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第6章 魔界の姫君
第23話 水晶庭園
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「ミューサ様! 何であの子達がまた乗っているのですか!?」
美女が詩の女神ミューサに抗議する。
なぜ抗議しているかというと再びアルフォスの船にポレン達が乗っているからだ。
しかも今度は魔竜グロリアスも一緒に乗る事になった。
巨体の竜が船に乗ったので、美女達が船の脇へと追いやられてしまった。
そのため、美女達から不平不満が飛び交っている。
もしこれにアルフォスの聖竜ヴァルジニアスまで甲板にいたら狭くてしかたなかっただろう。
そのヴァルジニアスはこの船の中の自身の部屋に戻っているから甲板にはいない。おかげで何とか全員乗れている。
「ミューサ様~。あんな子達は追い出してしまいましょうよ」
美女の一名がそう言うと他の美女達も同調し始める。
「ポレン殿下。このままでは戦いなるのさ。どうするのさ?」
「ダメだよ。ぷーちゃん。ここで変身したら」
ポレンは慌ててプチナを止める。
すでにプチナの手が獣へと変化している。
プチナのもう一つの姿は大熊だ。
ポレンは昔の事を思い出す。
小さい頃のプチナは可愛い子熊だった。
プチナの母エリテナがポレンの遊び相手として連れて来たのだ。
ポレンと同じぐらいの大きさの小さな子熊。
ポレンは初めてできた友達といっぱい遊んだ。
だけど子熊は成長して、どんどん大きくなった。
そして、ポレンの部屋の天井に届くほどまで成長してしまった。
遊びにくいなあと、ポレンが感じた時だった。
子熊が小さな人間の姿をした女の子に変化したのだ。
当時のポレンはとてもびっくりした。
小さな子熊がこんな可愛らしい女の子に変わったからだ。
エリテナの話では、エリテナの一族は成長したらもう一つの姿を得る事ができるそうだ。
姿の変わったプチナはエリテナに似ていた。
ポレンはとても羨ましかった。
ポレンは自身の美しい母であるモーナに似たかったからだ。
ポレンは母親と全く似ていない。
その事を考えるとポレンはとても残念に思う。
親子なのだから少しは似ている所があっても良いはずではないかと思わずにはいられないのだ。
だけど、今更そんな事を言っても仕方がない事だとポレンは今更ながら気付く。
そして、師匠であるクーナが言う通り出来る事を全力でしようと考えるのだった。
「落ち着け熊。クロキの戦いが始まる」
クーナもプチナを止める。
クーナの目は真っ直ぐクロキに向けられている。
美女達がポレン達にこれ程の敵意を向けているにもかかわらず、クーナは落ち着いている。
クーナは美女達に全く興味がない様子であった。
「でも師匠。何だか攻撃をしてきそうですよ……」
ポレンは不安そうに言う。
美女達の中にはすでに武器を抜いている者もいる。
今にも襲って来そうであった。
「確かにそうだな。少し黙らせるか」
そう言うとクーナは鎌を持つ。
負けるつもりはないのだ。
このままではこの船の上が血みどろになるだろう。
「お待ちなさい!!」
ミューサが間に立つ。
「武器を収めなさい貴方達! アルフォスは私達が戦うことを望んでいません! 皆戦いが終わるまで待ちなさい! そちらも良いですね!!」
「ああ別に構わんぞ。お前らに構っているとクロキの戦いを見逃しそうだからな。そちらの方が大事だ」
ミューサがそう言うとクーナは鎌を降ろす。
「礼を言います。魔女よ。私もアルフォスの戦いが大事ですからね」
クーナとミューサ、2名の美女が空船の外を見る。
空船から見える山の頂で2名の騎士が剣を抜き構えている。
星の輝きを持つ蒼き聖剣を持つ白麗の聖騎士アルフォス。
黒い剣身に赤い紋様が刻まれた魔剣を持つ暗黒騎士クロキ。
両者は再び戦闘を行おうとしていた。
「クロキ先生……。頑張って」
ポレンは不安な気持ちで、その行方を見守るのだった。
◆
「さて今度こそ一騎打ちだけど、暗黒騎士君。君、強いんだってね」
アルフォスはクロキに尋ねる。
「でも僕には、そうは見えないな。光の勇者君を倒したのだって、単純に彼が弱かっただけかもしれないからね」
アルフォスは笑う。
「だから、ここで確かめさせてもらうよ」
その瞬間だったアルフォスの姿がゆらぐ。
(速い!)
