【完結】異世界で出会った戦友が、ゼロ距離まで迫ってくる! ~異世界の堅物皇子は、不具合転移者を手放せない~

墨尽(ぼくじん)

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渦中に落ちる

第91話 着せ替え人形

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 光太朗の今後の事を執務室で話し合っていると、扉を叩く音がした。次いで使用人の声が扉越しに響く。

「……コウ様の散髪が完了いたしましたので、お連れ致しました」
「入りなさい」

 カザンが返事を返すと、まもなく扉が開いた。
 しかし開いた先には使用人しかおらず、カザンは片眉を吊り上げる。リーリュイとリノも扉の方を注視した、その時。

「じゃーん。どう?」

 使用人の真後ろに隠れていた光太朗が、おどけた口調でひょっこりと顔を出す。にっかりと笑う彼の髪は、随分と短くなっていた。

 前髪は眉の下あたりで切り揃えてあり、側頭部の髪は耳にかかるくらいの短さだ。襟足は少し刈り上げられていて、白いうなじがしっかりと見えている。

 リノは驚きながら光太朗を眺め、それから固まっている武人2人を見た。2人とも真顔で固まっている。その反応が納得できるほど、リノも驚いていた。

(……髪を切るだけで、これだけ変わるとは……。これは色々と大変そうだ)

 髪を切った光太朗は、十分すぎるほど華があった。この世界では希少な白い肌と黒い髪。少し切れ長で大きな瞳を、艶やかな長い睫毛が縁取る。
  リーリュイが危惧する理由が、リノには十二分に分かった。この世界の人間を惹きつける何かが、彼には確かにあるようだ。
 
 リノがリーリュイへ目を向けると、彼は何か必死で言葉を紡ごうとしている。その姿を見て、光太朗が首を傾げていた。

「? なんか言えよ」
「……。……光太朗、やはり仮面をつけよう」
「はぁ!? ひっでぇ!」

 光太朗は顔を歪めてそう言い放つと、次いで笑い始める。からからと笑う彼は子どものようで、それだけで周りの空気が晴れていく。

「やっぱ駄目だったか。っはは、まさか仮面案が採用されるとは!」
「こ、コウ殿、だ、駄目ではない! 似合っている! そうだろ、リノ!」
「え、ええ。良くお似合いです」
「んん? そうか……?」

 苦笑いしながら、光太朗はリーリュイを見た。彼はずっと黙り込んでいる。こちらを見てはいるが、その顔は狼狽えているように見えた。
 
(そんな顔しなくても、仮面でも何でもつけてやるってんのに……)


 取り敢えずこの変な空気をどうにかしたい。光太朗がリーリュイに向けて口を開こうとした所で、開け放たれたままの扉から別の人物が現れた。

 褐色の肌に白い坊主頭。目は細く切れ長で、長身の男だ。
 見たことの無い人物である。光太朗が目をやると、その男は細い目を垂れさせた。

「きゃぁああ! 起きてる、動いてる、目が開いてる! 可愛い!」
「はぁ? 可愛い?」
「オレは補給隊のキャルーク! キャルと呼んでくださいね!」

 キャルークから手を握られ、ぶんぶんと上下に振られる。為すがままになりながらも、光太朗は顔を顰めた。可愛いと言われても、微塵も嬉しくない。

「あなたの制服を作ってきました! 着ましょう! 今すぐ!」
「制服?」
「はい! 普段用、式典用、訓練用、各種装備。ぜーんぶ、コウ様仕様です! 作るの楽しかった~」

 キャルークの側に控えていた2人の使用人は、腕に大量の荷物を抱えている。その全部が、光太朗専用らしい。

「……作った? 俺のサイズを知ってたのか?」
「コウ様が寝ている間に、採寸させて頂きました。ついでに寝顔も堪能させて頂きました~………。おっと、団長様が怖い」

 キャルークが肩を竦め、大げさに口を手で覆う。リーリュイはキャルークを牽制するように睨みつけた。

「キャル、無駄口はいらない。早く進めろ」
「りょうかーい」

 キャルークは軽く言うと、光太朗の手を引いた。そのままぐいぐいと部屋の外へと引きずられる。また別室に移動するようだ。

「着替えなんて、執務室でやればいいだろ?」
「駄目でしょ。それこそ団長に怒られますよ~」
「……あ~。皇子様の前で着替えるのは、さすがに失礼か」

 光太朗がそう言うと、前を歩いていたキャルークが振り返った。先ほどまで垂れていた瞳が、鋭く光太朗を捉える。
 印象ががらりと変わり、光太朗もつい真顔になった。

「コウ様、この世界の事あんま知らないんですか?」
「……?」
「男女の区別はありますが、同性同士の恋愛は珍しくないんです。……あなたみたいな人が、安易に肌を晒しちゃいけない」

 キャルークはそう言い放つと、また目を垂れさせた。そして再び歩き出す。
 再び手を引かれることになり、光太朗は唇を尖らせた。

「じゃあ、騎士たちはどうやって風呂に入ってんだよ! 寮はみんな一緒の風呂だろ?」
「……それはそれ。あ、着きました~」

 キャルークによって部屋に押し込まれ、光太朗はそこにいた女性の使用人に服を剝ぎ取られる。

 突然の事に唖然とするが、女性相手に声を荒げる訳にもいかない。ズボンに手をかけられたタイミングで、光太朗はやっと口を開いた。

「な、な、何を……!」
「何って、お着替えでございます」
「自分で出来る!」
「騎士団の制服は、少し難しゅうございます。どうぞお任せを」

 この世界は洋装だ。騎士団の制服も、詰襟のごく一般的な軍服だったはず。着方に不安など一切ない。

「俺! 中学は学ランだったから、大丈夫!!」
「がくらん、とは?」
「がくらん……ってのは……」

 説明しようとして、言葉に詰まった。今にも手を出してきそうな彼女らは、きらきらとした瞳を向けている。
 
 かつて文化祭で女装をさせられたことがあるが、あの時の女子たちの瞳にそっくりだ。
 女性がこの目をすると止められない。身をもって知った事だ。

 どの世界も、女性は着せ替えが大好きである。着せ替え人形になった光太朗は、日が暮れるまで解放されることはなかった。
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