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薬屋キュウ屋
第35話 さて置いたはずでは
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パチパチと燃える火を見た後、光太朗はちらりと隣のリーリュイを見た。彼はこちらを凝視しており、逃げ場はない。
「さて置いた」話は、さて置いたままでは済まなかった。
レーションを食べ終わって落ち着いた光太朗に、リーリュイは真剣な眼差しと共に問うてきたのだ。
3年前のことを問い詰められ、光太朗は深くため息をつく。
「リュウ。何度も言うが……詳しいことは話せない。ほんと、ごめん」
「……」
(また無言で返してくる……。言うまで続けるつもりだろ、この無言の圧力……)
リーリュイは深く追求しないが、目で訴えてくる。
澄みすぎて直視できない双眸に見つめられると、嘘もつけない。
しかしウィリアムの事を、リーリュイに相談することは出来ない。彼が巻き込まれる事だけは避けたい。
リーリュイは、出世の道に乗った希望溢れる騎士だ。ウィリアムに目を付けられ、出世の道を絶たれては困る。
光太朗はリーリュイの視線を感じながら「あ、そうそう」と立ち上がった。我ながら不自然な打ち切り方だとは思うが、仕方がない。
光太朗はカウンターの引き出しを開けると、そこから金貨を取り出した。
あの日、魔導騎士団長から貰った金貨だ。それを握りしめて、光太朗はソファへと戻る。
「リュウ。あんた団長と会えたりする?」
「……? なぜそんな事を聞く?」
リーリュイに金貨を突き出し、光太朗は口を開いた。
「これ、団長に返せない? こないだ貰ったんだけどさ……俺、こういうのが一番嫌いなんだよ」
「……」
目を見開いているリーリュイを見て、光太朗は胸中でガッツポーズをした。上手く話を逸らせそうだ。
光太朗は咳ばらいをして、リーリュイの手に金貨を握りこませた。
「フェンデだからって蔑まれるより、情けを掛けられるのが一番不快だ。団長って王族なんだろ? この国の王族って良いイメージ無いんだよな」
「……そ、そうか……」
「うん。……世話になった孤児院も、国のせいで色々大変な思いしてて……。とにかく、こんな施しはいらないって、返してほしい。どうせフェンデになんて会ってくれないだろうから……」
リーリュイがゆっくり頷くのを見て、光太朗も満足げに頷いた。ここでもう一手、ダメ押しする。
光太朗は窓の外を見て、大げさに驚いた。
「リーリュイ! もうこんなに暗い! 兵舎の門限は何時なんだ?」
「外泊届を出していないのであれば、夜鐘(やしょう)が鳴る前に部屋へ戻っておく必要がある」
「夜鐘っていえば、22時だな。もう戻らないと駄目だろ」
店の時計は、もう21時半を差していた。この世界も一日は24時間で区切られる。
毎日、7時、12時、17時、22時に役所が鐘を鳴らすのだ。
光太朗に時間を指摘されたリーリュイが、真面目な顔をして頷く。時間に厳しそうな印象だったが、正にその通りのようだ。
ソファから立ち上がったリーリュイが、掛けていた外套を手に取る。
外は大雨になっているのに気づいて、光太朗はリーリュイに駆け寄った。
リーリュイの身体に外套を掛けながら、光太朗は口を開く。
「こんなに遅くなって……しかも外は大雨になっちまった。本当にごめんな」
「いや……まったく気にする必要はない」
外套のフードをリーリュイにかぶせて、光太朗はその瞳を覗き込んだ。
(本当に綺麗な目の色だな。ずっと見てられる)
瞳孔の周りは琥珀色で、虹彩は鮮やかな緑色だ。陽の下で見ると、また印象が変わるのだろう。
光太朗が見つめすぎたせいか、リーリュイが視線を下げた。「ああ、ごめん」と言いながら光太朗が一歩下がると、その腕を掴まれた。
「……明日も、店が閉まるのは夕鐘(ゆうしょう)の時刻か?」
「そうそう。17時くらい」
「ではまた明日、その時間に来てもいいか?」
リーリュイの申し出に、光太朗は一瞬きょとんとした顔を浮かべた。その表情を見て、リーリュイが真面目な口調で捲し立てる。
「こちらの土地に越してきて、まだ浅い。加えて、私には友と呼べる者が居ない。この辺りの情報に乏しいのだ。……だから、つまり……」
「なるほどな! じゃあ明日、色々案内するよ。夕鐘が鳴るころに、キュウ屋で待ってる。それでいいか?」
「ああ。それでいい」
リーリュイの堅くなった顔が緩んで、僅かに目元が下がる。
その顔を見て、光太朗も微笑みを返した。
「だけど、明日はもう過去のことは聞くなよ? あんときの話はもうしたくないんだ」
「……分かった。……では、また明日」
別れの挨拶を交わして、光太朗はリーリュイを送り出した。出てこなくていいと言うリーリュイの背中を押して、光太朗も店の前まで出る。
雨の中、足早に去っていく姿が消えるまで、光太朗はその姿を見届けた。
3年前の悲しい別れとは違う。明日が楽しみで、心躍るような別れだった。