一瞬で間合いを詰められ、クロキは剣を振るうとアルフォスの剣を魔剣で防ぐ。
「へえ、避けたか。まあ、それぐらいは、やってもらわないとね」
アルフォスは余裕の態度を崩さない。
クロキはアルフォスの速さに驚く。
少なくともレイジと同じぐらいの速さであった。
「だけど、僕よりも遅い。これなら、光の勇者君も弱いのだろうね」
アルフォスは再びクロキに向かう。
クロキは向かって来るアルフォスを剣で迎え撃つ。
クロキの剣とアルフォスの剣がぶつかる。
アルフォスはクロキの剣に弾かれ、素早く空中を回転すると後ろに回り、後ろから斬りかかってくる。
その動きは躍っているかのように軽やかであった。
クロキは重心を崩さないようにすり足で移動し、剣で受ける。
「へえ、これも防ぐか。僕が今まで戦った相手よりも強いみたいだね。だけど、僕の動きに付いて来れるかな?」
アルフォスは余裕の笑みを浮かべる。
「確かに速い。だけど、対策がないわけじゃない。こうさせてもらうよ」
クロキは黒い炎を全身から噴き出すと、どこから来ても対処できるようにする
「黒い炎? 確かにそれはやっかいだね。でもね、僕ならそれを打ち破る事ができるよ。出ておいで雪の女王エルーサ! そして雪の乙女達よ!!」
アルフォスが叫ぶと共に強力な冷気が吹きつけて来る。
冷気が止ると巨大な白いドレスを纏った美しい女性がアルフォスの後ろに現れる。
そして、その女性の周りを白いドレスを纏った可憐な少女達が踊りながら空を飛んでいる。
氷の上位精霊の雪の女王と氷の中位精霊の雪の乙女であった。
クロキは強大な力を持つ上位精霊を呼ぶと同時に、これだけの中位精霊を召喚できるアルフォスの魔力に舌を巻く。
「ちょっ! 一騎打ちじゃないの!?」
「すまないね。ちょっとだけ彼女達の力を借りるよ。だけど、君だってランフェルド君と同じように魔王モデスから黒い炎の力をもらったのだろう? だったら、これぐらいは許して欲しいね」
アルフォスは笑って謝る。
それを聞いてクロキは「それは違う」と言いたくなる。
確かにランフェルドはモデスから黒い炎の力を授けられたらしい。
クロキが聞いた話では黒い炎を授けられて、使えたのはランフェルドだけらしく、それはそれですごい事らしい。
だけど、クロキは魔王モデスから力を貰った覚えはない。
この世界に来る事で何故か黒い炎が使えるようになったのである。
もっともアルフォスはその事まで知らないので、魔王モデスから力を貰ったと思っている。
雪の女王が綺麗な声で歌い、複数の雪の乙女が空中を踊りながら飛ぶ。
クロキは周囲の気温が下がるのを感じる。
「悪いけど冷気に対する耐性を持っている。この程度じゃ自分は倒せない」
クロキがそう宣告すると、アルフォスは左の人差し指をチッチッっと振る。
「彼女達は君を攻撃するために呼んだわけじゃないよ。さあ! 見たまえ! 僕の華麗な魔法を!!」
アルフォスは手に持っている剣を指揮棒のごとく振るう。
雪の女王の歌声が大きくなる。
雪の乙女が空中を歌いながら舞い踊る。
その雪の乙女が過ぎ去った後には大きな雪の結晶が舞い落ちる。
とても綺麗な光景であった。
だけど、クロキは綺麗だと眺めているわけにはいかない。
強力な冷気が先程から周囲に吹き荒れている。
氷柱がせり上がり、足元が凍る。
数秒もしないうちに、あたりの景色が変わっていく。
冷気が収まった後にはキラキラと輝く氷柱で支えられた舞台が出来上がる。
氷の舞台は光り輝く氷の華が咲き乱れ、天空にはオーロラの天幕がゆらめいている。
雪の乙女が巻き散らかす大きな雪の結晶が星のように空中に瞬き、周囲を照らす。
「な!? 何だこれ!?」
先程までと違い過ぎる景色になってしまい、クロキは驚きの声を出してしまう。
