勇者になった幼馴染は聖女様を選んだ〈完結〉

ヘルベ

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あっという間に流される(ジグ視点)

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 王都に着いてから、聖女のマリン様と顔合わせをし、初めて王様を会った。

 聖女様はに照らされ黒い髪に輪っかができていて、最初見た時は天使様と見間違え、たっぷり見惚れてしまった。
 王様は顔こそ普通のおじさんなのに、喋るだけで肌がぴりぴりして、自然と頭を下げたくなるような威厳がある。

 きっと聖女様も王様もこんな機会でも無ければ一生顔を見ることは無かっただろう。

「聖女マリン、勇者ジグよ。若いそなた達にあまりにも重い役目を負わせしまうことを許して欲しい。だがそなた達に頼る他にないのだ」

 王様にこんな風に言われてしまえばもうどうしようもない。
 見たこともない程の豪華な食事を王様と王女様、そして王子様と食べたが全く味わう余裕なんて無かった。
 母と弟妹にも食べさせやりたいけど、持ち帰りなんて出来ないだろうな。

 歓迎されているのは伝わって来るが、一緒に食事させられても村から出て来たばかりの平民の俺にはプレッシャーにしかならない。
 俺個人に当てられた部屋に案内された時、王様ではなく陛下と呼ぶように訂正されたのをよく覚えてる。

 王様から挨拶をされた後は、一日休みを挟んで訓練が始まった。
 体力作りをさせられたけど山育ちの俺には特にきつくもなく、鍬や斧を散々扱ってきたので何百回とさせられる素振りもそこまで辛くなかった。
 しかも今まで剣なんか使ったこと無くてわからなかったのか、それとも勇者として選ばれたからなのか、城で初めて剣を扱ったのに手足のように自由に使えた。

 大体の事はかなりスムーズにこなせたが、きつかったのは隊長の怒号だ。
 のんびりした村で育った俺に、腹から足先まで痺れるような迫力のある隊長の号令、指示は慣れるのに時間が掛かった。

「ジグ、みんな!休憩の時間でしょ?一緒におやつ食べよー!」

 聖女…じゃないマリン様(聖女様と呼ぶと怒られる)は隊長が厳しすぎるのを心配してか、毎日休憩の時間になると差し入れをもって様子を見に来てくれる。
 聖地の力がどんどん弱まってきていて時間が無いとは聞いているけど、突然村から王都に連れて来られて、知らない人間だらけの中訓練をさせられる日々には体力に余裕があっても滅入っていたのだ。
 そんな中マリン様のご厚意は本当に有難かった。

「アンヌのお見舞いに行ったら今日は部屋に入れて貰えたわ。ずいぶん楽になったって言ってた」
「そうですか…良かった。全く、無理やり付いて来るから…」
「なーに言ってるの!ジグが心配で付いて来てくれたんでしょ!」
「それは…そうなんですが。それで倒れてちゃ世話ないというか…」

 アンヌは王都に着くなり調子を崩して熱を出したらしい。
 無理もない、かなり不安がっていたし、初めて村を出たんだ。
 強がりのくせに甘えん坊な奴だから、相当応えただろう。

 マリン様は城中どこでも出入り出来るようで、アンヌの様子を見に行っては逐一報告してくれる。
 俺は訓練もあり、熱を移されでもしたら予定がずれるとお見舞いに行くことを禁止されていた。
 
 訓練の期間は三か月ほどで終了した。
 短すぎると思ったが、そのこの期間で自分でも驚くほど剣が使えるようになっていた。
 少々の差はあれど歴代選ばれて来た勇者たちもそうだったらしい。

 旅に出る時に訓練中に仲良くなった人たちも来てくれて、それは陛下の配慮だそうだ。
 恐怖心すらあった旅に、この気遣いはとても嬉しい。

「お久しぶりね。ジグ」

 王都の人たちに見送られながら門をくぐっているとき、随分久しぶりに見るアンネの顔があった。
 この三か月忙しすぎて、アンヌの様子を見に行く暇がなかったもんな。
 説明は聞いてたが本当に一緒に旅をするのか。

「結局帰んなかったのかよ。おじさんとおばさん心配してるぞ」
「そのセリフそのままお返しするわよ」
「……後悔するぞ。少なくても三年は旅することになるんだからな」
「そういうジグこそ、もう里心ついちゃってるんじゃないの」
「来て早々熱出した奴に言われてもなぁ」
「一回もお見舞いに来なかった薄情者って手紙でチクッてやるんだから」

 思えば三カ月もアンヌと会わないなんて、村に居た頃にはなかった。
 すぐ隣の家だったからな。
 まるで日常が戻って来たかのような会話に安心して、こいつに怪我させないようにしっかり見張ろうと決意した。
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