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魔導騎士団の専属薬師
第51話 今度は猪です
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森の匂いが以前とは違う。青々しい匂いが少しずつ弱まり、乾き枯れた匂いに変化している。生えている薬草も、移り変わりが目についた。
自分の吐き出す息が白くなっていくのを見ながら、光太朗は呟く。
「もうすぐ本格的に寒くなるんだな」
「そうですね。今年の冬も寒そうです」
隣でしゃがみ込んでいるロブが、薬草を選別しながら答てくれる。
ウルフェイル程ではないが、ロブも身体が大きい。短く刈り上げた髪色は暗めの灰色で、褐色の肌にはそばかすが散っている。
「……ロブさ。何でいきなり敬語になったんだ?」
「いや、コウさんが……ウルフェイルさんたちと親しいから……」
「知り合ったのはロブのほうが先だろ? 今まで通りで良いって。呼び方もキュウヤのままでいいぞ? コウでも構わないけど……」
「あ、コウさんでお願いします。思えば今まで、何で店名で呼んでたんだろ?」
光太朗が「さあな?」と言いながら肩を竦めると、ロブが親しげに笑う。纏っていた緊張感が和らいだ様子に、光太朗も眉を下げた。
リーリュイとウルフェイルは横並びになり、視線で会話をしている。その会話は穏やかではないようだが、まるで兄弟のような雰囲気だ。
ウルフェイルは以前、自分のことを兵長だと言っていた。その彼と親しいリーリュイは、兵長かそれ以上の身分なのだろう。
(王族だって言っていたし、それなりなのかもな。俺も接し方を考えたほうが良いかもなぁ……)
そう思いながら光太朗が手元に視線を戻すと、前方から小さな生き物がちょろちょろと走ってきた。
ウサギのような見た目だが、リスのように小さい。ハウゼと呼ばれる小型動物だ。
群れでやってきた彼らは、光太朗の手をすり抜けて後方へと走り去っていく。
可愛らしい姿を見送った後、光太朗は笑いながらため息を吐いた。
「あらら、あの子らが逃げてるとなれば……あいつのお出ましだ」
「? あいつ?」
「フキミスウルフは賢くて、意思疎通もできる。でも一方で、一切の意思疎通の出来ない生き物もたくさんいるんだ。その代表格が……エイバだ」
そう言いながら、光太朗は立ち上がった。耳を澄ますと、何かが地を走る音が遠くから聞こえてくる。
光太朗はホルダーからナイフを抜きながら、地面を蹴った。
前方にいる黒い塊は、こちらに向かって突進してくる。正に猪突猛進。猪のような見た目の魔獣であるエイバは、出会う生物全てを攻撃対象にする。
光太朗はすっと息を吸うと、エイバの目の前で方向転換する。エイバの脇に生えていた木を数歩駆け上がり、そのまま身を捩ってナイフを構えた。狙うのはエイバの脳天だ。
エイバの脳天めがけて落下していると、白刃の光が目に入る。その刃を手にしている人物を見て、光太朗はにやりと笑った。
「リュウ!」
「光太朗!」
光太朗のナイフが、エイバの脳天に突き刺さる。それと同時に、リーリュイの剣もエイバの喉元に突き刺さった。
急所を2つも突かれたエイバは、鳴き声もなくその場に崩れ落ちる。
光太朗はひょいと地面に着地すると、リーリュイに笑顔を向けた。
「今のは俺が仕留めた!」
「……いや、私が仕留めた」
薄く笑うリーリュイに、光太朗は駆け寄った。光太朗は腰に手を当てると、リーリュイへ向けて抗議の声を上げる。
「いやいやいや、俺だろ!」
「では、同時だ」
「……同時か。まぁ、それでいいか」
ナイフの血を拭って、光太朗はそれをホルダーに収めた。そして骸になったエイバの脇に膝を付くと、手を合わせる。
