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最終章 そこに踏み入るには
第238話 切り札
しおりを挟む魔導騎士団を率いているのはキースだった。彼は馬を降りると、腰の後ろに両手を当てる。騎士がする敬礼の仕草だ。
キースに続いて後ろの騎士らも、次々と馬を降り敬礼し始めた。
深く息を吸ったキースは、真っ直ぐに通る声を放つ。
「我々魔導騎士団は、コウと共に生きると決めました。王妃が消したコウを、我々はまだ覚えています。彼と、皇太子殿下だけに、忠誠を誓います」
キースの言葉の後、騎士ら全員が跪いた。立っているキースは、王妃に鋭い目線を送る。
「王都に残った国軍は、コウの指示で制圧した。……我々は、コウと皇太子以外の命令を聞くつもりはない!」
「……!! ……う、嘘よ……」
王妃の喉からひゅっと悲鳴のような声が漏れる。騎士団から向けられた敵意に、彼女の身体は小刻みに震え始めた。
リーリュイは光太朗へ視線を映し、顔をくしゃりと歪める。その視線を受けた光太朗の胸は、罪悪感に苛まれた。
(……あんたの魔導騎士団を、利用してごめんな……)
ザキュリオの切り札である魔導騎士団は、絶対に掌握する必要があった。キースに指示を出し、彼らとは早くから連携していたのだ。
リガレイア国にいた光太朗は、魔導騎士団に直接関わっていない。しかしキースを介して彼らを私有化したのは確かだ。
胸の痛みをぐっと堪え、光太朗は口元に笑みを作る。
「あ~あ。じゃあこれで、ザキュリオの切り札は皇太子殿下だけになったわけだ?」
「……クジロ……君は……」
「よし、じゃあやる事は一つだ」
リーリュイの言葉を遮り、光太朗は一色を振り返った。一色は心得たとばかりに頷くと、王妃へと口を開く。
「それではザキュリオに、最後の機会をやろう。……そこにいるうちの副将に、貴国の皇太子殿下が勝てば、この場は退くことにする。うちの副将が勝てば、ザキュリオはこちらの要望に応えてもらう」
「……っ!」
リーリュイの顔が険しいものに変わった。眉根に深い縦皺を刻んだ彼は、小さく頭を横に振る。
そんなリーリュイを見ないようにして、光太朗は両腿のホルダーから短剣を引き抜いた。そして剣先を王妃へ向けると、催促するように上下に動かす。
「どうするんです? 許可する?」
「……っするわ! あんたなんかに、リーリュイが負けるはずがない……!」
絶望していた様子から一転、王妃はすっかり活気づいた。絶体絶命の状況を覆す好機だと捉えたのだろう。凶悪な表情が戻り、余裕の表情で光太朗を見やる。
その一方で、光太朗の後方から、一色の不安そうな声がぼそぼそと耳に届いた。
「……お、おい峨龍、本当に大丈夫なんだろうな……。あっちの皇太子、どえらい強そうだが……」
「大丈夫だ。クジロは完璧に仕上がっている」
2人のやり取りは、光太朗に筒抜けだ。ふすりと笑いを零して、光太朗は真新しい仮面に触れた。
数日前、光太朗はカディールから新しい仮面を貰った。新しい仮面は見た目こそ同じだが、何と目の部分にレンズが埋め込んであるのだ。
リガレイア国には高級だが眼鏡も流通している。カディールが職人と調整し、仮面とレンズを合わせてくれたのだ。
目を細めなくとも、辺りの景色が滲まない。度数は低いが裸眼に比べると大分ましだった。
目が良くなった状態で峨龍と手合わせしたが、身体の動かし易さが全く違う。今まで目に頼っていなかったからか、視力が特殊能力のように感じてしまうほどだ。
今も、夜なのが勿体ないくらい視界が明るい。その反面、鮮明なリーリュイの姿を見て、光太朗は衝撃を受けていた。
(……おいおい……かっこよすぎんか、あいつ……。俺、あんなのの隣に居たわけ?)
少し伸びた髪が襟足まで伸びて、篝火を受けてきらきらと輝いている。パーツの揃った顔に、手足の長い身体、すっと伸びた背筋。そして光太朗の大好きな、澄み切った緑色の瞳。
どこをどう見ても、文句の付け所が無い。
自身に呆れたように嘆息して、光太朗は短剣を構えた。くいっと顎を動かして、リーリュイの抜刀を促した。
「早く剣を抜けよ。勝負勝負」
「……私は、嫌だ」
「ああ? 嫌だとか関係あるか。この状況で拒否権なんてあると思うなよっ!」
走り出すと、リーリュイがようやく剣を抜くのが見えた。
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