そしてその夜、リーリュイはウルフェイルの兵舎へと行き、思う存分勝ち誇った目を彼に向けた。というのはまた別のお話。
パチパチと燃える火を見た後、光太朗はちらりと隣のリーリュイを見た。彼はこちらを凝視しており、逃げ場はない。
「さて置いた」話は、さて置いたままでは済まなかった。
レーションを食べ終わって落ち着いた光太朗に、リーリュイは真剣な眼差しと共に問うてきたのだ。
3年前のことを問い詰められ、光太朗は深くため息をつく。
「リュウ。何度も言うが……詳しいことは話せない。ほんと、ごめん」
「……」
(また無言で返してくる……。言うまで続けるつもりだろ、この無言の圧力……)
リーリュイは深く追求しないが、目で訴えてくる。
澄みすぎて直視できない双眸に見つめられると、嘘もつけない。
しかしウィリアムの事を、リーリュイに相談することは出来ない。彼が巻き込まれる事だけは避けたい。
リーリュイは、出世の道に乗った希望溢れる騎士だ。ウィリアムに目を付けられ、出世の道を絶たれては困る。
光太朗はリーリュイの視線を感じながら「あ、そうそう」と立ち上がった。我ながら不自然な打ち切り方だとは思うが、仕方がない。
光太朗はカウンターの引き出しを開けると、そこから金貨を取り出した。
あの日、魔導騎士団長から貰った金貨だ。それを握りしめて、光太朗はソファへと戻る。
「リュウ。あんた団長と会えたりする?」
「……? なぜそんな事を聞く?」
リーリュイに金貨を突き出し、光太朗は口を開いた。
「これ、団長に返せない? こないだ貰ったんだけどさ……俺、こういうのが一番嫌いなんだよ」
「……」
目を見開いているリーリュイを見て、光太朗は胸中でガッツポーズをした。上手く話を逸らせそうだ。
光太朗は咳ばらいをして、リーリュイの手に金貨を握りこませた。
「フェンデだからって蔑まれるより、情けを掛けられるのが一番不快だ。団長って王族なんだろ? この国の王族って良いイメージ無いんだよな」
「……そ、そうか……」
「うん。……世話になった孤児院も、国のせいで色々大変な思いしてて……。とにかく、こんな施しはいらないって、返してほしい。どうせフェンデになんて会ってくれないだろうから……」
リーリュイがゆっくり頷くのを見て、光太朗も満足げに頷いた。ここでもう一手、ダメ押しする。
光太朗は窓の外を見て、大げさに驚いた。
「リーリュイ! もうこんなに暗い! 兵舎の門限は何時なんだ?」
「外泊届を出していないのであれば、夜鐘(やしょう)が鳴る前に部屋へ戻っておく必要がある」
「夜鐘っていえば、22時だな。もう戻らないと駄目だろ」
店の時計は、もう21時半を差していた。この世界も一日は24時間で区切られる。
毎日、7時、12時、17時、22時に役所が鐘を鳴らすのだ。
光太朗に時間を指摘されたリーリュイが、真面目な顔をして頷く。時間に厳しそうな印象だったが、正にその通りのようだ。
ソファから立ち上がったリーリュイが、掛けていた外套を手に取る。
外は大雨になっているのに気づいて、光太朗はリーリュイに駆け寄った。
リーリュイの身体に外套を掛けながら、光太朗は口を開く。
「こんなに遅くなって……しかも外は大雨になっちまった。本当にごめんな」
「いや……まったく気にする必要はない」
外套のフードをリーリュイにかぶせて、光太朗はその瞳を覗き込んだ。
(本当に綺麗な目の色だな。ずっと見てられる)
瞳孔の周りは琥珀色で、虹彩は鮮やかな緑色だ。陽の下で見ると、また印象が変わるのだろう。
光太朗が見つめすぎたせいか、リーリュイが視線を下げた。「ああ、ごめん」と言いながら光太朗が一歩下がると、その腕を掴まれた。
「……明日も、店が閉まるのは夕鐘(ゆうしょう)の時刻か?」
「そうそう。17時くらい」
「ではまた明日、その時間に来てもいいか?」
リーリュイの申し出に、光太朗は一瞬きょとんとした顔を浮かべた。その表情を見て、リーリュイが真面目な口調で捲し立てる。
「こちらの土地に越してきて、まだ浅い。加えて、私には友と呼べる者が居ない。この辺りの情報に乏しいのだ。……だから、つまり……」
「なるほどな! じゃあ明日、色々案内するよ。夕鐘が鳴るころに、キュウ屋で待ってる。それでいいか?」
「ああ。それでいい」
リーリュイの堅くなった顔が緩んで、僅かに目元が下がる。
その顔を見て、光太朗も微笑みを返した。
「だけど、明日はもう過去のことは聞くなよ? あんときの話はもうしたくないんだ」
「……分かった。……では、また明日」
別れの挨拶を交わして、光太朗はリーリュイを送り出した。出てこなくていいと言うリーリュイの背中を押して、光太朗も店の前まで出る。
雨の中、足早に去っていく姿が消えるまで、光太朗はその姿を見届けた。
3年前の悲しい別れとは違う。明日が楽しみで、心躍るような別れだった。
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