君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version

月山 歩

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12.誕生日その2

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 海で遊んでいた笑顔のマリアが、僕のところに駆け寄ってきた。

「タイラー様、とても楽しいわ。
 海は遠くで見ると青く見えるのに、足元の水は透明なのよ。」

「そうなんだ。
 僕も一緒に入りたいな。」

「じゃあ、入りましょうよ。
 椅子をもう少し海の方へ動かせばいいだけだわ。」

「えっ?」

「ね、タイラー様、一緒に入りましょ。」

「うん。」

 僕はマリアに誘われたら、何でもすると決めている。

「ロドルフ、タイラー様の靴を脱がせて、椅子を波の来るところまで動かして。」

「わかりました。」

 ロドルフはマリアの言葉に、何の躊躇もなく従う。

 僕の靴を脱がせ、ズボンを捲ると、サエモンと二人で椅子を両側から持ち上げ、波が引いたのを見計らって、僕の座っている椅子を波打ち際に置くと、二人は走って波の届かないところまで戻る。

「二人共ありがとう。
 タイラー様、波が来るわよ。」

 その瞬間、僕の足元に波が触れ、波は引いたり寄せたりを繰り返す。

 僕は海に浸かる足元を見つめた。

「冷たい、それに確かに水は透明だね。」

「そうでしょ。」

 僕の横に立つマリアは楽しそうに笑っている。

「タイラー様と海で遊べるなんて、本当に嬉しいわ。
 見て、お魚が泳いでいるの。」

「本当だ。」

「こんな浅いところでも見れるのね。
 面白いわ。」

「そうだね。
 泳いでいる魚を初めて見たよ。」

「そうね、私も初めて。
 タイラー様、足が冷えてしまったんじゃない?
 そろそろロドルフ達に砂浜まで連れて行ってもらう?」

「足は冷たいけれど、まだこうしていたい。
 マリア、僕は君と手を繋ぎたい。」

 僕はゆっくりと腕を持ち上げて、マリアの方へ手を差し伸ばす。

「はい。」

 マリアは僕と手を繋ぐと、僕に微笑みながら、海の遠くの方を見つめる。
 僕もその視線を追って、海の彼方へと目を向ける。

 こうしていると、僕達は恋人同士のようだね。

 形式上は婚約者だけど、僕がこんな体でいる限り、マリアを僕に縛りつけることはできない。

 それでも僕は全力で、君との結婚を手に入れる。

 運動を頑張って、歩けるようになって、マリアを絶対誰にも渡さない。

 彼女の手の温もりを感じながら、心の中で誓う。

 君のために声には出さないけれど、大好きだよ。
 いつか君が僕を選んでくれる。
 それを信じて最後まで諦めない。

 だから、こうして時々手を繋ぐことを許してほしいんだ。

「ありがとう、今日は本当に楽しかったよ。」

「うん、タイラー様、嫌がらないで来てくれてありがとう。」

「こちらこそ、また来よう。」

「うん。
 これでタイラー様が色々なところに行けるのはわかったわ。
 これからもどんどん出かける挑戦をしていきましょうね。」

「僕はあんまり動けないから、マリアやロドルフに負担をかけてしまうし、人目のあるところに行ったら、僕がこんな体だから目立ってしまうけれど、一緒にいて嫌じゃないの?」

「えっ?
 確かに私一人では難しいけれど、ロドルフも喜んで手伝ってくれるし、そもそも目立つのは、タイラー様がここの領主であるから、どんな姿であれそれは避けられないわ。

 でも、忘れてるかもしれないけれど、タイラー様は見た目もとても素敵なのよ。

 むしろ、私はどんどん出かけて、みんなに自慢したいくらいよ。
 私の婚約者様ですって。」

「そうか。
 それなら安心したよ。
 これからも一緒に出かけよう。

 でも、一つだけお願いがあるんだけど、できれば計画の段階で僕にも教えてくれると嬉しい。

 サプライズも嬉しいけれど、一緒に計画を立てるのも楽しいと思うんだ。」

「そうね、タイラー様と海に来ることを計画している時、ずっと私はワクワクしていたわ。

 だから、今度からはタイラー様と一緒に考えるわ。」

「うん、ありがとう。
 僕もマリアとワクワクしたい。」

「ふふ、そうね。」




 帰りの馬車に揺られながら、窓から外を見つめると夕陽が空を照らし、オレンジの光が差し込んでいる。

 寝て帰れるはずの馬車だけど、僕は今日の出来事に興奮しているせいか、全く疲れを感じず、壁にもたれて座っている。

 一方、マリアは疲れたようで、丸まりながら眠ってしまった。

 まるで気まぐれな猫みたいだな。
 今日は海に入り、楽しそうに遊んでいたし、僕への誕生日のプレゼントをやり遂げて安心したのか、馬車が揺れても起きる気配はない。

 普段は淑女そのものだけど、元々田舎育ちだし、本来の彼女は活発な女性なんだろうな。

 そんな姿を垣間見せてくれるところも、可愛い。

 僕はゆっくりと手を伸ばし、マリアの髪に触れ、頭を撫でる。

 マリアの髪はこんなにふわふわで柔らかい。
 僕は思わず笑みを漏らす。

「タイラー様、今日は誕生日なので、マリア様の髪に触れても、特別に見なかったことにしてあげます。」

「ありがとう。」

 今日は人生で最高の誕生日だった。
 こんな毎日が永遠に続いたらいいのに。

 そしたら僕はずっと幸せで、マリアのそばにいられる。

「タイラー様、海でマリア様と手を繋いでいた時、すごく手が上がっていましたね。」

「そうだろ?
 最近、マリアとロドルフに置いていかれてたから、ひたすら運動していたんだ。

 でも、マリアと手を繋ぐためだと考えたら、頑張って良かった。」

「そうですね。
 すごく二人は絵になっていましたよ。

 僕とサエモンは、タイラー様がいつまでも帰るのを渋って、椅子に座ったまま、海の中に少しずつ沈んでいくんじゃないかと、気が気でなかったですけれど。

 下は砂ですからね、潮の満ち引きもありますし。」

「さすがに足が冷たいし、そこまではしないよ。
 また、マリアとどこかへ出かける約束もしたから。

 マリアは、車椅子に乗る僕と出かけるのを嫌じゃない、むしろ自慢だって言ってくれたんだ。

 僕はね、どこに行くのにも手がかかるし、目立ってしまうから、嫌がられると思っていて、一緒に出かけたいと自分から言えないでいたんだ。

 なのに今日、その思いは杞憂だと知れて、本当に幸せだよ。」

「その気持ちはわかります。
 そうなると僕は、さらに筋肉を増やさなきゃですね。
 とりあえず、明日は筋肉痛なので、僕は休みます。」

「ああ、いいよ。
 ありがとう、これからも頼むね。」

「はい、タイラー様もマリア様と出会ってから、どんどん前向きに挑戦するようになりましたね。」

「うん、マリアは今日もそうだけど、僕が想像もつかないことを提案するよね。
 でも、それはすべて僕のために考えてくれたことだと思えば、感謝しかない。

 気がつけば、多くの新しい挑戦はマリアの一言から始まっている。

 だから、これからも僕はマリアのやりたいことはすべてやるつもりだ。

 例えば、それで高熱が出て、再びブツブツが出ても、椅子に座ったまま海で溺れても、それで構わない。

 だから、ロドルフもマリアの望む通り、好きにさせてあげて。
 僕はそれで何が起きたとしても、恨んだり、後悔することは決してないから。」

「わかりましたよ。
 僕はタイラー様の気持ちは手に取るようにわかるので。」

「うん、頼んだ。」

 僕はマリアの頭を撫でながら、幸せを噛み締めた。
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