【完結】憧れの異世界転移が現実になったのですが何か思ってたのと違います

Debby

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第一章 憧れの異世界転移です・編

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「・・・あれ?」

 アラームの前に目が覚めたのはいつぶりだろう。
 まだ室内は薄暗く、起きたばかりの目は良く見えない。

(何時頃かな?)

 そう思って、私は目を閉じたまま枕の下に入れている筈のスマホを手探りで探す。
 アラームの時間まで三十分以内なら諦めて起きる。三十分以上なら二度寝。
 それが私のルールだ。
 昨日は変な夢を見たからかな、なんか疲れた・・・。

(・・・私の枕ってこんなに柔らかかったっけ?)

 ちゃんとした枕屋さんで合わせてもらい、大枚はたいて購入したお気に入りの枕の感触ではない。
 スマホが手に触れない上に、ちょっと枕に違和感を覚え、仕方なく目を開けて起き上がる。
 目が慣れてきたみたいで徐々に回りが見えてきた。

 回りを見ると見慣れぬ部屋で、見慣れぬデザインのベッドが五つ。
 下を見ると寝ていたのも見慣れぬベッドで、着ているのは見慣れぬ寝間着。そして目に入るのは見慣れぬ小さい手──って、身体が縮んでる!?

「か、鏡っ」

 部屋の中をもう一度ぐるりと見回すが、鏡は見当たらない。

「あ、そうだ」

 私は起き抜けなのでボサボサであろう自分の髪の毛に二、三度手櫛をかけると、自分の前に持ってきて髪色を確認した。

「赤い──」っていうか長い。

 ということは、だ。
 この髪色に物凄く心当たりがある私はベッドから飛び降りると勢いよく窓を開けた。
 そこには思った通り見慣れた日本の景色とは全く違う、夜明けを迎えたばかりの美しい異国の街並みが広がっていた。

 間違いない。

「い、異世界転移だ・・・」





「あら、目が覚めたのね」
「ひっ!」

 昨日の盗賊さんのアジトお宅なら不味いと、そっとドアを開けて部屋の外に出ると後ろから声をかけられた。恐る恐る振り向くと、二十代後半くらいの女の人が立っていた。茶色い髪を一つに束ね、鶯色の三角巾と白いエプロンの優しそうな人だ。
  
(昨日の盗賊じゃ・・・ない?)

 私があからさまにホッとしたのが伝わったのか女の人はニコッと笑うと「こっちにいらっしゃい」と言って、前の世界でいうところのダイニングに案内してくれた。促されるまま椅子に座ると、目前にホットミルクが置かれる。

「初めまして。私、ミモザっていうの。ここはエルナトの街の治療院で、あなたは街道で倒れたところをここに運ばれて来たのよ。──あなた、お名前は?」

 治療院?
 なんでここにいるのかは分からないけれど、倒れ──ではなくて倒れと言われたことで、昨夜の出来事が事実だったのだとわかりゾッとする。

「え・・・名前?」

 山下星良です──なんて名乗って良い筈がない。明らかに異質だもの。
 セイラ・ヤマシタ?
 いやいや、平民に名字がない設定とかもよくあるし、本名を名乗らない方が良いというパターンも・・・なんか格好いい名前も考えておけば良かった!
 えっと、このお姉さんの名前のミモザって名前、確か南十字星のどれかの星の名前だよね。なら私は乙女座だからそこから頂こうかな?確か・・・

「スピカ・・・だったような?」
  
 あ、思わず声に出して言ってしまった。
 しかしミモザさんは私の怯えた様子と自信のなさそうな感じをなにか勘違いしてくれたようだ。

「スピカちゃん?どこから来たか覚えてる?」
と、質問の仕方が『個人情報の聴取』から『記憶の確認』の様な響きに変わった。

 私はそれに思いっきり乗っかることにして首を横に振った。

「わかりません・・・」
  
 嘘ではない。
 ここが異世界らしいことは分かるけど、日本がどこにあるなんてわからない。身体も縮んでいることは分かるけど、年齢も、なんなら鏡を見てないから顔だって分からない。
 この街のこともこの世界のことも、言葉は通じるようだけど文字の読み書きが出来るかは謎だし、この世界のトイレ事情や通貨のことまでな~んにも分からないのだから。
 そのことを不自然に思われないようにするのに、コレに乗っかる以外の選択肢があるだろうか。

 いや、無い。

 私の反応を見てミモザさんはとても気の毒に思ってくれたようで、色々励ましの言葉を掛けてくれた後「先生を呼んでくるわね」と言って出ていった。
 その様子に罪悪感が半端ないけど・・・

(嘘じゃ無いけど、嘘なんデス。ゴメンナサイ)

 閉まった扉に向かって頭を下げた。



 さて、ミモザさんが戻ってくる前に状況の整理をしておこう。
 私、山下星良、日本人──改めスピカ、年齢不詳。まだ鏡は確認していないけど、身体が縮んでいるから前の世界と同年齢はあり得ないだろう。口をついて出てしまったおかげでこっずかしい名前になってしまったけれど、ウン十代で黒髪の私よりはしっくりくるであろうことを切に願う。

 実は何でこうなっているかには心当たりがある。
 前の世界で、ファンタジー好きが高じて真剣に考えて作った『異世界でやってみたい50のこと』のリストだ。
 確かその一番に最初に書いたのが『★異世界転移をしてみたい』だったんだよね。そして、『★転移の拍子にちょっと若返りたいし、赤い髪色になってみたい』って書いたの。
 髪は赤いし身体も縮んでいるみたいだし、今回の出来事はやっぱりあのリストが関係しているのかも知れない。
 因みに事故に遭った記憶も無ければ過労死するような働き方もしていない。もちろん神様に会ったりもしていないけど、だからって真夜中の街道、盗賊と至近距離に転移なんて誰かの悪意としか思えなかった。



 しばらくすると、年配のお医者さんらしき人とミモザさんがダイニングに入ってきた。
 そういえばミモザさんがここは「治療院」だと言っていたな。だから目覚めた部屋にベッドが沢山あったのか。

「やあ、おはよう。スピカちゃんって呼んでもいいかな。調子はどうだい?」

 先生はミモザさんから私の記憶が曖昧のようだと聞いているようで、私が元気だとわかるとまずは今の状況を話してくれた。

 まず、昨日の盗賊は無事に捕まったので安心していいということ。
 私はその討伐依頼で盗賊を待ち伏せていた冒険者さんによって治療院に運ばれてきて、現在に至るとのこと。
 夜中だったということもあり、外傷もなく眠っているだけのようだったため入院患者用のベッドで休ませてくれたらしい。
 ただ、何故か周囲に荷物らしきものもなく、人の気配もなかったと気の毒そうに教えてくれた。

 身一つで転移してきたのだ。荷物ははじめから無かったのだけど、それを一緒に旅をしていた人たちに身一つで置き去りにされたと思われてしまったらしい。申し訳ないけど説明できないから誤解も解けない。

 それにしても森からスタートで魔獣に襲われなくても、盗賊に捕まっていたら私の人生詰んでたよね。
 助けてくれたあの冒険者さんに感謝!命の恩人だし、いつか会った時にお礼を・・・と思ってその冒険者さんの名前を聞いたけど本人がお礼はいらないから名前は伏せておいてくれと言われたらしい。謙虚な人だ・・・いや、逆に怪しさ満載だから拘わりたくないと思われたのかも知れない。

 その後も診察と聞き取りは続いたけれど、転移モノでよくある「遠い東の国から来たんです」っていうのは、実際にその国の事を知っている人に会ったときに誤魔化せる気がしないし、この国の東に何があるのかも知らないので、全て日本人の天下の宝刀「記憶にございません」で凌ぐことにした。
 その結果、名前と言葉以外の生活する上での情報常識がすっぽり抜け落ちていることになってしまった。いわゆる記憶喪失設定だ。
 そのためラッキーなことに、私を心配した先生がしばらくここにいて良いと言ってくれたのだ。勿論、遠慮なくお世話になることにした。
 あのリストが私の今の状況に何かしら関係しているとしても、お金に関しては何も書いていないので当然文無しなのだ・・・。

 盗賊の出現場所にのは一歩間違えば命の危険もあったけど、結果から言えば手ぶらで旅行していましたと言う不自然さから怪しまれることも無かったので良かったのかなと思うことにした。
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