マリアとロドルフはまた僕を一人残して、二人で出かけるのだろう。

 僕は二人の間に何かあるのを薄々感じてはいるが、それを口にできないまま、数日が過ぎていた。

 マリアは日が経つにつれて、ますます楽しそうにしている。

 ロドルフは、積極的に運動をして、その様子を見たマリアは、嬉しそうに応援している。

 僕も運動しているけれど、僕の運動はゆっくりで地味だし、周りから見るとやっているように見えないものだから、体を大きく動かすロドルフの運動とは、比べものにもならない。

 僕達の関係は、どうしてこうなってしまったんだろう?
 僕は心がどんどん沈んでいくけれど、どうすることもできない。

 今日はもう、執務さえもしたくないな。

 そんなことを考えていると、マリアが部屋に入ってきた。

 ここ数日ずっと笑顔だったけれど、その中でも一番の笑顔だ。

「タイラー様、おはようございます。
 今日は執務をお休みして、一緒にお出かけしましょう。」

「えっ、どうして?」

「一緒に行きたいところがあるんです。
 ねっ、お願いします。」

「でも、僕は車椅子がないと、どこにも行けないよ。」

「大丈夫です。
 ロドルフが背負ってくれますから。」

「はい、タイラー様お任せください。」

 ロドルフが近づき、笑顔で頷いている。

「それなら、いいけど。」

 急に何なんだ?
 突然の提案に戸惑うが、マリアが望むのなら、僕はできることを精一杯する。

 心がふしくれだっていても、僕の信念は健在だった。

「そしたら、朝食を食べたら出発ですよ。」

「わかった。」

 僕は朝食を終え、着替えをロドルフに手伝ってもらい、車椅子に座らされ、玄関ポーチまで行くと今度は馬車に乗せられる。

 この別邸に来た時、寝たきりだったから、別邸には僕が寝たまま移動できる特別な馬車が用意されている。

「タイラー様、短い距離なら普通の馬車でも大丈夫かもしれませんが、今日は疲れてしまうと思うので、この馬車で行きましょう。」

「わかった。」

 僕は何がなんだかわからないけれど、ほぼもう投げやりで、言われたままにしている。

 もし、心が元気ならば、どこにどのくらいかけて行き、そこで何をするのか、詳しく聞いたかもしれないけれど、もういいや。
 考えるのさえ、億劫だ。

「タイラー様、一時間ぐらいはかかりますので、寝ていても構いませんよ。」

「ああ、じゃあ、そうするよ。」

 馬車に寝たまま乗っていると、馬車の天井しか見えないし、これ以上、仲の良い二人を笑顔で見続ける自信がない。
 僕はゆっくりと目を閉じた。

 すると最近、夜一人で悩み、寝不足だった僕は、馬車に揺られ、静かに眠りについた。




「タイラー様、起きてください。
 行きますよ。」

「わかった。」

 マリアが僕をそっと起こして、優しく声をかける。

 ん?
 何か匂いがする。
 …これは僕が最近不思議に思っていた匂いだ。

 それに、馬車の外から何か繰り返す音がする。
 けれども、それは一定ではなく、不規則でこれは一体何なんだ?

