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魔導騎士団の専属薬師
第41話 怒涛の一日 やっと夕方 ②
しおりを挟む街中を進むと、馴染みの魚屋が見えてきた。店の前に立つ店主が、光太朗を見て手を上げる。
それに応えるように光太朗も手を上げて、横にいるリーリュイへ視線を移した。
「あそこの魚屋は、奥さんが作るお惣菜が美味しいんだ。いつもお世話になってる」
「そうか。生の魚介類も売っているか?」
「勿論」
リーリュイを促して、光太朗は魚屋の前に立った。屋台の上に並べられた新鮮な魚介類と、その脇に惣菜が並べられている。
光太朗がそれを眺めていると、主人がニコニコしながら近寄ってきた。
「コウ! 数日来ねぇから、うちのが心配してたよ。ちゃんと食べてっか~って、そわそわしてよぉ。まったく、自分の息子のことより、コウが心配なんだとよ」
「昨日寄ろうとしたけど、もう閉まってたんだ。今日も美味そうだな、どれにしようか……」
今日の惣菜は、魚の煮物のようだ。光太朗が手に取って眺めていると、リーリュイがその惣菜を取り上げた。それをまじまじと見た後、光太朗へと視線を投げる。
「普段君は、こういう物を食べているのか?」
「うん。まぁ、よく食べる」
「分かった。私も買い物をしたいから、少し待っててくれないか?」
「ああ、勿論」
光太朗が頷くと、ちょうど奥から魚屋の奥さんが出てきた。
奥さんは魚屋の主人と同じく、大らかで気さくな人柄だ。そんな彼女が、光太朗に向けてちょいちょいと手招きをしている。
主人と話をしているリーリュイを置いて、光太朗は彼女へ近づいた。彼女はリーリュイをちらりと見ると、光太朗へ小声で話しかける。
「コウちゃん……あの人とは知り合い?」
「そうだけど。どうしたの?」
「あの人、多分王族よ。緑色の瞳を持つ人間は、ほとんどが王族なの。彼が顔を隠しているのは何故?」
「……それが、分からないんだ。俺も彼が何者か知らされていないから……」
彼女は小さく頷くと、視線を下げた。そしてさらに小さくなる声に、光太朗は耳を傾ける。
「現国王も前国王も長命で、その血を継ぐ者はたくさんいる。地位もピンからキリまであるし、数も多い。ただ、彼らには本当に気をつけて。機嫌を損ねると、大変なことになる……。コウちゃんも分かってるとは思うけど……」
「ああ、そうだね。商店街の人もリプトも、王族である領主に散々やられてるもんな……」
「魔導騎士団の兵舎が出来たことで、貴族もこの街にたくさん流入すると聞くわ。きっと土地代も高くなる。……コウちゃん、あなたが頑張っているのは、私らには痛いほど分かる。ただフェンデは地位も弱いし……あなたを害する人も増えてくるかもしれない。本当に気を付けて」
光太朗が頷いていると、リーリュイがこちらへ歩み寄ってきた。リーリュイは魚屋の奥さんへと頭を下げ、光太朗の手を取る。
「買い物は終わった。次は八百屋へ行きたい」
「ああ、分かった。シエラさん、また」
魚屋の主人と奥さんのシエラに見送られ、光太朗は店を出た。リーリュイの手元を見ると、手提げ袋には何やらたくさんの物が入っている。
その殆どが生の魚介類なのを見て、光太朗が口を開いた。
「兵舎には、料理をする場所があるのか? 寮母さんみたいな人がいるんじゃないのか?」
「魔導騎士団の兵舎には、料理人が数人いる。騎士たちの訓練内容を参考にしながら、毎食適切な食事が提供されている。居室棟には共同の厨房があるが、簡易なものだ」
「そっか、面白いな。一度行ってみたいもんだ。……リーリュイ、八百屋はあそこだ」
八百屋と魚屋は近い場所にある。光太朗が指を差すと、リーリュイは先に歩を進めて、野菜を品定めし始めた。その目は真剣だ。
(……王族なのに、料理好き? なんか分かんなくなってきたな)
王族といえば、お抱えの料理人がいるのが普通である。おまけにリーリュイは騎士だ。
多忙な彼は、いつ料理に勤しんでいるのだろう。小さな厨房でリーリュイが料理をしている所を想像すると、光太朗の頬が自然と緩む。
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