エイバの血の匂いを吸い込んで、光太朗は目を閉じた。
「殺さなくていいモンは殺さない。だけど殺さないといけないモンもいる。殺さないと、自分が死ぬからな」
「……君は薬草を取るために、毎回こんな危険を冒しているのか?」
「しょうがないんだ。フェンデなんかに薬草を卸してくれる商人はいない。自分で調達するしかないだろ?」
「光太朗……君は……」
リーリュイの言葉半ばで、ウルフェイルとロブが駆けてきた。倒れているエイバを見て、ロブは口を引き結んだ。
「こ、今度はエイバ……? コウさんまじで何者っすか? エイバを一撃なんて……」
「二撃だぞ? 猪突猛進タイプは仕留めやすいだろ」
「……コウさん。聞きそびれていたんだが……フキミスウルフの長に付いていた複数の古傷は、コウさんが付けたものか?」
「違う。俺がそんなに強いわけがないだろ? フキミスウルフの大将に、傷なんてつけられないよ。エイバと違って、大将は知能もしっかりとある。あの古傷は、どっか違うところで戦ってきたもんだろうな」
ウルフェイルの問いに笑って答え、光太朗は立ち上がる。足元をちょろちょろとハウゼが駆けていくのを見て、光太朗は頬を緩ませた。
「大将にとって俺は、ミツバチみたいなもんさ。ちくりと刺されると少し痛くて、殺そうとするとすばしっこく逃げ回る。でもミツバチは蜜を取りに来ただけで、関わらなければ害がない。それが分かる大将は、俺に関わらない。フキミスウルフの個体でも、ここまで理解ができるのはごく少数だ。さすが群れの長だよな」
「……な、なるほど。それほど深く、魔獣を観察することが無かった」
「騎士は大変だろう? 任務の途中で魔獣に出くわせば、討伐するしかない。俺はしがない薬屋だから、魔獣の生態もゆっくり観察できる」
そう言い終えた光太朗は、一転困り顔になった。そして足元のエイバをちらりと見て、「う~ん」と唸る。
普段なら持ち帰って肉屋に売っているが、今回のエイバはかなり大きい。
森の匂いが以前とは違う。青々しい匂いが少しずつ弱まり、乾き枯れた匂いに変化している。生えている薬草も、移り変わりが目についた。
自分の吐き出す息が白くなっていくのを見ながら、光太朗は呟く。
「もうすぐ本格的に寒くなるんだな」
「そうですね。今年の冬も寒そうです」
隣でしゃがみ込んでいるロブが、薬草を選別しながら答てくれる。
ウルフェイル程ではないが、ロブも身体が大きい。短く刈り上げた髪色は暗めの灰色で、褐色の肌にはそばかすが散っている。
「……ロブさ。何でいきなり敬語になったんだ?」
「いや、コウさんが……ウルフェイルさんたちと親しいから……」
「知り合ったのはロブのほうが先だろ? 今まで通りで良いって。呼び方もキュウヤのままでいいぞ? コウでも構わないけど……」
「あ、コウさんでお願いします。思えば今まで、何で店名で呼んでたんだろ?」
光太朗が「さあな?」と言いながら肩を竦めると、ロブが親しげに笑う。纏っていた緊張感が和らいだ様子に、光太朗も眉を下げた。
リーリュイとウルフェイルは横並びになり、視線で会話をしている。その会話は穏やかではないようだが、まるで兄弟のような雰囲気だ。
ウルフェイルは以前、自分のことを兵長だと言っていた。その彼と親しいリーリュイは、兵長かそれ以上の身分なのだろう。
(王族だって言っていたし、それなりなのかもな。俺も接し方を考えたほうが良いかもなぁ……)
そう思いながら光太朗が手元に視線を戻すと、前方から小さな生き物がちょろちょろと走ってきた。
ウサギのような見た目だが、リスのように小さい。ハウゼと呼ばれる小型動物だ。
群れでやってきた彼らは、光太朗の手をすり抜けて後方へと走り去っていく。