「水晶庭園。どうだい綺麗だろう? 雪の女王と雪の乙女の共演による氷の幻想空間だよ。この空間ではさすがの黒い炎も本来の威力は出せないはずさ」
アルフォスは両手を広げて自慢するように言う。
確かに自慢するだけあって美しい。
庭園の氷柱と氷華は自ら輝き周囲をキラキラと照らす。
天空にオーロラがゆらめき、その下で楽しげに踊り歌う雪の乙女達はとても幻想的である。
クロキは思わず魅入ってしまいそうになる。
アルフォスが作った魔道結界の範囲は広く、クーナを乗せた空船までも、その範囲に含めている。
「これは上位精霊と複数の中位精霊を使った魔導結界なのかな? なるほど、黒い炎対策ってわけか……」
クロキは美しく光り輝く庭園を見渡す。
「ちょっと違うね。これは魔王を倒すために生み出した魔法だよ。できれば使いたくなかったのだけどね……。先程の空中戦で倒せなかったから仕方がないか。ふふ、光栄に思いなよ、魔王に叩き込むための魔法を君なんかに使ってあげるのだからさ」
アルフォスは自嘲ぎみに笑う。
魔王モデスもまたクロキと同じように黒い炎を使う事ができる。
アルフォスは魔王モデスを倒すためにこの魔法を生み出したのだ。黒い炎を封じる為に。
「魔王を倒すだって?」
「そうさ、光の勇者君なんか必要ない。レーナが僕に頼ってくれるのなら、魔王だって倒してみせるよ」
アルフォスは悲しそうに首を振る。
「だけど、レーナは僕にだけは頼らないんだ。兄としてはちょっと哀しいね。でもまあ、君を倒せばレーナも考えを改めるはずさ。レーナにとって頼りになるのは、この僕だけだとね」
そう言うとアルフォスが突然クロキに向かって来る。
「何っ!!?」
クロキは驚きの声を出す。
アルフォスの動きは先程よりも遥かに速くなっていた。
クロキは慌てて剣を構えて防ぐと、強い衝撃に体勢を崩しそうになる。
一撃を加えたアルフォスはそのまま通りすぎる。
通り過ぎた後には光り輝く七色の幻影が残り、アルフォスの分身を作る。
クロキは振り返ると再びアルフォスがこちらに来るのがわかる。
クロキはアルフォスを待ち構える。
しかし、天空のオーロラのような輝き纏ったアルフォスは自分の剣が届く寸前で分身する。
「くうっ!!!」
クロキは分身したアルフォスの四方からの攻撃を、体勢を崩さないように回転して防ぐ。
この空間はアルフォスの力を上げているのか、速さも威力も最初に比べて格段に上がっている。
「光の勇者君も!! 暗黒騎士の君も必要ない! レーナはどんな男も触れてはならない天上の美姫! 本来なら君達のような薄汚い男が近づく事も許されない存在なのさ! 彼女の横に立つのは僕だけで良い!!」
アルフォスは高速で移動しながら攻撃してくる。
その素早い攻撃にクロキは防戦一方になる。
アルフォスは叫びながら剣を振るう。
その剣はとても速い。
「守ってばかりでは勝てないよ! それとも、君の力はその程度なのかい?!!」
アルフォスは七色に輝く残光を残しながら、庭園を縦横無尽に駆け巡る。
クロキは目で捕えるのがやっとであった。
「何おう!!」
クロキは何とか向かって来るアルフォスに剣を突き出す。
「おっと! そんな剣で僕を捕らえるのは無理だよ!」
「何!!」
クロキはまたしても驚きの声を上げてしまう。
アルフォスはクロキの剣を躱すと、ふわりと飛び、その剣の上に乗ったのである。
クロキは剣の上に乗ったアルフォスを見上げる。
アルフォスは腕組みをして、クロキを見降ろす。
「この程度とはね。君がレーナを変えたなんて、僕の予想も外れかな? まあ、良いさ、お遊びはここまでだ。暗黒騎士君。僕の作った庭園で永遠に眠らせてあげるよ」
そう言ってアルフォスは笑うのだった。
美女が詩の女神ミューサに抗議する。
なぜ抗議しているかというと再びアルフォスの船にポレン達が乗っているからだ。
しかも今度は魔竜グロリアスも一緒に乗る事になった。
巨体の竜が船に乗ったので、美女達が船の脇へと追いやられてしまった。
そのため、美女達から不平不満が飛び交っている。
もしこれにアルフォスの聖竜ヴァルジニアスまで甲板にいたら狭くてしかたなかっただろう。
そのヴァルジニアスはこの船の中の自身の部屋に戻っているから甲板にはいない。おかげで何とか全員乗れている。
「ミューサ様~。あんな子達は追い出してしまいましょうよ」
美女の一名がそう言うと他の美女達も同調し始める。
「ポレン殿下。このままでは戦いなるのさ。どうするのさ?」
「ダメだよ。ぷーちゃん。ここで変身したら」
ポレンは慌ててプチナを止める。
すでにプチナの手が獣へと変化している。
プチナのもう一つの姿は大熊だ。
ポレンは昔の事を思い出す。
小さい頃のプチナは可愛い子熊だった。
プチナの母エリテナがポレンの遊び相手として連れて来たのだ。
ポレンと同じぐらいの大きさの小さな子熊。
ポレンは初めてできた友達といっぱい遊んだ。
だけど子熊は成長して、どんどん大きくなった。
そして、ポレンの部屋の天井に届くほどまで成長してしまった。
遊びにくいなあと、ポレンが感じた時だった。
子熊が小さな人間の姿をした女の子に変化したのだ。
当時のポレンはとてもびっくりした。
小さな子熊がこんな可愛らしい女の子に変わったからだ。
エリテナの話では、エリテナの一族は成長したらもう一つの姿を得る事ができるそうだ。
姿の変わったプチナはエリテナに似ていた。
ポレンはとても羨ましかった。
ポレンは自身の美しい母であるモーナに似たかったからだ。
ポレンは母親と全く似ていない。
その事を考えるとポレンはとても残念に思う。
親子なのだから少しは似ている所があっても良いはずではないかと思わずにはいられないのだ。
だけど、今更そんな事を言っても仕方がない事だとポレンは今更ながら気付く。
そして、師匠であるクーナが言う通り出来る事を全力でしようと考えるのだった。
「落ち着け熊。クロキの戦いが始まる」
クーナもプチナを止める。
クーナの目は真っ直ぐクロキに向けられている。
美女達がポレン達にこれ程の敵意を向けているにもかかわらず、クーナは落ち着いている。
クーナは美女達に全く興味がない様子であった。
「でも師匠。何だか攻撃をしてきそうですよ……」
ポレンは不安そうに言う。
美女達の中にはすでに武器を抜いている者もいる。
今にも襲って来そうであった。
「確かにそうだな。少し黙らせるか」
そう言うとクーナは鎌を持つ。
負けるつもりはないのだ。
このままではこの船の上が血みどろになるだろう。
「お待ちなさい!!」
ミューサが間に立つ。
「武器を収めなさい貴方達! アルフォスは私達が戦うことを望んでいません! 皆戦いが終わるまで待ちなさい! そちらも良いですね!!」
「ああ別に構わんぞ。お前らに構っているとクロキの戦いを見逃しそうだからな。そちらの方が大事だ」
ミューサがそう言うとクーナは鎌を降ろす。
「礼を言います。魔女よ。私もアルフォスの戦いが大事ですからね」
クーナとミューサ、2名の美女が空船の外を見る。
空船から見える山の頂で2名の騎士が剣を抜き構えている。
星の輝きを持つ蒼き聖剣を持つ白麗の聖騎士アルフォス。
黒い剣身に赤い紋様が刻まれた魔剣を持つ暗黒騎士クロキ。
両者は再び戦闘を行おうとしていた。
「クロキ先生……。頑張って」
ポレンは不安な気持ちで、その行方を見守るのだった。
◆
「さて今度こそ一騎打ちだけど、暗黒騎士君。君、強いんだってね」
アルフォスはクロキに尋ねる。
「でも僕には、そうは見えないな。光の勇者君を倒したのだって、単純に彼が弱かっただけかもしれないからね」
アルフォスは笑う。
「だから、ここで確かめさせてもらうよ」
その瞬間だったアルフォスの姿がゆらぐ。
(速い!)
