前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy

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第6章

77 秘書官レティシア

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五人の従者sは、常にアシュリーの側で生活をしている。それが、アルティア王国でもラスティア国でも変わりはない。
妹がいるルークだけは、王国へ来た当初…ロザリーの預け先となるクロエ夫人の世話になっていた。ロザリーが新生活に慣れるまでの間、兄妹で身を寄せていたのだ。


ユティス公爵家より『レティシアを受け入れたい』との有り難い申し出があった…と報告を受けたアシュリーは、すぐにルークの住まいを大公邸から公爵邸へと移らせる。
レティシアの護衛役として急遽引っ越しを余儀なくされたルークは、再び妹と同じ屋根の下?で暮らすことになった。


(私に護衛が必要なのかしら?秘書官ってそういうもの?)


他国を周っていたアシュリーに誘われるまま、同じ異世界から召喚された“聖女”に会いたい一心で王国へとやって来たレティシアは、予定外のイレギュラーな存在。
便利な魔法があるとしても、たった一日でレティシアの生活環境を整えなければならなかったルークとカリムは苦労したに違いない。ルークの疲れた顔を思い出し、引っ越し作業まで加わってしまったことを申し訳なく思う。


(今のところ…私、手間と迷惑を掛けているだけだわ)


明日からはしっかりしなければと…柔らかなベッドの中で、レティシアは目を閉じた。




──────────
──────────




「…何もない?……共寝したんじゃ?」

「馬鹿おっしゃい!」

「昨夜、ロザリーが俺の部屋に飛び込んで来た。自分が邪魔をしてしまったって、半泣きになっていたぞ?」

「それは…誤解があったせいよ。だから、ルークも変なことを言わないで。殿下は、用事が済んだらお邸へお帰りになったの」

「用事?…抱き合って?」

「お願い、それ…もう忘れてくれない」

「…ロザリーが…ひどく気にしている…」

「今朝、彼女には私からちゃんと伝えたわ。大丈夫よ」

「本当か?」

「………ルーク…」


(あなたシスコンなの?…いや、シスコン確定ね)


可愛いロザリーを心配する気持ちは、レティシアにも分かる。とはいえ、護衛であるのをいいことに、朝からやたらとまとわりついては昨夜の出来事を根掘り葉掘り聞いて来るルークに…うんざりして項垂れた。

兄とは、妹を溺愛する生き物。それを身を以て知っているレティシアは、これ以上ルークがシスコンを拗らせないよう神に祈る。



    ♢



昨夜のアシュリーは、自分とラファエルの逞しさを見比べて欲しかったらしく、いきなり肉体美を見せつけるという…トンチンカンな行動に出てレティシアを大いに困らせた。

王族は、ほぼ全裸の状態から服を着せて貰うなど、毎日の身の回りの世話を他人に任せる身分。幼少期からそうした待遇を受け続ければ、最終的に従者の前で素肌を晒すことに羞恥心がなくなる。

しかも、レティシアはアシュリーの上半身(背中)をすでに一度見ていた。怪我を心配して確認した時には全く躊躇しなかったレティシアが、まさか大声を上げるとは思ってもみなかったのだろう。
あそこまでフリーズしたアシュリーを見たのは初めて。大きな身体で、どうしようもなくオドオドする姿が何だか可愛くて…可哀想で?怒れなかった。


(殿下のほうが、いい筋肉をしていますよー!!)



    ♢



今日は“秘書官”として初の出勤・・?日。

ブツクサ煩いルークを護衛兼案内人として伴うレティシアは、緊張感のない状態で長い廊下を歩き続け…いつの間にか秘書官室の前を通過、建物の突き当り近くまで来ていた。


「あ、レティシア…秘書官殿?おはようございます」


騎士の制服を格好よく着こなし、背筋をピンと伸ばしたカインが、壁を背にして涼し気な顔で廊下に立っていた。カインの隣には見知らぬ騎士がもう一人、レティシアは軽く二人に会釈をする。

大公殿下の秘書官ともなると、むやみにペコペコ頭を下げていてはいけないらしい。(ゴードンの教え)


「イグニス卿、おはようございます。お仕事中ですか?」

「そう、見張り。大公殿下の執務室前だし?」

「執務室…えっ?ちょっと、ルークさん。私の部屋は他の方たちと別になっているから、そこに連れて行ってくださると仰っていませんでした?!」


レティシアは、案内人のルークをジロリと見上げた。
すると、カインとルークが同時に執務室を指差し、レティシアを見る。


「「…ここだよ…」」

「ここ?だって、ここは………冗談よね?」




──────────




執務室内にも、扉の左右に騎士が二人無言で立っていた。

立派な応接セットが並んで二つ、事務机、ドッシリとした大きな執務机…の上には、溜まった書類が山積みになっている。
漫画でしか見たことのないような絵面に呆然としていると、執務机に座るアシュリーが書類の影からヒョイと顔を出す。


「レティシア…おはよう、待っていたよ」

「…おはようございます、殿下。本日より、よろしくお願い申し上げます」

「あぁ、頼んだよ。今日は初日だから様子見でいい」

「はい、ありがとうございます」


レティシアとて、別に熊の敷物や鹿の剥製を期待していたわけではないが…シンプルで無駄なものを何一つ置かず、室内の壁面はギッシリ本の詰まった本棚だらけ。
窓が少なく、広い部屋の中心まで自然光が届かないため、魔法の灯りで補っている。それが逆に厳かな執務室を演出しているかに思えた。
調度品やカーテンは落ち着いた色調で揃えられ、全体的にノーブルな雰囲気の室内にはアシュリーの魔力香が強く残る。


「とても素敵な執務室ですね、書類の量には驚きですが」

「あぁ、留守の間に溜まった。内容は全て叔父上が確認済みのものばかりだ、承認前に私が一度目を通しておく。後は、収支報告書を出す時期も重なっているし…視察先の資料も多いな」

「大変ですね」

「レティシアはこの隣の部屋、というか…続き間に近いが、そこを使ってくれ」

「隣?…続きとは?執務室と繋がっているのですか?」

「まぁ、見てみるといい。その扉から行けるから」


アシュリーは、本棚と本棚の間にある扉を指し示した。











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