妻が通う邸の中に

月山 歩

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7.その後の僕達

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 次の日僕は、ニヤニヤを収めながら、王宮にいる。
 早速気になるのか、マーカスが声をかけてくる。

「リカルドどうした?
 やたら、機嫌がいいなぁ。」

「わかるか?」

「いや、みんなわかるから。」

「じゃあ、僕が内緒にするなんて、できなかったんだな。
 嬉しくて、仕方がない。」

「イライザ夫人、浮気してなかったんだろ?
 そんな気がしていたよ。
 イライザ夫人がリカルドを見つめる目は、リカルドのことが大好きだって、誰からもわかるから。」

「そうなんだよ。
 イライザが浮気をしていなくて、その上、僕達は、僕にそっくりの子を手にしたんだよ。」

「は?
 言っている意味がわからない。」

 僕は周りの者に聞こえないように声をひそめて、マーカスを個室に連れて行き、説明する。

「父が内緒で、妾に子供を産ませて、亡くなってしまったから、イライザが内緒で育てていたんだ。」

「いや、それ普通にまずいだろ?
 キャサリン夫人どうするんだよ。」

「そうなんだよ。
 それが、最大でただ一つの問題なんだ。

 今オスカーは、父の別邸にいるけど。
 あっ、その子はオスカーって言うんだけど。
 そのオスカーを僕達は、邸に連れて来たいんだ。

 イライザも僕もオスカーと離れて暮らしたくないし、将来的に僕の後継にするには、教育も必要だから、ただ息子にするだけじゃダメなんだ。」

「そうだよな。
 リカルドのところは、歴史ある侯爵様の家系だもんな。」

「いや、マーカスもだろ?」

「ああ、そうだな。
 何となく染み込ますみたいに、教えているな俺も。
 その子何歳?」

「四歳。
 すごいだろ、僕の父。
 僕らが子供を諦めたその年に作ったんだよ。
 今でも信じられない。」

「四歳か、かわいいんだろうな。」

「ああ、水色の瞳がクリクリしてて、本当にかわいい。
 イライザはもうすっかり母で、オスカーから無理に離したら、一生恨まれそうな勢いだよ。」

「その気もないくせに。
 リカルドも、顔が緩んでる。」

「はは、わかるか。
 決めた。
 悪いが、僕は母より、イライザをとる。
 母は領地の別邸に移ってもらう。
 一緒に住んだら、オスカーに悪影響だ。
 父の子なんて、絶対に認めるはずがない。

 しばらくたって、僕とオスカーがもう少し似なくなったら、いずれ紹介するかもしれない。」

「キャサリン夫人は気の毒だけど、それが一番平和だよ。」




 僕は、母に頭を下げて、領地の別邸に移ってもらった。

 母は終始、怒ったり、泣いたり、何とか僕の意思を変えようとしたけれど、僕はもうそれに関しては、鬼になるつもりだ。

 母には、感謝しているけれど、僕はイライザを失いそうになった時に決めたんだ。
 イライザを失うぐらいなら、何でもすると。

 イライザの心をオスカーはガッチリ掴んで、もう二人はイライザ様とオスカーと言う関係から、お母様とオスカーになり、僕がいない時はべったりだとライナスが言っていた。

 けれども、イライザは僕がいる時は、僕を優先するし、僕もお父様と呼ばれて、嬉しい。

 ただ一つの懸念は、オスカーが身体が弱いと言うこと。
 イライザが一人で見ていた時、医師の診察を受けるために、イライザの金銭はすべて無くなったそうだ。

 そのことを、ノーマン医師は心配して、僕に相談するように、説得していたらしい。
 僕が見たのは、そのやり取りの一部だったそうだ。
 それでも、イライザはオスカーが心配だと父との約束を守り、一人で育てた。

 早くわかれば、イライザにそんな思いはさせなかったものを。
 かかった金銭はすべてイライザに戻した。
 元々は、父のせいなのに、イライザは優し過ぎる。

 母が別邸に移ると、邸の僕達側を改築して、オスカーを邸に連れて来た。

「リカルド様、あなたが庭園を拡大してくれたおかげで、オスカーはのびのびと遊べるようになりましたわ。
 ありがとうございます。」

「いや、オスカーが元気になってくれれば、それでいいよ。」

「リカルド様は出会った日から、いつでも優しいですわ。
 私はリカルド様が、大好きです。」

「ありがとう、僕も愛しているよ。」

 今僕達は二人の寝室で、語り合う。

「リカルド様、これで少しずつでも、オスカーが健康になってくれれば良いのですが。」

「それはしばらく様子を見よう。
 イライザはオスカーのどんなところが好きかい?」

「一番はリカルド様にそっくりなところです。

 きっといくら親族の者を養子にもらっても、これほどリカルド様に似た子に、出会えなかったでしょう。

 だから、お母様には申し訳ないけれど、私はお父様とお相手の方に感謝しているのです。

 リカルド様ではなく、私に先に会わせてくれたこともすべて。

 そして、私達のために、お母様を領地に送ってくれたリカルド様にも、感謝しています。

 そうでなかったら、オスカーをこの邸に連れて来られなかったでしょう。

 私は、お母様には悪いけれど、オスカーを悪意から、守りたかった。」

「ああ、わかっているよ。
 そのために、僕にまで内緒にしていたんだから。

 僕はね、君を失うんじゃないかと、あの邸に向かった時、すごく怖かったんだ。
 だから、今度から絶対に僕に秘密を作らないで。

 僕の中では、オスカーと出会えて嬉しいって気持ちだけじゃなく、君を失いたくないって強く思った事件だったんだ。」

「ごめんなさい、リカルド様。
 でも信じて。
 私はリカルド様を好きだと思わない瞬間は、まだないの。

 それほど、リカルド様を愛してる。
 リカルド様が初めて私に話かけてくれたあの日から。

 オスカーと出会えたのも、リカルド様がいたからだし、出会った瞬間からオスカーを愛おしく思えたのも、リカルド様に似ているからだわ。」

「ありがとう。
 僕は母となったイライザに会えて、オスカーに感謝しているんだ。
 どんなイライザも変わらず愛してる。」

 そう言って僕達は、一つになる。





 その数年後、母を再び邸に呼び戻した。

 その頃には、母は認知症状があり、イライザに会っても、オスカーにあっても、誰かわからないようだったから。

 なのに、僕だけはわかるらしい。
 僕を見つけると、パッと笑顔で迎えるから。

 だから、僕は再び母のいる棟に顔を出して、一緒にお茶を飲んでいる。
 何故なら、オスカーを可愛がるイライザを見ていて思うのだ。

 母も僕をこのように愛してくれていたと。

「リカルド、旦那様は、今日こそ帰って来るかしら?」

「どうだろうね。
 仕事が忙しいって言っていたから。」

「まあ、旦那様はいつも仕事、仕事って。
 私達を待たせてばかりだわ。」

「そうだね。
 もう少し待とうか。」

 繰り返えされる二人の会話は、僕が少年だった頃のものだ。
 母の中で時は止まっている。
 それでも、母と僕は繰り返す、母がその日を忘れる日まで。




                完








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