一瞬で間合いを詰められ、クロキは剣を振るうとアルフォスの剣を魔剣で防ぐ。
「へえ、避けたか。まあ、それぐらいは、やってもらわないとね」
アルフォスは余裕の態度を崩さない。
クロキはアルフォスの速さに驚く。
少なくともレイジと同じぐらいの速さであった。
「だけど、僕よりも遅い。これなら、光の勇者君も弱いのだろうね」
アルフォスは再びクロキに向かう。
クロキは向かって来るアルフォスを剣で迎え撃つ。
クロキの剣とアルフォスの剣がぶつかる。
アルフォスはクロキの剣に弾かれ、素早く空中を回転すると後ろに回り、後ろから斬りかかってくる。
その動きは躍っているかのように軽やかであった。
クロキは重心を崩さないようにすり足で移動し、剣で受ける。
「へえ、これも防ぐか。僕が今まで戦った相手よりも強いみたいだね。だけど、僕の動きに付いて来れるかな?」
アルフォスは余裕の笑みを浮かべる。
「確かに速い。だけど、対策がないわけじゃない。こうさせてもらうよ」
クロキは黒い炎を全身から噴き出すと、どこから来ても対処できるようにする
「黒い炎? 確かにそれはやっかいだね。でもね、僕ならそれを打ち破る事ができるよ。出ておいで雪の女王エルーサ! そして雪の乙女達よ!!」
アルフォスが叫ぶと共に強力な冷気が吹きつけて来る。
冷気が止ると巨大な白いドレスを纏った美しい女性がアルフォスの後ろに現れる。
そして、その女性の周りを白いドレスを纏った可憐な少女達が踊りながら空を飛んでいる。
氷の上位精霊の雪の女王と氷の中位精霊の雪の乙女であった。
クロキは強大な力を持つ上位精霊を呼ぶと同時に、これだけの中位精霊を召喚できるアルフォスの魔力に舌を巻く。
「ちょっ! 一騎打ちじゃないの!?」
「すまないね。ちょっとだけ彼女達の力を借りるよ。だけど、君だってランフェルド君と同じように魔王モデスから黒い炎の力をもらったのだろう? だったら、これぐらいは許して欲しいね」
アルフォスは笑って謝る。
それを聞いてクロキは「それは違う」と言いたくなる。
確かにランフェルドはモデスから黒い炎の力を授けられたらしい。
クロキが聞いた話では黒い炎を授けられて、使えたのはランフェルドだけらしく、それはそれですごい事らしい。
だけど、クロキは魔王モデスから力を貰った覚えはない。
この世界に来る事で何故か黒い炎が使えるようになったのである。
もっともアルフォスはその事まで知らないので、魔王モデスから力を貰ったと思っている。
雪の女王が綺麗な声で歌い、複数の雪の乙女が空中を踊りながら飛ぶ。
クロキは周囲の気温が下がるのを感じる。
「悪いけど冷気に対する耐性を持っている。この程度じゃ自分は倒せない」
クロキがそう宣告すると、アルフォスは左の人差し指をチッチッっと振る。
「彼女達は君を攻撃するために呼んだわけじゃないよ。さあ! 見たまえ! 僕の華麗な魔法を!!」
アルフォスは手に持っている剣を指揮棒のごとく振るう。
雪の女王の歌声が大きくなる。
雪の乙女が空中を歌いながら舞い踊る。
その雪の乙女が過ぎ去った後には大きな雪の結晶が舞い落ちる。
とても綺麗な光景であった。
だけど、クロキは綺麗だと眺めているわけにはいかない。
強力な冷気が先程から周囲に吹き荒れている。
氷柱がせり上がり、足元が凍る。
数秒もしないうちに、あたりの景色が変わっていく。
冷気が収まった後にはキラキラと輝く氷柱で支えられた舞台が出来上がる。
氷の舞台は光り輝く氷の華が咲き乱れ、天空にはオーロラの天幕がゆらめいている。
雪の乙女が巻き散らかす大きな雪の結晶が星のように空中に瞬き、周囲を照らす。
「な!? 何だこれ!?」
先程までと違い過ぎる景色になってしまい、クロキは驚きの声を出してしまう。
「水晶庭園。どうだい綺麗だろう? 雪の女王と雪の乙女の共演による氷の幻想空間だよ。この空間ではさすがの黒い炎も本来の威力は出せないはずさ」
アルフォスは両手を広げて自慢するように言う。
確かに自慢するだけあって美しい。
庭園の氷柱と氷華は自ら輝き周囲をキラキラと照らす。
天空にオーロラがゆらめき、その下で楽しげに踊り歌う雪の乙女達はとても幻想的である。
クロキは思わず魅入ってしまいそうになる。
アルフォスが作った魔道結界の範囲は広く、クーナを乗せた空船までも、その範囲に含めている。
「これは上位精霊と複数の中位精霊を使った魔導結界なのかな? なるほど、黒い炎対策ってわけか……」
クロキは美しく光り輝く庭園を見渡す。
「ちょっと違うね。これは魔王を倒すために生み出した魔法だよ。できれば使いたくなかったのだけどね……。先程の空中戦で倒せなかったから仕方がないか。ふふ、光栄に思いなよ、魔王に叩き込むための魔法を君なんかに使ってあげるのだからさ」
アルフォスは自嘲ぎみに笑う。
魔王モデスもまたクロキと同じように黒い炎を使う事ができる。
アルフォスは魔王モデスを倒すためにこの魔法を生み出したのだ。黒い炎を封じる為に。
「魔王を倒すだって?」
「そうさ、光の勇者君なんか必要ない。レーナが僕に頼ってくれるのなら、魔王だって倒してみせるよ」
アルフォスは悲しそうに首を振る。
「だけど、レーナは僕にだけは頼らないんだ。兄としてはちょっと哀しいね。でもまあ、君を倒せばレーナも考えを改めるはずさ。レーナにとって頼りになるのは、この僕だけだとね」
そう言うとアルフォスが突然クロキに向かって来る。
「何っ!!?」
クロキは驚きの声を出す。
アルフォスの動きは先程よりも遥かに速くなっていた。
クロキは慌てて剣を構えて防ぐと、強い衝撃に体勢を崩しそうになる。
一撃を加えたアルフォスはそのまま通りすぎる。
通り過ぎた後には光り輝く七色の幻影が残り、アルフォスの分身を作る。
クロキは振り返ると再びアルフォスがこちらに来るのがわかる。
クロキはアルフォスを待ち構える。
しかし、天空のオーロラのような輝き纏ったアルフォスは自分の剣が届く寸前で分身する。
「くうっ!!!」
クロキは分身したアルフォスの四方からの攻撃を、体勢を崩さないように回転して防ぐ。
この空間はアルフォスの力を上げているのか、速さも威力も最初に比べて格段に上がっている。
「光の勇者君も!! 暗黒騎士の君も必要ない! レーナはどんな男も触れてはならない天上の美姫! 本来なら君達のような薄汚い男が近づく事も許されない存在なのさ! 彼女の横に立つのは僕だけで良い!!」
アルフォスは高速で移動しながら攻撃してくる。
その素早い攻撃にクロキは防戦一方になる。
アルフォスは叫びながら剣を振るう。
その剣はとても速い。
「守ってばかりでは勝てないよ! それとも、君の力はその程度なのかい?!!」
アルフォスは七色に輝く残光を残しながら、庭園を縦横無尽に駆け巡る。
クロキは目で捕えるのがやっとであった。
「何おう!!」
クロキは何とか向かって来るアルフォスに剣を突き出す。
「おっと! そんな剣で僕を捕らえるのは無理だよ!」
「何!!」
クロキはまたしても驚きの声を上げてしまう。
アルフォスはクロキの剣を躱すと、ふわりと飛び、その剣の上に乗ったのである。
クロキは剣の上に乗ったアルフォスを見上げる。
アルフォスは腕組みをして、クロキを見降ろす。
「この程度とはね。君がレーナを変えたなんて、僕の予想も外れかな? まあ、良いさ、お遊びはここまでだ。暗黒騎士君。僕の作った庭園で永遠に眠らせてあげるよ」
そう言ってアルフォスは笑うのだった。
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