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4 彼には諦めて貰うしかないわね
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「我が侯爵家も商会を持ってはいるので本来なら実家の商会を勧めるべきなのでしょうが、王女殿下のクラスメイトとしてそれは避けたいのですわ。
ですのでメイズ伯爵家の商会をお勧めいたします。メイズ伯爵家でしたら国内外幅広く商いを行っております。跡取りである令嬢も二学年の特別クラスに在籍していますし──」
ルーベルム侯爵家の商会を勧めなかったことは評価するが、スカーレットは意外に思った。
ビアンカは何か思惑があって自分に近付いたと踏んでいたからだ。
おまけにビアンカはグレイに贈るのに適したお勧めの商品を二つ挙げたのだ。
そこまでアドバイスしておいて他の商会を勧める理由は、スカーレットの考えすぎだったのか、その商品に何かがあるのかの二択だ。
「そうなのね。参考にさせていただくわ」
どちらであるのかはそのうちわかるだろう。
スカーレットはあちらから近付いてきたビアンカとの交流を皮切りに、その後もめぼしい特別クラスの生徒をランチに誘うと、不自然に思われない程度に言葉巧みに情報を収集していった。
その中のひとつがシアンの婚約者であるキャナリィ・ウィスタリア侯爵令嬢についてだった。
彼女の名はあらかじめ知ってはいたが、グレイのことならともかく未婚の貴族令嬢の身辺の調査を理由もなく行うわけにはいかなかったため、スカーレットの手元に彼女の情報はないに等しかったのだ。
シアンが貴重な学園生活最後の一年を婚約者と過ごすために、三年かけて学ぶべき内容を二年という驚異の期間で履修して帰国したのは通っていた学園では有名な話だった。
そしてその話はシアンの婚約者への溺愛エピソードとしてこの学園でも知られた話であったため、シアンの留学先で共に過ごしたスカーレットは自然な形で彼の話を振ることが出来たのだ。
そしてそれは特別クラスの生徒にスカーレットがシアンを「気にしている」という心証を与えるには十分だった。
そしてその日もスカーレットは情報収集のため、数人の令嬢とお茶会を開いていた。
「ウィスタリア侯爵令嬢といえば卒業祝賀パーティーで平民に冤罪をかけられておいででしたわ」
「その時シアン・フロスティ公爵令息が颯爽と現れたのです──」
「そうそうあの時はお兄様のジェード・フロスティ公爵令息も卒業生としておいででした。私、あのお二人が揃って居られるところを初めて拝見いたしましたがとても眼福でしたわ」
その風景を思いだしているのかおもむろに目を閉じる令嬢たち。
しかしスカーレットはその言葉を聞き逃さなかった。
「平民に冤罪?」
スカーレットが問うと、令嬢の一人が説明してくれた。
「そうなのです。その平民はジェード・フロスティ公爵令息に恋慕していたようなのですが、彼の方の婚約者がウィスタリア侯爵令嬢と勘違いしていたようで冤罪を──と言ってもとてもお粗末なものでしたけれど。そして件の平民は卒業祝賀パーティーの途中で退席してそのまま退学になってしまわれましたわ」
「平民が侯爵令嬢に冤罪を着せて退学で済んだと?」
「そうですの。ウィスタリア侯爵令嬢が過剰な罰を望まず、先んじて王太子殿下にも口出し無用でとお願いしておられたらしいですわ」
「ウィスタリア侯爵令嬢のことですもの。何かお考えがあったのだと思います」
「ですが次期公爵夫人として『甘すぎる』という声が多く上がっているのも事実ですわ」
スカーレットは驚いた。平民が貴族に冤罪を着せて生きていることに。
しかも今年度の初めは他国の公爵家の子女を巻き込んだ外交問題が起きたものの要点をすり替え、それを握り潰したというではないか。
これに関しては他国の貴族が関与しているため令嬢たちの口も堅かった。しかし握りつぶしたと言ってもきちんと報告は上がっているし、学園内でのことだからと当事者の家同士の話し合いで決着がついているらしい。
