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98 脱出
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ルキアスとロマは息を整えるまでに多くの時間を必要とした。
「ルキアス、お陰で助かったぜ」
漸く喋れるようになったロマがまだ少し荒い息を整えつつ言った。
「いえとんでもない。それより急ぎましょう」
「おう」
まだまだ脱出できた訳ではないのだ。悠長に話してはいられない。
二人は階段を目指す。それから幾らも経たずに、ルキアスは自分の歯の根が合わなくなっていることに気付いた。
(まずい。足の感覚が無い)
ここまで気にしていられなかったが、ずっと冷たい水の中なのだ。既に自分の足が何を踏んでいるのかさえ判らない。
そして水に浸かっているのはロマも同じ。いや、より深刻だ。ルキアスを探しに無料宿泊所に行くまでの時間も足を水の中に浸けていて、瓦礫に挟まれたせいで水中に居た時間もルキアスより長い。
ルキアスがそこに考えが及んだ瞬間だった。その横で、ロマがふらっと倒れて水に没するのがルキアスの視界に一瞬映った。
「ロマさん!」
ルキアスは慌ててロマの顔を水から引き上げる。しかしその顔は蒼白で、意識が朦朧としている様子だ。一刻も早くロマの身体を暖めなければ危険だとルキアスにも察せられた。
しかしここは水の中。毛布などは無意味だ。それでもルキアスに可能な選択肢は一つだけあった。
「『加熱』!」
ルキアスはロマと自身とを『加熱』で直接暖めることを試みる。
(無いよりマシな程度だな……)
水に折角の熱を奪われてしまって仄かにしか熱が感じられない。それでもロマの顔色は若干マシなったように見えた。
(急ごう!)
ルキアスはロマを背負って歩き出す。しかし水は首元まで達していて思うように進めない。赤ん坊が這うかの如き有り様だ。
(このままじゃロマさんが!)
ルキアスは焦燥感に苛まれた。『加熱』で多少暖めているとは言え、ロマの身体を早く水から上げなければ危険だ。今の歩く速度では手遅れになりかねない。
(どうしたらもっと速く!?)
これを考えていると、逆に地下二階から地下一階へと上がる階段で水の流れに邪魔されたのが思い出された。
しかしそれはヒントでもある。
(水の流れ!)
水が前から流れてくれば進もうにも進めない。しかし後からなら?
ルキアスは水の中で軽く跳び上がる。
「『水掻き』!」
後から力の限りに水を自分達に当てた。瞬間、局所的に前への水の流れが出来る。床から足を離している二人は水に流されて前へと進んだ。それはただ歩くだけに数倍する速度であった。
「まだか! まだなのか、ルキアスーっ!」
待つだけの時間は長く、焦燥感に耐えきれなくなったザネクは叫んだ。
その後ろ姿を見ながら、誰を案じてかガノスが唇を噛む。だがこの時、高くなり続けるだけだった眼下の水面に異常を見付けた。
「おい、ザネク。あれを見ろ!」
水面に奇妙な穴が空いたかと思うと、流れるように動いて近付いて来る。そして一旦消えてはまた現れ、流れるように動く。その穴がダンジョンタワーの入口へと続く階段の下まで到達すると、今度は穴が少しずつ大きさを増しながら近付く。階段を登るかの如しだ。そしてある程度大きくなった時、その中に人の頭が見えた。
ザネクが目を凝らすと、それは待ち続けた相手の顔だった。
「ルキアス! ルキアスーっ!」
ザネクの声が聞こえたルキアスは更に数段上がった所で『傘』を畳んだ。そこはもう『傘』が無くても足が立つ場所だ。
「ザネク! ロマさんを! ロマさんをお願い!」
ザネクはロマの事を知らなかったが、ルキアスが人を背負っているのを見て駆け出した。
「任せろ!」
「おっしゃ。一仕事だ!」
ガノスもザネクに続く。二人は水に分け入ってルキアスからロマを預かると、ルキアス共々水の中から引き上げる。固唾を飲み込んで見守っていた人々からも歓声が上がった。