 僕は何がなんだか訳がわからないけれど、もう僕はなすがままだ。

 御者が馬車の扉を開けると、ロドルフが降りて、マリアにさりげなく手を差し出し、馬車から彼女が降りる手助けをする。

 くそっ。
 ロドルフのやつ、マリアの手を握っているじゃないか。
 しかも、自然に。

 いつかきっと、僕もあれができるようになってみせる。

 生きる気力を失いがちな僕ではあったが、やはり嫉妬の炎は消えないんだな。

「さぁ、タイラー様、僕がおんぶします。」

 ロドルフは僕を起こすと、背中に背負う。

「ロドルフ、頑張って。」

 マリアが僕達の横で、ロドルフを笑顔で応援している。

 ロドルフが立ち上がると、彼の背中越しに、一面の青い空と輝く海が見える。
 僕は驚きに目を見開いた。

 多分、これが海なのだろう。
 領地にあるのは知っていたし、本で読んだことがある。
 でも、実際に見るのは初めてだった。

 じっくりと海を眺めていると、ロドルフが砂浜に足を取られ、ふらつく。

「おい、大丈夫か?
 サエモンの方が力なら断然強いだろ?
 交代したらどうだ?」

「サエモンは護衛です。
 タイラー様に何かあった時に、すぐに動けるようにしていないといけませんから。
 僕が落とさないようにしますので、大丈夫です。」

 とは言うものの、ロドルフの足元には白い砂浜なので、歩くたびに左右に揺れて、転ばないか心配になる。

 それでも、ロドルフは慎重に歩を進め、砂浜にぽつんと置かれた椅子に僕を下ろした。

 ようやく座ると、僕はやっと安心して、海を眺める。

「タイラー様、お誕生日おめでとうございます。
 ここにタイラー様をお連れしたかったの。
 どうですか?」

 マリアは嬉しそうに椅子に座る僕と並び、海を眺める。

「海を初めて見たよ。
 とても綺麗だね。」

 実際に目にすると、海は水面がキラキラ輝いてどこまでも広がっているし、不思議な匂いの風が吹き、波が絶えず寄せては返し、その音が心地よく響く。

「ふふ、良かった。
 誕生日のお祝いに、タイラー様と海に来れたら楽しいなと思ったんですよ。」

 マリアの明るい笑顔にすべてを悟り、僕は嬉しくて、胸がいっぱいになり、泣きそうになる。

 そうか、今日は僕の誕生日だったんだ。
 すっかり忘れていた。
 以前は、そんなものに祝う意味も見つけられないでいたから。

 マリアと出会う前は、誕生日を祝おうとするロドルフに嫌な顔をしてしまっていた。

 誕生日は、動けないまま年だけとっていく自分にウンザリする日だったから。

 今はマリアがいて、日々動けるように努力する自分が嫌いじゃない。

 そんな僕の誕生日を祝おうとしてくれるマリアは本当に優しい。

 それにしても、車椅子生活の僕を外に連れ出す計画を立てるのは、かなり大変だっただろう。

 あらかじめ下見をして、人に協力を仰ぎ、段取りだって整える必要がある。

 それでも、マリアはロドルフに頼んで、実現してくれた。
 僕をこんな素敵な海に連れてきてくれるために。

 それなのに僕は、マリアとロドルフの関係を疑い、再び殻に閉じこもろうとしていた。

 マリアが僕を喜ばせようと動いてくれているその時に。

「マリア、連れて来てくれてありがとう。」

「ふふ、実際に背負ったのは、ロドルフよ。
 砂浜を歩けるように運動したのよね。」

「はい、運動の甲斐あって転ばないで歩けました。」

「ロドルフもありがとう。」

「いえ、僕もタイラー様のお誕生日をお祝いできて、嬉しいですから。」

「ねぇ、タイラー様、我慢できないわ。
 私ちょっとだけ、海に入って来ますね。
 はしたないけど許してね。」

 マリアはそう告げると、靴を脱ぎ捨て、海に入って行く。

「大丈夫?」

 僕は心配になり、海に足を入れるマリアに届くように叫んだ。

「平気よ、冷たい。」

 マリアは裸足で波打ち際を歩き、楽しそうに笑っている。

「海って楽しいわ。
 キャー、大きい波よ。」

 マリアはスカートの裾が濡れないように、砂浜の方へ走り、波から逃げている。

「ロドルフとサエモン、マリアの足は見ないように。」

「わかりましたよ。
 もうタイラー様は、相変わらず独占欲が強いですね。」

「だって、マリアが可愛い過ぎるんだよ。
 こんなにはしゃぐ彼女を見たのも初めてだし。

 二人で下見に来てたんだろ?
 本当は腹が立つけど、マリアが計画してくれたから、特別に許してやる。

 今度から、マリアが出かける時にも、護衛が必要だ。
 女性の護衛を探して。」

「えー、難しいことを言いますね。
 探してみますけれど。

 やはり、今回の計画をタイラー様は気づいていましたか?」

「ああ、君達二人から同じ匂いがしていたからね。」

「匂いって?」

「海の匂いだよ。
 潮の匂いって言うのかな。
 ずっと何の匂いだろうと不思議に思っていたけれど、海ってこんな匂いがするんだな。」

「えっ、海の匂い?
 まぁ確かにするような。」

 ロドルフは首を傾げている。
 海を目の当たりにすると、その雄大さと美しさ、波の音や、砂浜に気を取られて、匂いなんて細かいことは気にならないのだろう。

 でも、その海から離れた時、匂いだけが体に残る。
 海って本当にすごいな。
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