王家も敢えて外交問題にしたくもないため見て見ぬふりをしたという。
そしてそちら関しては大事にならぬよう収めてくれたと好意的な意見も多いようだった。
それに関しては他国の問題であるためスカーレットがとやかく言う権利はないが──平民を許したことはあり得ない。
その場にいたというグレイの対応も。
シアンを筆頭にフロスティ公爵家やウィスタリア侯爵家の力も何らかの形で働いているかもしれないが、どちらにせよスカーレットはキャナリィの貴族としてあり得ない采配に疑問を持たずにはいられなかった。
守られ、甘すぎるキャナリィは次期公爵夫人に向いていない。
学園の生徒からは『優しい』と好意的にみられているようだが、それだけでは貴族社会のトップに君臨する公爵夫人など無理だ。
その優しさ、甘さが仇となり他意のある者にいいように利用される可能性もあるからだ。
その点王太子妃や王妃は高位貴族の夫人・令嬢の側近を持つことになるため他意のある者が近寄る隙もない。
そして本人が優しかろうと甘かろうと苦手なことは回りの人間がフォローする。側近次第では本人がきれいなままでも成り立つのだ。
だからと言って誰でもがなれるわけではなく、外交で王太子や国王の隣に立てるだけの教養と貴族に慕われる素養がなければ務まらない。──正に、あつらえ向きではないか。
そう、スカーレットはキャナリィをグレイの妃にするつもりでいた。
勿論側近としての役目はシアンの妻となったスカーレットが担う心積もりだ。
スカーレットがキャナリィに変わりシアンの妻となっても王太子妃という選択肢があればウィスタリア侯爵も納得するに違いないのだ。スムーズに婚約解消も行われるに違いない。
(彼女にはフロスティ公爵令息をわたくしに譲り、グレイ王太子殿下に嫁いでもらいます)
それこそがスカーレットがこの国に留学して来た目的であった。
シアンがキャナリィに並々ならぬ想いを持っていることは留学中の彼の言動で察することができた。
が──
(申し訳ないけど彼には諦めて貰うしかないわね)
スカーレットは自身の立てた計画に満足げにほほ笑んだ。
ですのでメイズ伯爵家の商会をお勧めいたします。メイズ伯爵家でしたら国内外幅広く商いを行っております。跡取りである令嬢も二学年の特別クラスに在籍していますし──」
ルーベルム侯爵家の商会を勧めなかったことは評価するが、スカーレットは意外に思った。
ビアンカは何か思惑があって自分に近付いたと踏んでいたからだ。
おまけにビアンカはグレイに贈るのに適したお勧めの商品を二つ挙げたのだ。
そこまでアドバイスしておいて他の商会を勧める理由は、スカーレットの考えすぎだったのか、その商品に何かがあるのかの二択だ。
「そうなのね。参考にさせていただくわ」
どちらであるのかはそのうちわかるだろう。
スカーレットはあちらから近付いてきたビアンカとの交流を皮切りに、その後もめぼしい特別クラスの生徒をランチに誘うと、不自然に思われない程度に言葉巧みに情報を収集していった。
その中のひとつがシアンの婚約者であるキャナリィ・ウィスタリア侯爵令嬢についてだった。
彼女の名はあらかじめ知ってはいたが、グレイのことならともかく未婚の貴族令嬢の身辺の調査を理由もなく行うわけにはいかなかったため、スカーレットの手元に彼女の情報はないに等しかったのだ。
シアンが貴重な学園生活最後の一年を婚約者と過ごすために、三年かけて学ぶべき内容を二年という驚異の期間で履修して帰国したのは通っていた学園では有名な話だった。
そしてその話はシアンの婚約者への溺愛エピソードとしてこの学園でも知られた話であったため、シアンの留学先で共に過ごしたスカーレットは自然な形で彼の話を振ることが出来たのだ。
そしてそれは特別クラスの生徒にスカーレットがシアンを「気にしている」という心証を与えるには十分だった。
そしてその日もスカーレットは情報収集のため、数人の令嬢とお茶会を開いていた。
「ウィスタリア侯爵令嬢といえば卒業祝賀パーティーで平民に冤罪をかけられておいででしたわ」
「その時シアン・フロスティ公爵令息が颯爽と現れたのです──」
「そうそうあの時はお兄様のジェード・フロスティ公爵令息も卒業生としておいででした。私、あのお二人が揃って居られるところを初めて拝見いたしましたがとても眼福でしたわ」
その風景を思いだしているのかおもむろに目を閉じる令嬢たち。
しかしスカーレットはその言葉を聞き逃さなかった。
「平民に冤罪?」
スカーレットが問うと、令嬢の一人が説明してくれた。
「そうなのです。その平民はジェード・フロスティ公爵令息に恋慕していたようなのですが、彼の方の婚約者がウィスタリア侯爵令嬢と勘違いしていたようで冤罪を──と言ってもとてもお粗末なものでしたけれど。そして件の平民は卒業祝賀パーティーの途中で退席してそのまま退学になってしまわれましたわ」
「平民が侯爵令嬢に冤罪を着せて退学で済んだと?」
「そうですの。ウィスタリア侯爵令嬢が過剰な罰を望まず、先んじて王太子殿下にも口出し無用でとお願いしておられたらしいですわ」
「ウィスタリア侯爵令嬢のことですもの。何かお考えがあったのだと思います」
「ですが次期公爵夫人として『甘すぎる』という声が多く上がっているのも事実ですわ」
スカーレットは驚いた。平民が貴族に冤罪を着せて生きていることに。
しかも今年度の初めは他国の公爵家の子女を巻き込んだ外交問題が起きたものの要点をすり替え、それを握り潰したというではないか。
これに関しては他国の貴族が関与しているため令嬢たちの口も堅かった。しかし握りつぶしたと言ってもきちんと報告は上がっているし、学園内でのことだからと当事者の家同士の話し合いで決着がついているらしい。
王家も敢えて外交問題にしたくもないため見て見ぬふりをしたという。
そしてそちら関しては大事にならぬよう収めてくれたと好意的な意見も多いようだった。
それに関しては他国の問題であるためスカーレットがとやかく言う権利はないが──平民を許したことはあり得ない。
その場にいたというグレイの対応も。
シアンを筆頭にフロスティ公爵家やウィスタリア侯爵家の力も何らかの形で働いているかもしれないが、どちらにせよスカーレットはキャナリィの貴族としてあり得ない采配に疑問を持たずにはいられなかった。
守られ、甘すぎるキャナリィは次期公爵夫人に向いていない。
学園の生徒からは『優しい』と好意的にみられているようだが、それだけでは貴族社会のトップに君臨する公爵夫人など無理だ。
その優しさ、甘さが仇となり他意のある者にいいように利用される可能性もあるからだ。
その点王太子妃や王妃は高位貴族の夫人・令嬢の側近を持つことになるため他意のある者が近寄る隙もない。
そして本人が優しかろうと甘かろうと苦手なことは回りの人間がフォローする。側近次第では本人がきれいなままでも成り立つのだ。
だからと言って誰でもがなれるわけではなく、外交で王太子や国王の隣に立てるだけの教養と貴族に慕われる素養がなければ務まらない。──正に、あつらえ向きではないか。
そう、スカーレットはキャナリィをグレイの妃にするつもりでいた。
勿論側近としての役目はシアンの妻となったスカーレットが担う心積もりだ。
スカーレットがキャナリィに変わりシアンの妻となっても王太子妃という選択肢があればウィスタリア侯爵も納得するに違いないのだ。スムーズに婚約解消も行われるに違いない。
(彼女にはフロスティ公爵令息をわたくしに譲り、グレイ王太子殿下に嫁いでもらいます)
それこそがスカーレットがこの国に留学して来た目的であった。
シアンがキャナリィに並々ならぬ想いを持っていることは留学中の彼の言動で察することができた。
が──
(申し訳ないけど彼には諦めて貰うしかないわね)
スカーレットは自身の立てた計画に満足げにほほ笑んだ。
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