188 / 627
188 落下
しおりを挟む
ザネクは崖にしがみつきながら右手を伸ばす。ルキアスもその手に手を伸ばすが、指先が擦って擦れ違った。
「うわわわわわーっ!」
「ルキアース!」
ザネクの叫びが一瞬で遠くなる。だがその声を切っ掛けに、『傘』に乗った時の光景が頭を過ぎった。
「『傘』!」
直感に従って身体の下で上を向け、特大の『傘』を差す。だが風除けになっただけだった。自身からの相対位置で展開される『傘』は落下に合わせて下へと移動する。風除けになる分、却って落下が加速する。
ルキアスは慌てた。
(もっとこっちに!)
慌てたから理論的に考えたものではない。逃げて行く『傘』にどうにか手を届かせたい一心で手前に移動させただけだ。しかしこれによって『傘』の落下速度が落ちる
「ぶべっ!」
動かすのが速ぎたせいでべちゃっと『傘』に張り付き、顔も強かに打ち付けた。が、ルキアス自身の落下速度も遅くなる。
本能的にこれしかないと感じたルキアスは身体の重みを二倍にも三倍にも感じながらも『傘』を更に手前に引く。だが『傘』は元来強度の無いものなのだ。ルキアスのそれが非常識な強度を持っていても、重力の倍以上で加重を掛け続けられて無事で済むのを期待はできない。案の定、ミシッと悲鳴を上げ始めた。
身体が重いせいで横を向いたまま『傘』に張り付いて顔を上げられないルキアスに今どの辺りを落ちているのかは判らない。景色の動きから、まだ落ちているのが判るだけだ。
(保って!)
その願いも空しくミシミシと『傘』が軋む音は激しくなるばかり。そして遂には崩壊した。ルキアスはまた自由落下する。
「わわっ! 『か……、ぐえぇっ!」
慌てて次の『傘』を差そうとしたルキアスだったが、直後に身体に軽い衝撃を受けた。続けて襲って来るのは口の中のジャリジャリ感と、チクチクする目の痛み。何かが口や目に入ったのだ。
「うわっ! なん……! 水、水っ!」
言葉にならない言葉を発しながらも、急いで『湧水』で水を出して目を洗い、口を濯ぐ。ペッペッと濯いだ水を吐き出して、漸く人心地を得る。
ルキアスはここで漸く気付いた。今はもう落ちてないことに。周囲を見回して自分の位置を確かめると、切り立った崖の下だった。『傘』が破れたのは地面に達する直前だったのだ。
「た、助かったぁ……」
ルキアスは改めて脱力した。
「ルキアース!」
「あ、ザネク! こっち!」
ルキアスは息せき切って走って来るザネクに手を振った。
「うわわわわわーっ!」
「ルキアース!」
ザネクの叫びが一瞬で遠くなる。だがその声を切っ掛けに、『傘』に乗った時の光景が頭を過ぎった。
「『傘』!」
直感に従って身体の下で上を向け、特大の『傘』を差す。だが風除けになっただけだった。自身からの相対位置で展開される『傘』は落下に合わせて下へと移動する。風除けになる分、却って落下が加速する。
ルキアスは慌てた。
(もっとこっちに!)
慌てたから理論的に考えたものではない。逃げて行く『傘』にどうにか手を届かせたい一心で手前に移動させただけだ。しかしこれによって『傘』の落下速度が落ちる
「ぶべっ!」
動かすのが速ぎたせいでべちゃっと『傘』に張り付き、顔も強かに打ち付けた。が、ルキアス自身の落下速度も遅くなる。
本能的にこれしかないと感じたルキアスは身体の重みを二倍にも三倍にも感じながらも『傘』を更に手前に引く。だが『傘』は元来強度の無いものなのだ。ルキアスのそれが非常識な強度を持っていても、重力の倍以上で加重を掛け続けられて無事で済むのを期待はできない。案の定、ミシッと悲鳴を上げ始めた。
身体が重いせいで横を向いたまま『傘』に張り付いて顔を上げられないルキアスに今どの辺りを落ちているのかは判らない。景色の動きから、まだ落ちているのが判るだけだ。
(保って!)
その願いも空しくミシミシと『傘』が軋む音は激しくなるばかり。そして遂には崩壊した。ルキアスはまた自由落下する。
「わわっ! 『か……、ぐえぇっ!」
慌てて次の『傘』を差そうとしたルキアスだったが、直後に身体に軽い衝撃を受けた。続けて襲って来るのは口の中のジャリジャリ感と、チクチクする目の痛み。何かが口や目に入ったのだ。
「うわっ! なん……! 水、水っ!」
言葉にならない言葉を発しながらも、急いで『湧水』で水を出して目を洗い、口を濯ぐ。ペッペッと濯いだ水を吐き出して、漸く人心地を得る。
ルキアスはここで漸く気付いた。今はもう落ちてないことに。周囲を見回して自分の位置を確かめると、切り立った崖の下だった。『傘』が破れたのは地面に達する直前だったのだ。
「た、助かったぁ……」
ルキアスは改めて脱力した。
「ルキアース!」
「あ、ザネク! こっち!」
ルキアスは息せき切って走って来るザネクに手を振った。
77
あなたにおすすめの小説
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム)
目を覚ますとそこは石畳の町だった
異世界の中世ヨーロッパの街並み
僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた
案の定この世界はステータスのある世界
村スキルというもの以外は平凡なステータス
終わったと思ったら村スキルがスタートする
レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル
異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった
孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた
そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた
その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。
5レベルになったら世界が変わりました
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・
最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
病弱な僕は病院で息を引き取った
お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった
そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した
魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる