65 / 215
第4章
65 翌日2
しおりを挟む『レティシア!待ってた!!』
「クオン様…?!」
夕食前の小腹が空く時間、一緒にお茶をしましょうと…サオリに招かれたアシュリーとレティシアは、聖女宮の手前で四本の足で仁王立ちするクオンの待ち伏せにあう。
レティシアはフワフワのトラを抱き上げ、昨夜遅くなってしまったことを詫びながら…サオリの下へと向かった。
♢
「わぁっ、素敵な薔薇園…」
昨夜とは違った部屋に案内され、大きな窓の外に見事に咲き誇る大輪の薔薇を見つけたレティシアは、感嘆の声を上げる。
「ふふっ、私は薔薇が大好きなのよ。自慢の薔薇たちを是非ゆっくりご覧になって」
「ここから外に出てもいいんですか?」
「えぇどうぞ。クオン、あなたも行きなさい」
『はい、母上。…レティシア、抱っこして?』
赤や黄色…淡いピンク色などの花と、瑞々しい緑の葉が絡まるようにアーチ状になった薔薇を鑑賞しつつ、レティシアはクオンを抱いて進んで行く。
「…これ…めちゃくちゃ豪華なトンネル。薔薇のいい香りがしますね、クオン様」
『レティシアもいい匂いがするよ…可愛くて柔らかくて…好き』
「………柔らかくて…?」
(それは私の肉質?…肉食獣目線かな?)
「…ありがとうございます…」
『えへへっ』
「クオン様こそ、可愛いです」
クオンはレティシアの胸に顎を乗せ、少し潤んだクリクリの大きな青い瞳でうれしそうに尻尾を揺らして見上げてくる。
長い薔薇のトンネルを抜け、庭園奥の噴水に出たレティシアは、アシュリーやサオリに向かって大きく手を振った。
♢
「人化しないと思ったら…全く」
レティシアに抱かれ、ピッタリとくっつくクオンの姿を目にした後…サオリはボソッと呟く。
「クオンは誰に似たのか、おっぱい星人なのよね。レティシアが気に入ったんだわ」
─ ブホッ!! ─
サオリとの会話をスムーズにするため…聴力強化の魔法を発動していたアシュリーが、熱い紅茶を盛大に吹き出す。
──────────
──────────
「殿下はどちらへ?」
クオンを世話係に預け、レティシアが聖女宮へ戻ると…アシュリーがいなくなっていた。
「ラスティア国へ帰るからって、大公は陛下にご挨拶をしに行ったわ。準備が済めば、迎えに来てくれるはずよ」
「え、もう?…じゃあ…サオリさんとは一旦お別れですか…」
「王宮やラスティア国の宮殿には魔法陣があるもの、いつでも来れるじゃない。でも、当分は秘書官業務が忙しくて無理かしら。大変…あまり時間がないわ、急いで採寸をしないと!」
「採寸?」
(…あれ?私の優雅なティータイムは…)
「そうよ、ドレス制作のために必要でしょう?…あっ、費用は気にしないで。その代わり、デザインは私に任せてね」
♢
サイズを測っていたサオリが、レティシアの細く引き締まった腰に注目して、ピタリと手を止める。
「……レティシア、あなた…身体を鍛えているの?」
「あ、分かります?私、筋トレをしているんです。少しは効果が出てきたのかな?」
「…え?」
「侯爵家にいた時は暇で、毎日筋トレしていました」
「えぇ?」
「記憶では父親が警察官で、子供のころは空手や剣道を習っていたから…意外と武闘派?」
「意外過ぎ!」
サオリは、アシュリーの筋肉美を褒め称えていたレティシアの様子を思い出し『道理で』と…納得する。
「サオリさんも、筋トレどうですか?」
「私は、夜の営みだけで十分だわ」
「………全身運動ですもんね…」
「冗談よ。…それより、大公にパーティーの話をしていなかったんじゃない?かなり驚いていたわよ」
「…あっ!…忘れてた…」
採寸が終わるタイミングを見計らって、アシュリーがレティシアを迎えに戻って来る。
──────────
サオリとしっかり抱き合って別れの挨拶をしたレティシアだが、サハラには会うことができなかった。
「サハラは、普段…この地を護るために力を使うから、覚醒は頻繁ではないわ」
“神獣”は、聖女宮で眠るように王国を護っている。王宮内にいても、その姿を見る機会は決して多くない。
帝国魔塔の中心人物であるレイヴンにも会えず、昨夜の集まりはもう二度とやって来ない“レアキャラ祭り”であったのだとレティシアは知る。
♢
飲まず食わずで聖女宮を後にしたレティシアは、そのままアシュリーに連れられて転移魔法陣のある地下室へと向かった。
地下の入口では甲冑姿の屈強な騎士が門番として立っていて、アシュリーとレティシアの身分確認をする。
魔力なしのレティシアは“魔法掌紋”という、各種セキュリティを通過するには必須の腕輪型の身分証アイテムを手首につけて貰う。これで、いつでも魔法陣を利用することが可能。
魔力のないレティシアでも、魔法使いのガイドが常駐しているので問題はない。しかし『一人では絶対に駄目だ』と、アシュリーにキツく言いつけられる。
「ゴードンたちは、荷物と一緒に先にラスティア国へ行かせた。後は…私とレティシアだけだよ」
「ゴードンさんたち、先に行ってしまったんですね」
「私とでは不服か?」
「…いいえ…」
(…殿下…ご機嫌斜め…?)
「転移魔法陣は人間なら三人まで、理想は二人での利用だが…100%の安全などないからな。身体が真っ二つになっても、見知らぬ僻地へ飛ばされても文句は言えない」
「…へっ!」
(いや、待って?!真っ二つじゃお陀仏でしょう!!)
目を丸くするレティシアの手を、アシュリーは強く握った。
「何があっても…私が守る。だから、離れるな」
「絶対に離れませんっ!」
レティシアは必要以上に?アシュリーにギュッとしがみついて、魔法の詠唱を聞きながらラスティア国へと飛んだ。
ラスティア国側の魔法陣前でアシュリーの到着を待っていたルークは、抱き合って現れた二人を見て苦笑する。
後で聞いた話によると、定員オーバーや転移魔法陣の不具合によって…全く違う場所へ飛ばされた死亡事故の事例がいくつかあるとのこと。
極々稀に起こる出来事らしい。
アシュリーの言葉足らずが原因で…レティシアは、魔法陣を使う度にちょっとドキドキするようになってしまった。
────────── next 66 ラスティア国
38
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由
冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。
国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。
そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。
え? どうして?
獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。
ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。
※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。
時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。
甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。
だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。
それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。
後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース…
身体から始まる恋愛模様◎
※タイトル一部変更しました。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる