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第1章
2話
しおりを挟む─イルシス・アンデヴァイセン伯爵令嬢─
アンデヴァイセン伯爵家の長女であるイルシスは、生まれてすぐに伯爵家を離れ…山奥にある別荘で療養生活を送ることになった。
イルシスの左眼の瞳は赤い。赤眼は、強い魔力持ちの証である。
しかし、イルシスの赤眼は赤いだけではなく…他にもいくつかの色が少しずつ混ざり合っている『魔眼』といわれるもの。
魔眼は、眼を見た者に呪いをかけると言い伝えられ…昔から忌み嫌われてきた。
表向きは病気療養としていたが、伯爵家の本当の目的は魔眼を隠すことだった。
イルシスは伯爵家から追い出され、家族はその存在をないものとして忘れ去る。
ところが…イルシスが7歳の時、アンデヴァイセン伯爵家の別荘付近の山奥に魔物が出没。
イルシスは、偶々討伐に参加していた大魔術師の目に留まる。
その後…大魔術師は高名な薬師と協力し合い、5年かけて魔眼を抑える特殊な目薬を作ったのだ。
大魔術師の働きかけと目薬によって、イルシスは13歳でアンデヴァイセン伯爵家へと戻れることになった。
ここで初めて…自分にはバジルとチェルシーという兄妹がいたことを知る。
戻ったところで、伯爵家にはイルシスの居場所などなかった。
魔眼は目薬で抑えられていると説明しても、使用人たちは皆一様に目を伏せ…イルシスには誰も近付かない。
伯爵家に戻って1週間後には…敷地内にある小さな小屋での生活を余儀なくされ、与えられるのは朝晩1日2度の質素な食事だけ。
そんな…伯爵令嬢とは思えない扱いを受けていた。
兄バジルは、成人後の16歳から帝国のアカデミーに通っている。チェルシーを可愛がることはあっても、イルシスには目もくれなかった。
2歳違いの妹チェルシーは、時折イルシスの暮らす小屋の入口にゴミを撒き散らしては『化け物』と酷い暴言を吐いていく。
父親も母親も『呪われる』と言って、イルシスには一切会いに来ない。
──────────
そんな生活も3年が過ぎ、イルシスは今日で16歳…成人を迎えた。
通常、貴族令嬢であればデビュタントとして行事に参加するものであるが…イルシスを社交界に出すつもりなどない伯爵家は完全に放置していた。
イルシスのことより、アカデミーをギリギリで卒業した大切な一人息子バジルの嫁探しのほうが重要で、パーティー通いに全力を注いでいる。
バジルは傲慢で自分勝手。素行が悪く不出来なバジルが跡継ぎとなる伯爵家は、才色兼備な嫁を強く求めていた。
伯爵家に戻った当初は酷い仕打ちに涙していたイルシスも、今では無感情。もう慣れたものである。
「成人したんだから…この家を出て、何か新しいことを始められたらいいのに」
幼いころに別荘で大魔術師と過ごした5年半…実は、イルシスはみっちりと魔術を叩き込まれていた。
持って生まれた高い魔力を自在に操り、難しい魔術すら簡単に使いこなす…素晴らしい才能を持っていたのだ。
「お金を貯めたいし、働いてみようかしら?。…でも…私にできる仕事って…」
イルシスは薄暗い室内に目を向ける。
以前、年老いた住み込みの庭師が暮らしていたという小さな小屋には…キッチンと寝室しかない。
─簡単な食事の用意に、掃除と洗濯─
今のイルシスの日課は家事手伝いと言えなくもないが…仕事で役立つレベルではない。
「魔術を使う仕事…は…無理ね。伯爵家にバレないように上手くやらなきゃ。
目薬を使えば、半日は出かけられるわ」
大魔術師と薬師に作ってもらった目薬。
今ではイルシスが自分で生成できるのだが、いつも小屋で独りぼっち…使う機会はない。
それでも、伯爵家をこっそりと抜け出して街に出かける時には重宝している。
「私のために5年もかけて作ってくれたのに…結局、魔眼持ちの私を伯爵家は受け入れてくれなかった。
…ごめんなさい…師匠、先生…」
イルシスは、伯爵家に戻れるよう尽力してくれた大魔術師の慈悲深いシワだらけの笑顔や、言葉をたくさん教えてくれた薬師のことを思い出す。
「目薬、これからは使わせていただきますね!」
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