【完結】異世界で出会った戦友が、ゼロ距離まで迫ってくる! ~異世界の堅物皇子は、不具合転移者を手放せない~

墨尽(ぼくじん)

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ゼロになる

第188話

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 掛布が捲られて、誰かが寝台に潜り込んでくる。ふんわりとリーリュイの香りがして、光太朗は頬を緩ませた。
 頬に落ちてくる唇が、ひやりとして気持ちがいい。

 寝台の中で抱き寄せられ、光太朗はリーリュイの胸へと顔を埋めた。冷たい肌から、心地よい鼓動が響いてくる。
 リーリュイは服を身に着けていない。彼は必ず、服を脱ぎ捨ててから光太朗の寝台へと入る。

「……おつかれ、リュウ……」
「ただいま、光太朗」
「ふふ、ただいまじゃないだろ? まだ昼だぞ」

 リーリュイが溜息を吐いて、光太朗の髪に鼻を埋める。一見リーリュイが甘えているように見えるが、全てが自分のためだと光太朗は分かっていた。

 国の立て直しに忙しいリーリュイだが、こうして執務の合間を縫って寝室にやってくる。
 光太朗の不調に効く薬は無い。しかしリーリュイに抱き締められると、不思議と不調が和らぐ。
 汚れた服で寝台に入るのを避けるため、リーリュイはわざわざ裸になる。そして時間になれば服を着て、また執務へ向かうのだ。
 
「……熱いな、光太朗」
「リュウの肌……冷たくてさいこーだ……」
「それは良かった。……食事は?」
「……くった……」

 一言発して、光太朗はもぞりと動く。
 リーリュイのお陰で痛みが和らぎ、熱も冷やされて行くのを感じる。動いていないと寝落ちてしまいそうだった。

「本当に食べたか? 後でアゲハに確認するぞ」
「……はらは、へるんだけどなぁ……」

 嘘ではなかった。寝ているだけなのに、信じられないほど腹は減る。しかし食事をする体力がなく、いつも残してしまうのだ。
 食べたいのに食べられないというのは、思ったより辛い。

「……光太朗、眠っていい。無理するな」
「せっかく……来てくれたのに……」

 ずぶずぶと寝台に沈んでいく気がする。眠りたくないのに、リーリュイから眠りを促されるように前髪を梳かれる。

 光太朗から寝息が聞こえても、リーリュイは髪を梳き続けた。


 洞窟から帰還した日から、光太朗の容体は急激に悪くなった。どんな医者に診せても原因が分からず、いつも『残りの期間は少ない』と診断を受ける。
 失意に沈んでいたリーリュイを救ったのは、アゲハだった。

『こたろにくっつけ。できればずっと』

 アゲハも満身創痍だったが、リーリュイへ向けて懸命に訴えた。
 光太朗の症状がリガレイア国王と似ている事。その症状は、弟である峨龍と王配が触れることで緩和されたという事。

 それからリーリュイは出来る限り光太朗に触れ、彼は目を覚ました。しかしそれからもずっと、彼は不調に悩まされている。


「____い、おい、番! ……やはりリガレイア国と連絡は取れんか?」

 寝台の外から掛けられた言葉に、リーリュイは髪を梳く手を止めた。声の方を見ると、幼子姿のアゲハが立っている。

「……前も言ったが、公には取れん。昔はリガレイア国とも国交があったが、今は違う。父上が一番警戒している国でもある。しかも今は、その国境に左上宮がいるからな……」
「……我が飛べればいいが、これでは無理だ……」

 アゲハが自身の小さな手を見て、ぽつりと零す。晄露が無ければ、アゲハの身体は回復しない。
 他の者には幼児語に聞こえるアゲハの言葉だが、リーリュイにはまともに聞こえる。原因は分からないが、意思疎通ができるのは有難かった。

 アゲハは寝台によじ登ると、光太朗の顔を覗き込む。大人びた憂いの顔が、幼児の顔に浮かんだ。

「峨龍もあいつにずっと付き添っていた。触れると改善するとは聞いたが、症状の詳しい事は、本人か番たちしか知らん」
「……」
「……詳しいことは言えんが、リガレイア国王は今も生きている。望みを捨てるな」
「捨てるものか」

 リーリュイは言い放ち、光太朗の身体からゆっくりと離れた。想いを残したまま、服を身に着ける。

(……国が正常な状態であれば、秘密裏に連絡を取ることも可能だっただろう。しかし今は、国自体が機能していない。遣いを送りたくとも、人材がいない……)

 騎士団と国軍は壊滅状態に近く、使える部隊が魔導騎士団しかない。人材の割り当てが足りず、とても他には割けそうにない。

 襟を正しながら溜息を零し、リーリュイはアゲハを見た。彼はもう既に、光太朗の横にくっついている。

「アゲハ。……光太朗は食事出来ているか?」
「食欲はあるが、食う体力がない。……しかし、お前が寄越したカザンという男はいいな。コタロの笑顔が増えた。それに……カザンもあのリノとかいう男も、嫌な匂いが全くしない。他の者は臭くてかなわん」
「やはりそうか……。引き続き、見守ってくれ」

 アゲハは頷くと光太朗に身を寄せる。しかし目線は、リーリュイを鋭く捉えたままだ。

「ずっと見守っていたいが、身体がいう事を聞かぬ時もある。信用できる者を集めてほしい。……この王宮は臭い者が多すぎる」
「……努力する」


 肆羽宮にも使用人はいたが、その全ての人間にアゲハが拒否反応を起こした。
 「光太朗に近づかせない方が良い」というアゲハの言葉を、リーリュイは疑わず、彼らを即日部屋から下げさせた。

(カザンとリノが大丈夫だったとすると、やはり王宮付きがおかしいのか? しかし、私が幼い時から使用人として働いている者もいる……。彼らの何に、アゲハは反応している?)

 剣を腰に佩いて、リーリュイは部屋を出た。振り返ると足が止まりそうな気がしたので、足早に歩を進める。
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