勇者になった幼馴染は聖女様を選んだ〈完結〉

ヘルベ

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嬉しいよりも困惑(マリン視点)

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 耳を疑ったわ。
 聖地の全てに力を注ぎ終わった瞬間。
 皆で達成した喜びを分かち合っている時に、ジグが私の手を取った。

「マリン様…俺、あなたが好きです。この旅が終わっても、ずっとそばに居させて下さい」

 はあ!?って叫びそうになって、さすがにそれはジグに対して失礼すぎるから飲み込むのが大変だった。
 護衛が聞き耳を立ててる中、私は慌てまくって変な汗が出た。

「ちょ、きゅ、急にそんな…ごめん、そういう風に見た事無かったから…少し、考えさせて…」
「はい。いくらだって待ちます。ただ俺がマリン様を好きだって気持ちだけ知っていて貰いたかったんです。自分勝手ですみません」

 自分を卑下した言い回しのわりに爽やかな笑顔で、なんだかくらくらした。
 かっこいい人からの告白に浮かれそうになると同時に浮かんだのはアンヌの顔。
 なんだか友達を裏切ったような気持ち悪さに、頬に上がってきた熱がすっと冷める。

「ねえ、こんなこと聞くの失礼だけど……アンヌはいいの?」
「アンヌ?」

 ジグがきょとんとして、少し悩む仕草をする。

「多分………勇者に選ばれず、村で一緒に過ごしてたら、アンヌと結婚してたんだと思います。お互いの家族も仲が良かったし」

 きゅっと下腹の内臓を掴まれるような気分になった。
 この痛みは嫉妬なのだろうか、それとも罪悪感なのだろうか。

「でもそんな多分はもう無いんです。俺は勇者としてマリン様と旅をして、あなたを好きになった。それにアンヌには…大切な友達以上の感情は抱いたことがないので」

 聖地に力を取り戻すことに成功して喜んでいる皆の声が遠ざかったような気分だった。
 どうやって宿に帰ったのか覚えてない。
 アンヌの顔を見てからようやく意識がはっきりした。

 どうしよう、って。

 素直に伝えるべき?
 あなたが危険な旅に同行してまで傍にいたかった男が私に告白して来たのよって?
 
 もし黙っていて後でアンヌにバレたりしたらどうなる?
 後々の方がダメージ大きくなるんじゃないの。
 なんでみんな黙ってたのってならない?

 アンヌだって凄く頑張ってくれたのに。
 アンヌのおかげで体調はいつも万全だったから、この旅も歴代の人たちよりもずっと早く完遂できた。
 それなのに。
 
「マリン様、なにかありました?」

 アンヌの顔を見たまま硬直していたみたい。
 心配そうに声を掛けられて泣きそうになる。

「ああ、うん、これでやっと帰れる!って思ったらさすがに疲れ出ちゃったみたい」

 結局誤魔化す方を選んでしまった。
 でもアンヌには通じなかったみたいで、悲しそうに笑った。

「マリン様、お疲れの所ごめんなさい。少しだけ時間貰えますか」
 
 アンネの部屋に連れられ、扉に鍵を付けていいか聞かれたので肯定する意味で頷く。
 それから私は椅子、アンヌはベッドに座って向き合った。
 
「ジグとなにかあったんですね」

 直球で聞かれて俯く。
 何を言っていいかわからない。
 けどアンネは辛抱強く私の返事を待つので、沈黙に耐えかねて口を開いた。

「うん。好きだって言われた」

 瞬間、アンヌくしゃっと今にも泣きそうな表情になる。

「ごめんなさい」

 自分の口から出てしまったのかと思ったけど、謝ったのはアンヌの方だった。
 
「あたしが……いえ、マリン。これ、誰も悪くないんだよ。考えてみて。あたしがジグを心配で付いて来たのも、普通なら心配して当たり前。ジグはあたしと付き合ってた訳じゃ無いんだから誰を好きになったって自由。マリン様がジグに好かれたのだって、」

 ぐっと下唇を噛んだのが見えた。
 それでなんでか、アンネにばかり言わせちゃいけないと思った。

「うんそうだよ。誰も悪くない。勿論、アンヌも」
「……ん。悩ませてごめん。後はあたしのマリンの気持ちの問題で…それに、マリンは別世界に帰らなきゃ行けないんだから、そっちも考えなきゃ」
「そうだよね。ジグって私にこの世界に残って欲しかったのかな。混乱してそこ聞いてなかった」
「マリンはマリンの気持ちで動いて良いんだよ。あたしの気持ちはあたしのものだから。自分のことだけ悩んでて」
「やだ、いい女ね」
「でしょ?」

 出会ってから初めて砕けた口調で話してくれたアンヌ。
 いつの間にか二人とも泣いていて、晩御飯で呼ばれるまで顔をぐしゃぐしゃにしながら色々話した。
 今後の事、お互いの故郷の事、ジグの事、この後祝杯を上げる時に出るであろうご馳走の事。

 色々喋ってる間に体力と魔力を渡されていてびっくりした。
 それを注意したらアンネは「今日は全力で美味しい者食べなきゃ損だし他の人たちががっかりするわよ。主役なんだから」って。

 ジグって見る目無いのね。

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