30 / 215
第3章
30 忠犬
しおりを挟む「おい!」
部屋を出たところで、待ち構えていたルークに呼び止められる…が、レティシアは安定のスルー。
「おいおいおいっ、無視すんな!」
目の前をスーッと通り過ぎて行くレティシアの腕を掴んで、ルークが無理やり引き止める。
「おはようございます、ルークさん。何度呼ばれましても…私の名前は“おい”ではございませんよ?」
「またそんなっ…いい、ちょっとこっち来い。話がある」
「…話?」
レティシアの部屋のクローゼットには、綺麗なワンピースなどの衣類が何着も用意されていた。装飾品や靴まで、至れり尽くせり。
レティシアは久しぶりに洋服を選ぶという楽しさを味わい、上機嫌で部屋を出た途端…ルークに捕まる。
♢
「ほら、そこに座れ」
促されるまま、ロビーの一番端に置かれた椅子に座るレティシアは、仏頂面で不機嫌。
「はぁ…朝から一体何でしょう?」
「人の顔を真正面から見て、ため息をつくな」
「どうぞ、お早くご要件を」
「…お前の話、アッシュ様から聞いた…」
「…そうですか…」
ルークはブルーグレーの瞳を少し曇らせ、無駄に長い足を組みながら…右手で真っ赤な髪を雑に掻き上げた。
「初めて聞いた話で…正直、かなり驚いた。この世界の人間ではないから、知らないことや理解できないことがあって当たり前…考え方や物の見方は根本的な部分から全く違うはずだと、アッシュ様が仰っていた。確かに、お前は何かこう…いろいろとスゴいからな。
俺が従者として他国へ出掛けても、異文化には戸惑うし困る状況はよくある。だが、多分それとはわけが違うんだろう?」
ロビーの広く大きい窓の外には、忙しなく歩く人の姿が見える。
話を聞いているのかいないのか…レティシアは、行き交う人々をぼんやりと眺めていた。
「私のいた世界とは違い過ぎて、生きにくいのは確かです。でも、だからどうすべきなのかが分かりません。この世界の貴族にはなれないし、一度死んだ身では元の世界へ戻れませんからね」
─ ガタン! ─
レティシアの視線が、椅子を弾いて立ち上がったルークへと向く。
「どうしました?」
「…死んだ?…は?…お前が…?」
「えぇ…私はレティシアの前世、現世には存在していません」
「前世って…そうか、そうなるのか…」
ルークは“前世”の意味を理解した様子で椅子に座り直すと、口元を手で覆い…チラリとレティシアの顔色を窺う。
(ゾンビだとでも思っているのかしら?)
「死んだようにとまでは言いませんが…私は、このまま極々平凡に生きていく運命のはずだったんです」
「そこを、邪魔されたと?」
「いいえ、仕事の話は大変有り難いものでした。いつか、この王国を出たいと考えていましたから。
ただ、私は…唯一だとか…特別扱いを受けるべき存在ではなかったので、伯爵様には本当に申し訳なかったと思います。その分は、これから仕事で挽回します」
「一応、アッシュ様のことを気にしてくれているんだな」
「それは…当然です」
ルークは両手で顔をゴシゴシ擦るようにしながら、大きく息を吐き出す。
「アッシュ様は、ああ見えて落ち込んでいるんだと思う。でも、お前の事情を最大限に理解したいと仰った。いつだって俺たち従者を大切にしてくださるお方だからな、きっとお前のことも守って行くおつもりだ」
「…私も、従者sの仲間入り…」
「従者ズ?」
「…これからは同僚ね…って言ったのよ」
ポツリと呟いた言葉を耳のいいルークに拾われてしまい、笑顔で誤魔化した。
「伯爵様は、とてもいい方だわ」
「俺たちはアッシュ様に拾われたんだ。皆、いろんな国で地獄を見てきたヤツばかりだぜ…」
各国から集まった五人の従者は、元は皆アシュリーに命を助けられた者たち。主人に忠誠を誓う私兵だという。
つまり、従者sのお給料はアシュリー個人の財布から出ている。
そこから始まった、ルークのプチ思い出話。
レティシアは、彼がより一層くだけた口調になっていくことも…そう悪くはないと感じていた。
「伯爵様は優しい感じに見えるのに、意外と男気があるのね」
「そうなんだよ!お前、話せば分かるヤツだな!」
「あなたは…少しクセが強いけれど、伯爵様が大好きだって分かったわ」
(まぁ、呪いの人形に名前を書くのはやめてあげる)
「だけど、私のことを“お前”って呼ばないでください」
「…あぁ、悪い…」
「因みに、ルークさんのご年齢は?」
「17だ」
「…17…」
ルークはレティシアと同じ17歳、従者の中では最年少。
ガッシリとした大きな身体は幾分育ち過ぎか…若者特有の勢いに溢れた言動も、17歳と言われれば納得できる。
「ルーク君、私…外見は17歳だけど、中身は28歳なんです」
「……は?…はぁっ?!…お前が、28?」
「そう、かなりお姉さんでしょう?」
ルークは驚きのあまり口をパクパクとして、まるで金魚のよう。
「…ゴ…ゴードンだって、25歳だぞ…?」
「え?…ええぇぇ!!」
(なぬーっ!ゴードンさんは、私より年上ではなかったの?!)
65
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由
冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。
国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。
そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。
え? どうして?
獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。
ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。
※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。
時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。
甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。
だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。
それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。
後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース…
身体から始まる恋愛模様◎
※タイトル一部変更しました。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる