【完結】異世界で出会った戦友が、ゼロ距離まで迫ってくる! ~異世界の堅物皇子は、不具合転移者を手放せない~

墨尽(ぼくじん)

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いざ、競技会!

第162話 かの王との差

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 医務室に運ばれた光太朗は、どこかぼんやりとしながら、負傷した腕の治療を受けた。

 アルスはどうなったのか。観客は皆無事だったのか。
 気にかかることはたくさんあるが、身体が怠くて仕方がない。頭痛は治まりつつあるが、あまり動きたくはなかった。

 リーリュイは軍司令部から呼び出しを受け、出て行ってしまった。キースやウルフェイルも顔を出してくれたが、彼らも忙しなく動いている。

 先ほどの戦闘が、かなりの騒ぎになっているようだ。大がかりな取り調べが行われ、アルスが暴走した原因が追及されている。

 闘技場からは、何故か未だ歓声が絶えない。状況は分からないが、光太朗には被害が無かった事を祈るしかなかった。
 
 光太朗の横には、キースの手から脱走してきたアゲハが、腹を出して寝ている。
 光太朗がその身体を撫でていると、彼の腹がまん丸になっている事に気付いた。良く見ると、身体も豆柴ほどの大きさになっている。

「……アゲハ。もしかして、あの晄露食ったのか?」
『食った。食べ過ぎた。動けん』

 光太朗はくすくすと笑いを漏らし、アゲハの顎をこちょこちょ撫でた。アゲハがむずがってもじもじ動くのが、頭痛も吹っ飛びそうなほど可愛い。

 光太朗が笑っていると、腕を治療していた医師が立ち上がった。どこか緊張した面持ちの医師は、光太朗の前に立つと、おずおずと口を開く。

「う、腕の方は傷も浅く、出血も止まっております。あ……頭の痛みは良くなりましたか?」
「大丈夫ですよ。薬も効いてきたし……」
「っそ、それは良かった!」
「……?」

 医務室にいた医師は初対面にも関わらず、光太朗に対してやけに親切だ。フェンデに対する差別意識が無いように感じる。
 その上、光太朗が治療の礼を言うと、彼は感極まったように膝を折った。目の前で跪く医師に、光太朗は戸惑いを隠せない。

「や、止めてください。俺、跪かれるような身分じゃないって……」
「いいえ、違います。貴方様はきっと、フェブールです。……先ほどの戦いを見て、多くの民が確信したでしょう。貴方は驚異の力で相手を下し、しかも観客まで救った。あんな姿を見て、貴方の事を誰がフェンデだと思うでしょう」

 瞳に涙を湛える医師を見て、光太朗は首を横に振った。しかし医師は光太朗に言い聞かせるように、強く微笑んだ。

「今まで、お辛かったでしょう……。貴方は敬われ、尊敬されるべきお方なのに……」
「……えっと、いや……」
「そうだ! 何か、お飲み物をお持ちしますね! どうぞ横になって下さい!」

 医師は涙を拭うと立ち上がり、ばたばたと部屋を出て行ってしまった。

 光太朗は大きな溜息をついて、寝台へと倒れこんだ。すかさずアゲハが、光太朗の身体の横へと寄り添う。
 アゲハの額を撫でながら、光太朗は枕へと突っ伏した。

「……なぁ、アゲハ。お前、リガレイア王を知ってるって言ったよな?」

 アゲハが頭を擡げ、光太朗の瞳を覗き込む。
 次の瞬間、アゲハの身体が変化し、真っ黒な球体になった。その球体が、今度は人間の身体を形作っていく。

「うおぉ。また大きくなったな……」
「殆ど、元の姿に戻った。コタロのお陰だ」

 そう言って微笑むアゲハは、大きく成長していた。もう立派な大人で、身体つきも逞しい。
 顔は相変わらずの美形だが、雄々しさが増していた。長くて真っ直ぐな髪は、床にまで垂れる長さだ。

 アゲハは医師が使っていた作業机へと腰掛け、光太朗を見た。

「リガレイアの王の、何を知りたい?」
「……彼は、晄露を使って魔法を発動できると聞いた。無限に魔法が使えるんだろ?」
「左様。あいつは化け物並みに強い。最上級の魔法を馬鹿みたいに繰り出せる」
「そっか。……そうなると、やっぱ俺とは違うよなぁ。俺なんて、一回の発動でダウンしてるんだから……」

 晄露を大量に引き出した時の痛みは、耐えられないほどの激痛だった。あれを何度も発動すれば、きっと気を失うだろう。

「俺……あれで精一杯なんだぞ。絶対フェブールなんかじゃないだろ……」
「……コタロ、やはりリガレイアに来い。……峨龍ガロンなら、あいつの事に詳しい」
「ガロン?」
「我の弟だ」

 アゲハは腕を組みながら、吐き捨てるように言った。光太朗は枕から頭を浮かせて、首を傾げる。

「アゲハ、兄弟がいるんだな。もしかして……あんま仲良くないのか?」
「そういう訳ではないが……。何千、何万と生きていると、色々あるのだ」
「ええぇ!? アゲハめっちゃ長生きじゃん!」

 アゲハは光太朗を見つめて、片方の口端を吊り上げた。やけに人間臭い表情だ。本当に色々あったのだろう。

「長命は良いものではない。この世界の人間が生きる、数百年が丁度良いのだがな」
「俺にとってはその数百年も、とても長く感じるよ……」

 光太朗はまた枕に突っ伏して、アゲハを見上げる。
 何か言いたそうなアゲハを見ていると、リガレイア国に興味が湧いてくる。彼がこんなに勧める理由も知りたいところだ。

「そこまで言われると……いつか会ってみたいな、リガレイア国王に。でも王様には簡単に会えないだろ?」
「会えるに決まってる。コタロは我が主だぞ」

 アゲハが眉間に皺を寄せて、拗ねたように言う。少しだけ幼さが戻った気がして、光太朗は微笑んだ。
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