これで漸く生き残れた実感を得たルキアスはホッと息を吐く。そして既に限界を超えていたこともあり、知らず知らずに意識は遠退いて行った。
「ルキアス、お陰で助かったぜ」
漸く喋れるようになったロマがまだ少し荒い息を整えつつ言った。
「いえとんでもない。それより急ぎましょう」
「おう」
まだまだ脱出できた訳ではないのだ。悠長に話してはいられない。
二人は階段を目指す。それから幾らも経たずに、ルキアスは自分の歯の根が合わなくなっていることに気付いた。
(まずい。足の感覚が無い)
ここまで気にしていられなかったが、ずっと冷たい水の中なのだ。既に自分の足が何を踏んでいるのかさえ判らない。
そして水に浸かっているのはロマも同じ。いや、より深刻だ。ルキアスを探しに無料宿泊所に行くまでの時間も足を水の中に浸けていて、瓦礫に挟まれたせいで水中に居た時間もルキアスより長い。
ルキアスがそこに考えが及んだ瞬間だった。その横で、ロマがふらっと倒れて水に没するのがルキアスの視界に一瞬映った。
「ロマさん!」
ルキアスは慌ててロマの顔を水から引き上げる。しかしその顔は蒼白で、意識が朦朧としている様子だ。一刻も早くロマの身体を暖めなければ危険だとルキアスにも察せられた。
しかしここは水の中。毛布などは無意味だ。それでもルキアスに可能な選択肢は一つだけあった。
「『加熱』!」
ルキアスはロマと自身とを『加熱』で直接暖めることを試みる。
(無いよりマシな程度だな……)
水に折角の熱を奪われてしまって仄かにしか熱が感じられない。それでもロマの顔色は若干マシなったように見えた。
(急ごう!)
ルキアスはロマを背負って歩き出す。しかし水は首元まで達していて思うように進めない。赤ん坊が這うかの如き有り様だ。
(このままじゃロマさんが!)
ルキアスは焦燥感に苛まれた。『加熱』で多少暖めているとは言え、ロマの身体を早く水から上げなければ危険だ。今の歩く速度では手遅れになりかねない。
(どうしたらもっと速く!?)
これを考えていると、逆に地下二階から地下一階へと上がる階段で水の流れに邪魔されたのが思い出された。
しかしそれはヒントでもある。
(水の流れ!)
水が前から流れてくれば進もうにも進めない。しかし後からなら?
ルキアスは水の中で軽く跳び上がる。
「『水掻き』!」
後から力の限りに水を自分達に当てた。瞬間、局所的に前への水の流れが出来る。床から足を離している二人は水に流されて前へと進んだ。それはただ歩くだけに数倍する速度であった。
「まだか! まだなのか、ルキアスーっ!」
待つだけの時間は長く、焦燥感に耐えきれなくなったザネクは叫んだ。
その後ろ姿を見ながら、誰を案じてかガノスが唇を噛む。だがこの時、高くなり続けるだけだった眼下の水面に異常を見付けた。
「おい、ザネク。あれを見ろ!」
水面に奇妙な穴が空いたかと思うと、流れるように動いて近付いて来る。そして一旦消えてはまた現れ、流れるように動く。その穴がダンジョンタワーの入口へと続く階段の下まで到達すると、今度は穴が少しずつ大きさを増しながら近付く。階段を登るかの如しだ。そしてある程度大きくなった時、その中に人の頭が見えた。
ザネクが目を凝らすと、それは待ち続けた相手の顔だった。
「ルキアス! ルキアスーっ!」
ザネクの声が聞こえたルキアスは更に数段上がった所で『傘』を畳んだ。そこはもう『傘』が無くても足が立つ場所だ。
「ザネク! ロマさんを! ロマさんをお願い!」
ザネクはロマの事を知らなかったが、ルキアスが人を背負っているのを見て駆け出した。
「任せろ!」
「おっしゃ。一仕事だ!」
ガノスもザネクに続く。二人は水に分け入ってルキアスからロマを預かると、ルキアス共々水の中から引き上げる。固唾を飲み込んで見守っていた人々からも歓声が上がった。
これで漸く生き残れた実感を得たルキアスはホッと息を吐く。そして既に限界を超えていたこともあり、知らず知らずに意識は遠退いて行った。
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