生活魔法は万能です

浜柔

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14 『要塞』

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 ドシン!
 キャイン!

 また何かがぶつかる音と狼の悲鳴が轟いた。
 ルキアスが恐る恐る目を開ければ、目前で先とは別の狼が鼻の頭を前足で抱え込むように悶えている。

「兄ちゃん、今日は俺が居るから気にせず座ってな」
「え、でも!?」

 声が少し上擦った。

「大丈夫だ。俺の天職はそう言うもんだ」
「それって一体……」
「『要塞』だ」
「え……、ええっ!?」

 『要塞』は任意の大きさで不可視の防壁を張る天職で、その範囲と強度は保持者の能力に依存する。多少弱くても家一軒を強固に防御することが可能で有名だ。
 ルキアスには殆ど無縁でも『転移』『転送』などと一緒で食いっぱぐれの無い天職だと噂で聞いて知っている。

「そんなに驚くなぃ」
「いや、でも『要塞』って言ったら、国だとかから引っ張りだこの天職ですよね? それがどうして運び屋なんか……」
「俺は運び屋が『なんか』とは思わないが……」
「あ、その、ごめんなさい……」
「まあ、いいさ。俺も運び屋を始める前は『なんか』くらいに思ってたしな」
「ええ……」

(それなのに非難めいた事を言われたぼくって……)

「それはいいとして、確かに国やなんかは雇ってくれるだろうさ。でもよ、一度雇われたらそこから動けなくなるのでも有名だ。深窓の令嬢なんて立場なら城や屋敷から一歩も出なくても何とも思わないんだろうが、俺には堪えられない。だから運び屋になった。『要塞』ならこうやって野宿も安全に過ごせて時間短縮に役立ってくれてるからな」
「はは……」

(どう言う『要塞』の使い方なんだよ……)

 ルキアスから苦笑いが出た。

(だけどそれなら安心だ)

「『要塞』を持っていたらダンジョン探索者も簡単そうですけど……」
「言ったろ? 剣が当たらなくて魔物が倒せないんだよ。『要塞』を張ってる間はこっちも攻撃できないからな」
「おじさんは弓を使ってたんでは……」
「それも言ったろ? 剣を使いたいよなって。俺も最初は剣を使ったんだよ。そのせいで大怪我した。運良く助かったがな」

 おじさんは「見てみるか?」と服を捲って横腹をルキアスに見せる。そこは手の平サイズの大きな傷跡になっていた。

(マジか……)

「さっき、兄ちゃんは目を瞑ったろ? 訓練しないとああなるんだよ。それで運が良くなけりゃ死んじまうんだ」

 おじさんは少し遠い目をする。
 兎相手ならそうはならないなんて反論はさすがにもう言えないルキアスである。
 そのルキアスがふと気付くと、先まで聞こえていた狼の鳴き声や狼が障壁にぶつかる音が聞こえなくなっている。ルキアスがおじさんとあれこれ話している間に狼は諦めて立ち去ったのだ。
 そしてその後はこれと言った話をするでもなく、二人は眠りに就いた。
 ルキアスは色々考えないといけない事が有るように思いつつ、今焦って結論を出しても碌な事にならないとも思いつつ。




 翌朝。ルキアスはおじさんと同時の出発だ。方向が逆なので一緒に歩くことは無い。

「まあ、達者でな」
「ありがとう。おじさんも」
「ああ。じゃあ、縁が有ったらまた会おうぜ」
「はい、また」

(ベクロテに向けて出発だ)

 ルキアスは一歩目を踏み出した。しかしその時。

「おっと、忘れてた! 兄ちゃん!」

 おじさんに呼び止められた。

「はい?」
「これ言うために兄ちゃんに近付いたんだった。鉄に目が行ってすっかり忘れてたぜ」
「はあ……」
「昨夜兄ちゃんは狼が障壁にぶつかるまで気付かなかったろ? もうあんな事にならないように、野宿は町や村の中か、中が駄目なら直ぐ傍でしろよ」
「はい! 判りました!」

(確かにそうだ。昨夜はおじさんと一緒だったから良かったものの、ぼく独りだったら危なかった)

 ルキアスは狼が近付いてるのにも全く気付かないくらいだったから、もしもおじさんが現れなかったら今頃狼の腹の中に居てもおかしくない。おじさんの助言通りにするべきだと考える。

「おう! じゃあ、こんどこそ達者でな!」
「おじさんも!」

(また会いたいな。ぼくが稼げるようになったらおじさんに配達を頼むのも良いかも)

 しかしルキアスは暫く歩いた後で気付いた。

(おじさんの名前、聞きそびれた!
 これじゃ、頼みに行きようが無いじゃないか)
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