慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔

文字の大きさ
6 / 38

第一話 追憶-6

しおりを挟む
 王立学園が夏期休暇に入り、エカテリーナがそれまでの気疲れから数日間せっている間に事態は急変する。父のハイデルフト候が王国に叛旗を翻したのだ。
 ハイデルフト候は以前から暗愚な国王と粗暴さの垣間見える王太子に国の未来を憂慮していた。突き詰めればハイデルフト領とその領民の未来をだ。国王直轄領の荒廃が進んで流民が発生すれば、その流入によってハイデルフト領までその渦に巻き込まれる。
 食い止めるには武力を必要とするため、いざと言う時のために王家の排除も視野に入れて準備をしていた。行使していなかったのは国内を動揺させないため。荒廃を避けようとして荒廃させたのでは本末転倒だ。だから使われない武力の筈だった。
 ところが一足先に学園が一人の女学生を元にして荒廃した。その彼女、即ちゲームヒロインの繰り返す不埒な振る舞いについては、エカテリーナに護衛も兼ねて付けているメイドからの報告で早い時期に把握済みだった。しかし、学園の主だった者がことごとく籠絡されるとまでは予想だにしていない。その影響力を量りかねてもいた。
 看過できないほどに危険な状況だと明らかになったのは六月末。ゲームヒロインと王太子によるロビーでの情事だ。直後に王太子が彼女を妃候補としたことで危惧していた未来の到来が約束されたに等しい。
 これを受け、ハイデルフト候は領へと密使を送り、不測の事態に備えて領軍兵士を密かに王都に侵入させるよう手配した。軍の主力を近隣に潜ませることも合わせて手配した。
 軍の準備が整うのは暫く先だ。それまでの間、最も気掛かりなのが娘のエカテリーナである。六月下旬以降、日に日に目に見えて憔悴を深める姿は親として見ていられなかった。原因が王立学園に有るのは明白なため、休学するよう諭したが、自分を頼りにしている友人も居るからと、エカテリーナはかたくなに通い続ける。娘の頑固さに呆れつつも、その周囲にまでは直接的な害が及んでいないことも判っていたのでその意思を尊重して好きにさせていた。しかしもう、そうさせられる状況ではなくなっている。ちょうど夏期休暇に入ったことに安堵したのはハイデルフト候も同じだ。エカテリーナが体調を崩したために延期したが、この機にエカテリーナを領へと送り返す腹づもりでもあった。

 ところが事態は事情を待ってくれない。
 国王直轄領に在る村の一つが襲撃されて灰燼と化した。翌日に実行犯として捕らえられたのがハイデルフト候と親しくしていた貴族の一人だ。その翌日には予め決められていたように財産を没収され、処刑された。
 冤罪だ。国王の自作自演だともハイデルフト候は断定する。襲撃当日に禁足令が発令され、貴族は王都から出られなくなった。第一報さえ届かない頃合いにそうなった。襲撃されたのが重い税負担の軽減を幾度となく訴えていた村であることも理由。その後の対応も拙速過ぎた。そして何より国王直轄軍の一部がくだんの村近辺で目撃されていた。
 日頃から諌言かんげんを繰り返す自分を疎んじて排除に乗り出したのだろうと、その動機も推理する。
 そしてそれは正に真相を突いていた。国王は底を突いた国庫に代わる遊興費用を得るためには略奪すれば良いのだと考えた。耳障りな訴えをする平民を殺して財産を奪えば周りも静かになる。そこそこの財産を持っている者に罪を被せ、その財産を没収することで更に資金を得ることができる。罪を被せる相手がハイデルフト候と縁の有る者ならその権勢を削ぐことにも繋がる。こんな一度で何度も美味しい思いをすることを目論んだのだ。
 お粗末な実行計画と粗雑な実行だったことでハイデルフト候のみならず、多くの貴族が国王の仕業だと察していた。だが、国に対抗するだけの武力を持ち合わせていないことから、火の粉が自分に降り掛からないようにと、殆どの者が沈黙する。
 黙っていられないのがハイデルフト候である。標的にされていることが確実となれば、状況は時が経てば経つほど悪化する。座していれば滅ぼされるのを待つだけとなる。
 くしてハイデルフト候は叛乱を実行に移す決断をした。王家を打倒した後に目指すのは、現在の各領主を君主とした緩やかな連邦制である。
 直ぐさま執事長とメイド長を除く使用人を全て解雇。退職金として手元の金子きんすを全て分け与え、一人ずつ時間差を付けて王都から出るように指示した。皆はいぶかしみつつも従い、最後まで渋っていたエカテリーナ付きのメイドのレミアが王都を後にしたのは三日後のことである。
 残る二人にハイデルフト候は深く詫びた。
 兵力集結の手配は使用人が王都から去るのと平行して進む。王都に侵入済みの兵力で騒擾そうじょうする隙に近隣に潜んでいる主力が侵攻し、国王、王太子、そしてその婚約者の三名を排除する手筈だ。
 だが、叛乱の決行当日、主力が王都に到着しなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

