【完結】異世界で出会った戦友が、ゼロ距離まで迫ってくる! ~異世界の堅物皇子は、不具合転移者を手放せない~

墨尽(ぼくじん)

文字の大きさ
110 / 248
側にいるために

第108話 恋の愚痴と暴力

しおりを挟む
________

 風呂から出たウルフェイルは、ソファで酒を呷っている幼馴染を見た。手酌で酒を注いでは呷り、ため息をついている。
 ウルフェイルは肩を竦めると、自身もグラスを手に取る。

「……で? どうしたんだ、リーリュイ」
「……断られた……」
「うん?」

 向かいのソファに座ると、リーリュイが酒瓶を差し出してくる。ウルフェイルがグラスを出すと、褐色の酒が注ぎ込まれた。 
 ちらりとリーリュイを見ると、その顔はこの上なく曇っている。シュンとしていると言っても過言ではない。

「明日……彼の家に行って、夕食を作りたかった」
「ああ、コウね。何で断られたんだ?」
「……キュウ屋の仕事が、忙しいらしい」
「はは、なるほど」

 ウルフェイルが頬を緩めると、リーリュイが恨めし気に睨みつける。しかしその表情はウルフェイルを楽しませるものにしかならない。
 44年間恋を知らなかった男が、恋の愚痴を吐きに来ているのだ。面白くて仕方がない。

「目の届かないところに行ってしまうと、守ることも出来ない……」
「……気配消して、見守れば良いだろうが。得意だろ?」
「ウルフ、彼の察知能力を甘く見るな。短時間にしないと、訓練中だとしても気付かれてしまう」
「……ほんと、すげぇよなぁ」

 リーリュイが何度も光太朗の様子を見に行っている事を、ウルフェイルは1班長のキースから聞いた。そしてキースは、リーリュイが来ていることを、光太朗から聞いたらしい。

『団長って、訓練もしっかり見るのな。忙しいのに真面目だなぁ』

 そう光太朗に言われ、キースは初めて団長の存在に気付いた。リーリュイは完全に気配を消していた為、キース含め他の班長も気付くことは無かったのだ。
 光太朗は驚くほど勘が鋭い。そのためリーリュイは最近、気配を消すスキルを磨き上げている。

 ウルフェイルが酒を呷ると、リーリュイのため息が聞こえた。
 口元に笑みを浮かべながらウルフェイルがグラスを空けると、またリーリュイの手で酒が注ぎ込まれる。それを見て、ウルフェイルが片眉を吊り上げる。
 
「お前さ、俺に話を聞いて欲しいんだろ? 俺を酔わせてどうするよ」
「話を聞いて欲しいとは言っていない」
「はいはい」

 ウルフェイルの適当な返答に、リーリュイは眉を寄せた。しかし何も言うことなく、本日何度目かのため息を吐く。

「これから数日間、私は不在が多くなる。くれぐれも……」
「はいはい、コウが無理しないように見守りますよ! お前も飲め!」

 ウルフェイルが酒瓶を傾けると、リーリュイはまたため息を吐く。ウルフェイルはそのグラスに並々と酒を注ぎ、恋に悩む幼馴染の姿を堪能した。


________

 数日が経ち、光太朗は毎日忙しく過ごしていた。スケジュールを詰めているせいか、1日はあっという間だ。
 リーリュイは忙しいらしく、あの夜以来会ってはいない。騎士たちの話によると、競技会の打ち合わせで忙しいようだ。
 

「コウ、ちょっと来い」

 訓練中、キースに呼び出された光太朗は、汗を拭いながら彼の下へ走った。
 「どうした?」と言いながら首を傾げると、突然顎を掴まれた。光太朗が目を瞬かせていると、キースが片眉を吊り上げる。

「これぇ、何だ?」
「……」

 顎を掴んだキースの親指が、光太朗の唇の端を撫でる。そこには赤黒い打撲痕があり、触れられるだけでぴりっとした痛みが走る。
 眉を顰めそうになるのを耐えて、光太朗は笑みを作った。

「ああ、この痣? 衛生班の訓練で怪我人役が暴れてさ、肘鉄くらったんだよ。迫真の演技だったなぁ」
「……もろに喰らったのか? お前らしくない」
「疲れてたんだよ。衛生班の訓練は、ここよりキツイ」
「言うじゃねぇか」

 手を離したキースから、デコピンが飛んでくる。それを光太朗は華麗に回避すると、回れ右をした。

「じゃ、俺戻るわ」
「……おう……」

 納得してなさそうなキースに手を振ると、光太朗は訓練中の班員の元へと戻る。切れた口内を舌で触り、光太朗は小さく舌打ちを打った。


(ったく、見える部分は殴るなよ……)

 頬の怪我は、薬師室でイーオに殴られたものだ。マオは機嫌を損ねると、イーオに光太朗を殴れと命令する。
 イーオは始めこそ拒否したが、マオは癇癪を起こし暴れ回るようになった。
 薬師室は割れ物や薬品が多い。破片でマオが指を切った日から、イーオは逆らわずに光太朗に手を上げるようになった。

 マオが怒り出す原因は、いつもまちまちだ。 
 光太朗が睨んで来ただの(実際は目を細めていただけ)、態度が悪いだの(それは自覚がある)、何にせよ光太朗が気に入らないらしい。

 しかし理不尽な暴力も、日に1度あるか無いかだ。イーオは相変わらず丁寧に教えてくれるし、光太朗的には問題は無い。


 昼鐘が鳴り、午前中の訓練も終わりとなった。光太朗は1班から一旦離れ、薬師室の方へと向かう。
 昼休憩に読む予定の資料を、薬師室に忘れて来たのだ。

 幸い薬師室には誰もおらず、光太朗は資料を手に部屋を出た。
 訓練場の隅にある薬師室は、目立たない場所にある。部屋の脇から抜けると、ちょうど食堂の裏に出るため、光太朗は脇道へと入った。

 進んでいると誰かの話し声が聞こえる。マオだ、と思った瞬間、光太朗は気配を消した。

(やっべ、やっぱこの道やめるか……)

 何も悪いことはしていないが、いちゃもん付けられては昼食に間に合わない。貴重な昼休憩も大事にしたかった。
 光太朗が静かに踵を返そうとした瞬間、もう一つの声が耳に入る。てっきり話しているのはイーオだと思っていたが、そうでは無かった。

 その相手はリーリュイだったのだ。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...