可愛らしい姿を見送った後、光太朗は笑いながらため息を吐いた。
「あらら、あの子らが逃げてるとなれば……あいつのお出ましだ」
「? あいつ?」
「フキミスウルフは賢くて、意思疎通もできる。でも一方で、一切の意思疎通の出来ない生き物もたくさんいるんだ。その代表格が……エイバだ」
そう言いながら、光太朗は立ち上がった。耳を澄ますと、何かが地を走る音が遠くから聞こえてくる。
光太朗はホルダーからナイフを抜きながら、地面を蹴った。
前方にいる黒い塊は、こちらに向かって突進してくる。正に猪突猛進。猪のような見た目の魔獣であるエイバは、出会う生物全てを攻撃対象にする。
光太朗はすっと息を吸うと、エイバの目の前で方向転換する。エイバの脇に生えていた木を数歩駆け上がり、そのまま身を捩ってナイフを構えた。狙うのはエイバの脳天だ。
エイバの脳天めがけて落下していると、白刃の光が目に入る。その刃を手にしている人物を見て、光太朗はにやりと笑った。
「リュウ!」
「光太朗!」
光太朗のナイフが、エイバの脳天に突き刺さる。それと同時に、リーリュイの剣もエイバの喉元に突き刺さった。
急所を2つも突かれたエイバは、鳴き声もなくその場に崩れ落ちる。
光太朗はひょいと地面に着地すると、リーリュイに笑顔を向けた。
「今のは俺が仕留めた!」
「……いや、私が仕留めた」
薄く笑うリーリュイに、光太朗は駆け寄った。光太朗は腰に手を当てると、リーリュイへ向けて抗議の声を上げる。
「いやいやいや、俺だろ!」
「では、同時だ」
「……同時か。まぁ、それでいいか」
ナイフの血を拭って、光太朗はそれをホルダーに収めた。そして骸になったエイバの脇に膝を付くと、手を合わせる。
エイバの血の匂いを吸い込んで、光太朗は目を閉じた。
「殺さなくていいモンは殺さない。だけど殺さないといけないモンもいる。殺さないと、自分が死ぬからな」
「……君は薬草を取るために、毎回こんな危険を冒しているのか?」
「しょうがないんだ。フェンデなんかに薬草を卸してくれる商人はいない。自分で調達するしかないだろ?」
「光太朗……君は……」
リーリュイの言葉半ばで、ウルフェイルとロブが駆けてきた。倒れているエイバを見て、ロブは口を引き結んだ。
「こ、今度はエイバ……? コウさんまじで何者っすか? エイバを一撃なんて……」
「二撃だぞ? 猪突猛進タイプは仕留めやすいだろ」
「……コウさん。聞きそびれていたんだが……フキミスウルフの長に付いていた複数の古傷は、コウさんが付けたものか?」
「違う。俺がそんなに強いわけがないだろ? フキミスウルフの大将に、傷なんてつけられないよ。エイバと違って、大将は知能もしっかりとある。あの古傷は、どっか違うところで戦ってきたもんだろうな」
ウルフェイルの問いに笑って答え、光太朗は立ち上がる。足元をちょろちょろとハウゼが駆けていくのを見て、光太朗は頬を緩ませた。
「大将にとって俺は、ミツバチみたいなもんさ。ちくりと刺されると少し痛くて、殺そうとするとすばしっこく逃げ回る。でもミツバチは蜜を取りに来ただけで、関わらなければ害がない。それが分かる大将は、俺に関わらない。フキミスウルフの個体でも、ここまで理解ができるのはごく少数だ。さすが群れの長だよな」
「……な、なるほど。それほど深く、魔獣を観察することが無かった」
「騎士は大変だろう? 任務の途中で魔獣に出くわせば、討伐するしかない。俺はしがない薬屋だから、魔獣の生態もゆっくり観察できる」
そう言い終えた光太朗は、一転困り顔になった。そして足元のエイバをちらりと見て、「う~ん」と唸る。
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