殿下、その真実の愛は偽物です

ミズメ

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(でも、なぜでしょう)

 ユーリアは思う。

(わたくしたちの婚約は、色々な政治的な思惑が絡み合った上での必要不可欠なものと思っていましたわ。でも、殿下はそれを破棄すると仰っている――)

 つまり、だ。

(この場での婚約破棄にはきっと山よりも高く海よりも深い事情があるに違いないですわ)


 ユーリアは何事も深く考える性格である。

 だからこの、突然の婚約破棄にも重大な理由があると考えた。


(だって考えてもみて。こんな公の場で宣告する意味を。婚約破棄は王家にとっても公爵家にとってもひどい醜聞だわ。それをわざわざこうして実行した……相当の理由があるはず)

 婚約は軽いものではない。

 王家に関わらず、貴族同士の婚約がまとまるにはそれなりの工程を踏まなければならない。


 貴族同士の結び付きを認めるには、元老院と呼ばれる貴族から選出される特別な議会を経る必要があるし、その後に教会で神々に誓わなければならない。

「殿下。恐れながら……この件は議会や教会への手続きはお済みなのですか?」

「これからだ。まず君に告げるべきだと思ったからな!」

 変なところで律儀だが、それらその全てを根回しなしにこの婚約を反故にする――よっぽどの理由がないと、ありえないことだ。

 真っ直ぐにこちらを見る王太子の表情は真剣そのものだ。

 冗談を言っているようにも見えないし、仮に冗談だとしても笑えなすぎるけれど。


(もしかして、あの目付きにも何か意味が……?)


 王太子の鋭い眼光が自分の後ろにいる誰かへのアイコンタクトかと思って振り返って見たけれど、後ろにいた恰幅のいい伯爵を驚かせただけだった。
 違うみたい。

 王家は絶大な権力がある。

 それは事実。
 だけれど、各領地を治める領主たち――すなわち貴族たちだって完全に王家の言いなりというわけでは無い。

 それぞれ派閥があり、王家に近い家、反発する家、中立を保つ家、それぞれだ。

 我が公爵家は中立だった。

 かつての王女が降嫁した際に賜った公爵位だけれど、だからといって王家に絶対の忠誠を誓っている訳ではない。

 公爵家の理念と王家の理念に齟齬が生じれば王家に反することを厭わないマクファーデン家のことを、きっと王家は長年煩わしく思っていた事だろう。

 何が起きたかは分からないが、ユーリアの父の代で両者は歩み寄りを見せた。

 それが、この度の婚約だった。

 ユーリアはこれまで邁進してきた妃教育のことを思って気が遠くなる。
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