君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version

月山 歩

文字の大きさ
16 / 22

16.ディクソン公爵との調印

しおりを挟む
「ディクソン公爵様、初めてお目にかかります。
 クライトン侯爵家次男タイラーと申します。」

「やっと姿を見せたね、タイラー卿、君はどんな人物なのか、周囲の領主達も知りたがっていたよ。」

 村の広場にタイラー様とマリアが立ち、馬車から降り立つディクソン公爵を出迎えると、早速、彼はタイラー様のところへ歩み寄り、握手を求める。

 その後、タイラー様の姿を上から下まで鋭い目で観察している。

「そう言っていただけるとは光栄ですが、私などただの領主でございます。」

「いやいや、謙遜は無用だ。

 この領地をクライトン侯爵から引き継ぎ、わずか数年でこのように街を栄えさせて、私の領地との差を見せつけてくれたんだ。
 大したものだよ。

 姿を見せないと有名だし、まさかこんな美しい女性を連れて現れるとは、大したものだ。」

 ディクソン公爵は興味深々の様子で、タイラー様の隣に立つ私をじっとりと見ている。

「紹介が遅れましたが、こちらの女性は僕の婚約者であるローレ侯爵令嬢マリアです。」

「ローレ侯爵令嬢か…。
 美人だけど、社交場に一切姿を見せない深窓の令嬢と噂で聞いたことがある。

 なるほど、こんなところに隠していたのか。」

「はい、彼女は僕の大切な女性ですので、公の場に出ることはしませんでした。」

 私は薄らと貴族令嬢らしい笑みを浮かべる。

 本当は妾の子だし、幼い頃から婚約していたから、お父様は私を社交の場に出さないようにしていた。

 けれども、幼い頃から美人だと噂だけは広まっていたのだ。

 だから、カーステン様と会うこともなく、婚約していたのもその噂が理由だった。
 もう、彼とのことは過去だけど。

 私は目立ちすぎると、美人だから逆に困ったことが起こるのだ。
 高位の好色な貴族男性に妾の子だと知られ、自分の妾にと望まれる恐れがあることだ。

 だから、お父様はその事実をなるべく伏せていたし、今はタイラー様が婚約者だと名乗ってくれることで守られている。

 もし、タイラー様が私を手放すようなことがあれば、目の前のディクソン公爵は、すぐにでも私を手に入れようと動き出しそうだ。

 私は彼のような男性がする女性を値踏みする冷徹な目つきがとても怖い。
 女性を狙うハンターのように執拗で、陰険に感じる。

 最近はタイラー様と過ごしているから、このような男性に接する機会がなかった。

 初めてタイラー様に会った時、彼に婚約破棄されたら、民と結婚するか、修道院に入るかの二択しかないと説明した。

 けれど、実際にはそれよりも恐ろしい妾にされるという未来もあったのだ。

 そして、その恐ろしいところは、たとえ民と結婚しても、修道院に入っても、高貴な貴族男性に目をつけられたら、無理矢理連れて行かれる可能性がずっとついて回ることだ。

 私はあえてそのことを、初めて会った時にタイラー様に言わなかった。

 それでも、タイラー様は私が彼の婚約者になりたいと必死に言うようすから、きっと気づいていて、だからこそ、優しい彼は婚約者になってくれたのだ。

 そして、そのことは今も尚、彼と面と向かって話してはいない。

 ディクソン公爵から向けられる鋭い視線に不安になり、横に並ぶタイラー様を見上げると、腕を組んでいた手を解き、手を繋いでしっかりと握り、私を隠すように一歩前に進み、私に笑いかけてくれる。

