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魔導騎士団の専属薬師
第56話 膝の上
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ガキリ、と鈍い音が響いて、ロブの剣が手から離れた。その剣は近くの地面に突き刺さり、ロブはびりびりと痺れる自身の手首を掴む。
目の前のウルフェイルはにやりと笑い、大剣を肩に担ぎ直した。
「副団……! じゃなくてウルフェイルさん! ちょっとは手加減してくださいよぉ!」
「手加減したぞ? お前がまだまだなだけだ」
「……くっそ……駄目だ。いったん休憩しましょう。手の感覚がない……」
じんじんする手に息を吹きかけ、ロブは丘の上を見遣った。丘の上では、リーリュイと光太朗が並んで食事をしていたはずである。
しかしそこに、光太朗の姿がない。ロブが不思議に思っていると、ウルフェイルも異変に気付いた。
そして丘を上り始めたウルフェイルは、見え始めた光景に眉を下げる。
光太朗は、リーリュイの膝の上で眠っていた。穏やかな顔で彼を見ていたリーリュイだったが、ウルフェイルに気付いた途端に眉根を寄せる。
そしてリーリュイは人差し指を立て、自身の唇へと付けた。静かに、のジェスチャーに、ウルフェイルの頬が更に緩む。
後ろから付いてきていたロブは、口に手を当てて目を見開いた。
「かっ……かわっ……!」
「しーっ……リーリュイに殺されるぞ……」
ロブに小声で注意しながら、ウルフェイルはちらりと光太朗を見遣った。
リーリュイの膝を枕にし、数匹のハウゼと一緒に彼は眠りこけている。
寝息は一切聞こえず、薄い胸が上下していないと死んでいるかと疑うほどだ。その儚げな姿は、先ほど魔獣を二体倒したようには到底見えない。
(……こうして見ると、全然強そうに見えないな。フェンデは身体も弱いと聞くし……)
ウルフェイルはそう思いながら、ある程度距離をとってしゃがみ込んだ。様子を窺うように見ていると、リーリュイが小さく口を開く。
「……ウルフが先日言った通り、彼はとても弱っている。栄養も、もしかしたら睡眠も足りていないのかもしれない」
「……ああ、どう見ても弱ってる。薬屋をやって、休みの日はこうして調達に出るなんて……命削っているようなもんだろ」
光太朗の目の下にある薄い陰に、リーリュイはそっと触れる。しかし彼から反応が返ってくる事はなく、リーリュイもその手を直ぐに引っ込めた。
「光太朗を……私の専属の薬師にする。彼なら適任だ」
「……それは駄目だろ。私情を挟みすぎだ」
リーリュイはウルフェイルをちらりと見て、黙ったまま直ぐに視線を下げた。彼がウルフェイルの言葉に反論できないのには訳がある。
通常、専属の薬師は王都から派遣される。薬の知識も戦闘の腕も、そして地位もそれなりにある者が選ばれるのだ。特に王族の専属に選ばれるということは、相当に名誉なことである。
一般市民が薬師に選ばれる事など今まで一度もない。フェンデなら尚更だろう。
(要は……コウさんを薬師にして、何とか庇護下に置きたいんだろうな。可愛いこと考えるんだな、リーリュイも……)
視線を下げているリーリュイを見て、ウルフェイルは口端を吊り上げた。
「……じゃあさ、魔導騎士団の専属薬師ってことにしないか?」
「……? そんな役職は、聞いたことがない」
「無いから良いんじゃないか、ぼやっとしてて。王都からは離れているんだから、咎められることなどないだろう。……皆で薬屋に行って、たまに戦闘に参加してもらってさ。こちらで調整しながら、やっていけば良いんだ。コウさんが無理しない程度に、コントロールすればいい」
「………」
「様子を見ながら、いずれお前の専属にしてもいい。それまでは『俺たちのキュウ屋』にしておけ。いきなりお前の専属になると、目立つぞ」
リーリュイは暫く黙り込み、次いで小さく頷いた。そしてウルフェイルも満足げに頷きを返して、にやりと笑う。
「それに……お前が戦友と認めるほどの人材を、魔導騎士団が見逃すと思うなよ。独り占めはいかんぞ、リーリュイ」
「……独り占めしようなどとは、思ってはいない。……彼は彼自身のものだ」
「ふ~ん? お前からは、彼をまるっと取り込みたい感じがプンプンするけどなぁ?」
リーリュイからキッと睨まれ、ウルフェイルはぱっと掌を見せた。そして降参のジャスチャーをしながら、光太朗に見とれているロブを肘で小突く。
「なに見とれてんだ。解散。片付け」
「あ……。り、了解」
ロブが食事の片付けを始め、目を覚ましたハウゼたちは逃げて行く。その間も光太朗は寝たままで、遂にはリーリュイに抱かれたまま帰路に付くことになった。
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