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第一話 追憶-3
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「ああ、リーナ。貴女をここに独り残さなければならないなんて、不安で胸が押し潰されそうだわ」
「シルフィったら大袈裟よ。それはともかく、卒業おめでとう」
「ありがとう。貴女との学園生活はとても楽しかったわ。だけど、楽しい時間は一瞬で過ぎるものね」
「本当にそう」
この日は貴族子女が通う王立学園の卒業式の日。エカテリーナの遠い血縁であり、一歳年上ながら親友でもあり、姉のように慕いもするシルフィエット・メストロアルが卒業した。子女の多くがそうであるように、シルフィエットは王都の屋敷には戻らず、学園から真っ直ぐ領地へと帰郷する。
エカテリーナはその見送りに駆け付けていた。
正面玄関の広々としたテラスでは、二人同様に別れを惜しむ卒業生や在園生がそこかしこに佇んで言葉を交わす。終わりの時は迎えの馬車の到着。テラスに同時に留められる馬車には限りが有るために順番を待っているのだ。
そんな周囲の話し声は断片的ながらシルフィエットとエカテリーナの耳にも届いている。
「領地にお帰りになる方が多いようね」
「義務でなければ王都にいらっしゃることもなかったのでしょう」
王立学園に三年間通うことが貴族としての身分を得る条件となっているのだが、二人の会話には暗に語られている部分も有る。
平民にさえ暗愚と噂され始めた現国王の失政によって経済が冷え込んでいるところに加え、国王が自らの遊興費用を賄うために増税を繰り返したことから、王家直轄領領民は貧困に喘ぐようになった。そんな彼らは生活のために出稼ぎをするべく王都に押し寄せてもいる。しかし、王都とて直轄領。他の地域ほどでなくとも増税され、都民生活を圧迫している。そこに大勢の者が職を求めて押し寄せるのだから、ただでさえ少なくなった受け入れ余地など瞬く間に尽きる。そこに追い打ちを掛けるように、職を得られなかった者が犯罪に走り、瞬く間に治安も悪化した。
そうした結果、領地で暮らす方が安心できる状況にまでなっているのである。
「やっぱり心配だわ。独りで外に出歩いたりしては駄目よ」
そう言いながら首に腕を回して抱き付くシルフィエットを宥めるように、エカテリーナは軽く彼女を抱き締め返しつつ右手で背中を優しく叩く。
「もう、心配し過ぎよ」
苦笑混じりに答えたエカテリーナの言葉は、シルフィエットの意図したこと、つまり「独りで出歩いて暴漢に襲われたりしないか」に限定すれば、その通りとなる。
◆
それが幸せな日々の終焉だったのだ。
そのシルフィエットはこの場には居ない。エカテリーナはそのことに安堵するとともに唯一残る親友のために祈る。
――私の分まで幸せになって。
今や、エカテリーナには親友だけでなく、親しかった者さえ殆ど残されていない。シルフィエット、その両親であるメストロアル侯爵夫妻、そして疾うに暇を出した傍付きのメイドを始めとした幾人かの使用人のみ。他の者達は既に殺されるか自害して果てた。
彼女自身、先に逝った者達の許へと送られようとしている。
そう、ここは処刑場。階段の上は処刑台。エカテリーナを待つのはギロチンであった。
自らを待ち受けるものを微かに意識に入れると、エカテリーナの脳裏には別の感情が過ぎる。
怒り、憤り、そして憎しみ。先まで親友のために祈っていた穏やかな心は一瞬で闇に染まる。
感情を苛み続ける記憶も呼び起こされた。
「シルフィったら大袈裟よ。それはともかく、卒業おめでとう」
「ありがとう。貴女との学園生活はとても楽しかったわ。だけど、楽しい時間は一瞬で過ぎるものね」
「本当にそう」
この日は貴族子女が通う王立学園の卒業式の日。エカテリーナの遠い血縁であり、一歳年上ながら親友でもあり、姉のように慕いもするシルフィエット・メストロアルが卒業した。子女の多くがそうであるように、シルフィエットは王都の屋敷には戻らず、学園から真っ直ぐ領地へと帰郷する。
エカテリーナはその見送りに駆け付けていた。
正面玄関の広々としたテラスでは、二人同様に別れを惜しむ卒業生や在園生がそこかしこに佇んで言葉を交わす。終わりの時は迎えの馬車の到着。テラスに同時に留められる馬車には限りが有るために順番を待っているのだ。
そんな周囲の話し声は断片的ながらシルフィエットとエカテリーナの耳にも届いている。
「領地にお帰りになる方が多いようね」
「義務でなければ王都にいらっしゃることもなかったのでしょう」
王立学園に三年間通うことが貴族としての身分を得る条件となっているのだが、二人の会話には暗に語られている部分も有る。
平民にさえ暗愚と噂され始めた現国王の失政によって経済が冷え込んでいるところに加え、国王が自らの遊興費用を賄うために増税を繰り返したことから、王家直轄領領民は貧困に喘ぐようになった。そんな彼らは生活のために出稼ぎをするべく王都に押し寄せてもいる。しかし、王都とて直轄領。他の地域ほどでなくとも増税され、都民生活を圧迫している。そこに大勢の者が職を求めて押し寄せるのだから、ただでさえ少なくなった受け入れ余地など瞬く間に尽きる。そこに追い打ちを掛けるように、職を得られなかった者が犯罪に走り、瞬く間に治安も悪化した。
そうした結果、領地で暮らす方が安心できる状況にまでなっているのである。
「やっぱり心配だわ。独りで外に出歩いたりしては駄目よ」
そう言いながら首に腕を回して抱き付くシルフィエットを宥めるように、エカテリーナは軽く彼女を抱き締め返しつつ右手で背中を優しく叩く。
「もう、心配し過ぎよ」
苦笑混じりに答えたエカテリーナの言葉は、シルフィエットの意図したこと、つまり「独りで出歩いて暴漢に襲われたりしないか」に限定すれば、その通りとなる。
◆
それが幸せな日々の終焉だったのだ。
そのシルフィエットはこの場には居ない。エカテリーナはそのことに安堵するとともに唯一残る親友のために祈る。
――私の分まで幸せになって。
今や、エカテリーナには親友だけでなく、親しかった者さえ殆ど残されていない。シルフィエット、その両親であるメストロアル侯爵夫妻、そして疾うに暇を出した傍付きのメイドを始めとした幾人かの使用人のみ。他の者達は既に殺されるか自害して果てた。
彼女自身、先に逝った者達の許へと送られようとしている。
そう、ここは処刑場。階段の上は処刑台。エカテリーナを待つのはギロチンであった。
自らを待ち受けるものを微かに意識に入れると、エカテリーナの脳裏には別の感情が過ぎる。
怒り、憤り、そして憎しみ。先まで親友のために祈っていた穏やかな心は一瞬で闇に染まる。
感情を苛み続ける記憶も呼び起こされた。
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