 まるで、「心配しないで、大丈夫だよ。」と言ってくれているかのように。

 タイラー様は、ディクソン公爵と表向きは穏やかに話している。
 けれども、繋いだ手から彼の優しさがじんわりと伝わって、心が落ち着く。

 ありがとう、タイラー様。
 私を守る優しい手、いつまでもこの手を離さないで。

 あなたは、自分が困難に直面している時でも、私を守ろうとしてくれる。
 それは、出会ったあの頃から、変わらない。

 ベッドに横たわり、体調が悪い時でさえ、私を気遣ってくれたあの頃のままだわ。

 その後、タイラー様とディクソン公爵はお互いに調印し合い、無事に村を譲り受けた。

 帰りの馬車に向かって歩いていると、ディクソン公爵が再び話しかける。

「タイラー卿は、寝たきりから歩けるようになったと聞いた。
 姿を見せないから、もっと歩くのが困難かと思っていたよ。」

「そう思って、この広場を選んだならば、ディクソン公爵はいたずら好きですね。」

「いや、君のことを皆に聞かれるものでね、ちょっとした好奇心だよ。」

「では、皆さんにお伝えください。
 僕はもう至って健康で、このような場所も容易いと。」

「わかった。
 今日、タイラー卿に会って、皆に自慢できる土産話がたくさんできた。
 思いがけずマリア嬢に会えたのも、皆悔しがるだろう。

 ぜひ、夜会を開くから、二人で来ていただきたい。」

「ありがとうございます。
 でも、僕達は王族主催の夜会にしか参りません。

 僕はマリアのこととなると、とても嫉妬深いのです。」

「そうか、これだけの美貌の令嬢と婚約していたら、誰でもそうなるものか。

 二人に会うには、村一つ差し出すぐらいでないと困難だということだね。

 それも皆に伝えておこう。
 では、またいずれかの時に。」

「ディクソン公爵様、またお会いできる日を楽しみしております。」

 そう言って、二人は領地に帰る彼を見送った。

「マリア、大丈夫?
 ディクソン公爵、マリアの美貌のことしか言わないね。

 マリアは目に見える美しさだけでなく、心が一番美しいって言ってやりたかったけれど、ディクソン公爵にいつまでも注目されるのも嫌だろうと思って、あえて黙っていたんだ。

 僕の対応は嫌だった?」

「いいえ、タイラー様、タイラー様は私を大切に思ってくれていることを示してくれたわ。

 私はそれがとても嬉しかった。
 ありがとう。」

「だったら、良かった。
 ここからは僕達の楽しい旅行の続きをしよう。」

「はい、タイラー様。」

 タイラー様と私は、本音を言い合うこともあれば、あえて話し合わないこともある。

 それでも、こうして見つめ合えば、お互いの気持ちが自然と伝わる。

 嫌な思いをするとわかっている話は、無理に言葉に出さなくてもいい。

 美しさゆえに妾にと狙われてしまうことは、声に出すことさえ、躊躇ってしまうことを。

 二人が理解していたら、それでいいのだから。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

[完結]出来損ないと言われた令嬢、実は規格外でした!

青空一夏
恋愛
「おまえなど生まれてこなければ良かったのだ!」そうお父様に言われ続けた私。高位貴族の令嬢だったお母様は、お父様に深く愛され、使用人からも慕われていた。そのお母様の命を奪ってこの世に生まれた私。お母様を失ったお父様は、私を憎んだ。その後、お父様は平民の女性を屋敷に迎え入れ、その女性に子供ができる。後妻に屋敷の切り盛りを任せ、私の腹違いの妹を溺愛するお父様は、私を本邸から追い出し離れに住まわせた。私は、お父様からは無視されるか罵倒されるか、使用人からは見下されている。そんな私でも家庭教師から褒められたことは嬉しい出来事だった。この家庭教師は必ず前日に教えた内容を、翌日に試験する。しかし、その答案用紙さえも、妹のものとすり替えられる。それは間違いだらけの答案用紙で、「カーク侯爵家の恥さらし。やはりおまえは生まれてくるべきじゃなかったんだな」と言われた。カーク侯爵家の跡継ぎは妹だと言われたが、私は答案用紙をすり替えられたことのほうがショックだった。やがて学園に入学するのだがーー これは父親から嫌われたヒロインが、後妻と腹違いの妹に虐げられたり、学園でも妹に嫌がらせされるなか、力に目覚め、紆余曲折ありながらも幸せになる、ラブストーリー。 ※短編の予定ですが、長編になる可能性もあります。

あの日々に戻りたくない!自称聖女の義妹に夫と娘を奪われた妃は、死に戻り聖女の力で復讐を果たす

青の雀
恋愛
公爵令嬢スカーレット・ロッテンマイヤーには、前世の記憶がある。 幼いときに政略で結ばれたジェミニ王国の第1王子ロベルトと20歳の時に結婚した。 スカーレットには、7歳年下の義妹リリアーヌがいるが、なぜかリリアーヌは、ロッテンマイヤー家に来た時から聖女様を名乗っている。 ロッテンマイヤーは、代々異能を輩出している家柄で、元は王族 物語は、前世、夫に殺されたところから始まる。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

[完結]だってあなたが望んだことでしょう?

青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。 アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。 やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー

(完結)私はもう他人です!

青空一夏
恋愛
マリアの両親は平民で、ピナベーカリーというパン屋を経営している。一歳違いの妹ソフィアはピンクブロンドにピンクの大きな瞳の愛らしい女の子で、両親に溺愛されていた。マリアも妹を可愛がっており、幼いころの姉妹仲はとても良かった。 マリアが学園に通う年齢になった頃、小麦粉の値上げでピナベーカリーの経営がうまくいかず、マリアは学園に行くことができない。同じ街のブロック服飾工房に住み込みで働くことになった。朝早く実家のパン屋を手伝い、服飾工房に戻って夜まで針仕事。 お給料の半分は家に入れるのだが、マリアはそれを疑問にも思わなかった。 その1年後、ソフィアが学園に通う年齢になると、ピナベーカリーが持ち直し、かなりパンが売れるようになった。そのためソフィアは裕福な子女が通う名門ルクレール女学園の寮に行くことになった。しかし、ルクレール女学園の学費は高く、マリアは給料を全部入れてくれるように頼まれた。その時もマリアは妹の幸せを自分のものとして捉え、両親の言うとおりにそれを受け入れる。 マリアは家族思いで誠実。働き者なところをブロック服飾工房のオーナーであるレオナードに見初められる。そして、レオナードと結婚を誓い合い、両親と妹と引き合わせたところ・・・・・・ これは、姉妹格差で我慢させられてきた姉が、前世の記憶を取り戻し、もう利用されないと、自分の人生を歩もうとする物語です。

たのしい わたしの おそうしき

syarin
恋愛
ふわふわのシフォンと綺羅綺羅のビジュー。 彩りあざやかな花をたくさん。 髪は人生で一番のふわふわにして、綺羅綺羅の小さな髪飾りを沢山付けるの。 きっと、仄昏い水底で、月光浴びて天の川の様に見えるのだわ。 辛い日々が報われたと思った私は、挙式の直後に幸せの絶頂から地獄へと叩き落とされる。 けれど、こんな幸せを知ってしまってから元の辛い日々には戻れない。 だから、私は幸せの内に死ぬことを選んだ。 沢山の花と光る硝子珠を周囲に散らし、自由を満喫して幸せなお葬式を自ら執り行いながら……。 ーーーーーーーーーーーー 物語が始まらなかった物語。 ざまぁもハッピーエンドも無いです。 唐突に書きたくなって(*ノ▽ノ*) こーゆー話が山程あって、その内の幾つかに奇跡が起きて転生令嬢とか、主人公が逞しく乗り越えたり、とかするんだなぁ……と思うような話です(  ̄ー ̄) 19日13時に最終話です。 ホトラン48位((((;゜Д゜)))ありがとうございます*。・+(人*´∀`)+・。*

処理中です...