笑顔が苦手な元公爵令嬢ですが、路地裏のパン屋さんで人生やり直し中です。~「悪役」なんて、もう言わせない!~

虹湖🌈
ファンタジー
不器用だっていいじゃない。焼きたてのパンがあればきっと明日は笑えるから 「悪役令嬢」と蔑まれ、婚約者にも捨てられた公爵令嬢フィオナ。彼女の唯一の慰めは、前世でパン職人だった頃の淡い記憶。居場所を失くした彼女が選んだのは、華やかな貴族社会とは無縁の、小さなパン屋を開くことだった。 人付き合いは苦手、笑顔もぎこちない。おまけにパン作りは素人も同然。 「私に、できるのだろうか……」 それでも、彼女が心を込めて焼き上げるパンは、なぜか人の心を惹きつける。幼馴染のツッコミ、忠実な執事のサポート、そしてパンの師匠との出会い。少しずつ開いていくフィオナの心と、広がっていく温かい人の輪。 これは、どん底から立ち上がり、自分の「好き」を信じて一歩ずつ前に進む少女の物語。彼女の焼くパンのように、優しくて、ちょっぴり切なくて、心がじんわり温かくなるお話です。読後、きっとあなたも誰かのために何かを作りたくなるはず。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

【完結】悪役令嬢と自称ヒロインが召喚されてきたけど自称ヒロインの評判がとんでもなく悪い

堀 和三盆
恋愛
 オカルト研究会がやらかした。異世界へ行く魔法陣を作り出そうとして、逆に向こうから自称ヒロインと悪役令嬢を召喚してしまった。魔法陣の製作者によると時間はかかるが元の世界に戻すことは可能らしい。帰還させるまでの間、二人は学校で生徒として保護することで話は付いた。そして生徒会長である俺が悪役令嬢の世話をすることになった。  悪役令嬢は真面目だ。掃除も嫌がらずにやってくれる。優秀な彼女はすぐにこちらの生活に馴染んでくれた。  一方その頃自称ヒロインは……。  ※委員長side(4話)とおまけの1話を追加しました。

【完結】婚約破棄された辺境伯爵令嬢、氷の皇帝に溺愛されて最強皇后になりました

きゅちゃん
ファンタジー
美貌と知性を兼ね備えた辺境伯爵令嬢エリアナは、王太子アレクサンダーとの婚約を誇りに思っていた。しかし現れた美しい聖女セレスティアに全てを奪われ、濡れ衣を着せられて婚約破棄。故郷に追放されてしまう。 そんな時、隣国の帝国が侵攻を開始。父の急死により戦場に立ったエリアナは、たった一人で帝国軍に立ち向かうことにー 辺境の令嬢がどん底から這い上がる、最強の復讐劇が今始まる!

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

処理中です...