慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔

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第一話 追憶-9

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 喧騒の中、実行犯はその場で捕らえられて連行される。
 そのバルコニーに、いつの間にか正装した王太子が登壇する。
「国王陛下が叛乱を企てた逆賊の残党の手に掛かり、崩御された!」
 喧騒が静まりつつあった広場にどよめきが湧き起こる。
たみを虐げ、国をないがしろにする逆賊はけして許されてはならぬ! 必ずや根絶やしにされねばならぬ!」
 一転、広場が静まった。
「だがしかし! その意志を形と為すべき国王陛下は逆賊により、たった今しいされてしまった! 誰かがこの意志を引き継がねばならない!」
 群衆が傾聴する。
「それは誰か! 王太子たる余である!」
 群衆が息を呑む。
「よって今ここに! 余の国王即位を宣言する!」
 歓声が沸き起こる。群衆の中、国王が暗愚だと知る者は悪政からの解放を、そうでない者も新しく明るい未来を期待した。
 そんな群衆に酷薄な笑みを浮かべるのがエカテリーナだ。新国王が狂王になる、いや、既にそうなのだと知らない群衆の何と愚かなことかと、心がささくれだつ。
「そしてこれより国王の名の下に前国王陛下を弑逆しぎゃくした逆賊の処刑を執り行うものなり!」
 再び湧き起こる歓声。その群衆の愚かさがエカテリーナの心に闇を差す。
 今し方まで残っていた人々の安寧を願う心も消えてゆく。

 国王暗殺犯の男がギロチンの前へと引き立てられた。猿轡を噛まされ、焦点の定まらない目をしている。
 エカテリーナにはその男に見覚えが有る。ポチ一号と仮称した貴族の男だ。驚きも有ったが、納得する気持ちの方が大きい。ゲームヒロインへの執着心の強さや口の軽さからすれば、捨て駒にされる方が自然に感じられる。
 続いて未来の狂王たる新国王が処刑台へと登壇する。途中、口角を高く持ち上げつつエカテリーナを見やり、「悔しかろう」などと挑発的に呟く。
 その通りであるエカテリーナとしては歯噛みするばかりだ。ところがそれほどまでに目の仇にされる覚えも無い。そこまでの関わりが直接的には無いのである。敵を作って攻撃することで自分を守ろうとする心の弱い者であれば初対面から敵対的になることも有るが、新国王はそうではない。恐らくは自らの与り知らぬところで彼の野望に対する強固な壁になっていたのだろうと僅かながら溜飲を下げる。
 ポチ一号より一歩前まで進んだ新国王が群衆に向けて剣を掲げる。
「決意の現れとして、余、自らの手によって逆賊を討ち果たしてくれようぞ!」
 そして新国王は剣を掲げたまま一歩下がり、ゆっくりと兵士二人に押さえ付けられているポチ一号へと向き直る。そして逃れようとして必死に振り乱されている首へと剣を振り下ろした。
 ゴトンと言う音と液体の滴る音が響いた瞬間は静寂。しかし次の瞬間には熱狂的な歓声が湧き起こる。
 エカテリーナにはそうした民衆の様子があまりにも愚かしく、滑稽に見える。笑いが込み上げるほどまでに。
「あーっはっはっはははは! あはっあーっはっはっはははは!」
 その哄笑に周りは冷や水を被せられたように静まり返る。
「愚かな民衆よ! お前達の地獄は今より始まることを知れ!」
 そう叫んだエカテリーナからは民衆への情がすっかり消えていた。
 新国王が叫ぶ。
「えーい! |此奴〈こやつ〉を黙らせろ!」
貴方あなたには呪いを与えましょう」
 新国王に応え、そうエカテリーナが言い終わるかどうかの刹那、ぶつんと何かが切れる音に続いて硬い物が擦れる音が響く。
 エカテリーナはもう聞くことの叶わない筈の父、ハイデルフト候の叫び声を聞いた気がした。
 その瞬間、エカテリーナの目に写る景色が回る。
 回る景色の中、思う。

 ――今の台詞は悪役っぽかったですね。

 エカテリーナは思わず笑った。
 目の端に映るのは、恐怖に引き攣ったような表情を浮かべ、彼女から視線を離せないでいる新国王。
 彼のそんな顔が見られたことがエカテリーナには楽しくて仕方のないことであった。
 やがて景色が回るのをやめる。

 最期に見る空は、エカテリーナの目には赤く染まって見えた。
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