163 / 291
不安定なこの世界(5)
しおりを挟む
☆☆☆
「私、エドガー連隊長の妻を目指すわ♡」
身体を清める為に女性兵士テントにお邪魔した私は、上ずった声のマリナと疲れた顔をしたミラに迎えられた。
「……マリナはどうしちゃったの?」
キャミソールから零れそうな大きな胸を揺らしながら、マリナはテント内を派手に転げ回っていた。明らかに他の女性兵士達が迷惑そうにこちらを窺っているね。彼女達に頭を下げながらミラが私へ説明した。
「昨日の戦闘で、マリナはエドガー連隊長に一目惚れしちゃったのよ」
「ちょっとそれ違うわよ、一目惚れじゃないわ! 私のあの方への愛は、そんな瞬間的な薄っぺらいものじゃないの!!」
「へーへー」
夕べは財宝奪還を狙ったアンダー・ドラゴンの下っ端部隊が、私達がテントを張った草原のあっちこっちに出現した。ミラとマリナもエドガー連隊長に率いられて、北東から襲ってきた部隊の一つと激突していた。
「マリナね、その戦闘で敵に肩を斬られたんだ」
「ええっ!? 大丈夫なの!?」
テントを転がるマリナには一見して怪我は無いようだが……?
「あの時はもう死ぬかと思ったわ。でも連隊長が魔法で土の壁を築いてくれて、敵の追撃を防いでくれたの」
なるほど。エドガーの魔法属性は土か。
「そこからは連隊長の独壇場だったよね。部下を斬られて怒った連隊長が、剣と魔法で敵をボッコボッコ」
「そう。あの方は私の為に怒って下さったのよ。それに……ああ~~♡」
またマリナはテント内を激しくローリングした。ワニみたい。よく目が回らないものだ。
「負傷した私を背負って下さったの! 更に信じられないことに、師団長の元へ行って私の手当をお願いして下さったのよ!? 下級兵であるこの私の為に!!」
破格の待遇だ。エドガーは非常に部下想いの騎士らしい。今のマリナに怪我が無いのは、ルービックの治療魔法を受けたからか。
「ああ、そこまでされたら好きになっちゃうね」
おんぶネタはとってもタイムリー。私もゆうべエリアスに背負われた。夢の中では衛藤先輩に。
「でしょう!? ロックウィーナなら私の気持ちを解ってくれると思ったわ!」
「いや私も解るよ? でも夕べからずっとハイテンションなんだもん。いい加減ウザい」
周囲の女兵士達もミラに同調してうんうん頷いていた。
「だぁってえぇ~♡♡♡」
まったく悪びれずにマリナは♡マークを量産していた。そこへテントの入口方向から声がかかった。
「認識番号7-3321、マリナは居る?」
「え? はぁい」
入口で体格の良い中年の女性兵士が手招きしていた。
「すぐにテントから出なさい。エドガー連隊長がお呼びよ!」
「えっ!? はい、ただちに!」
飛び上がらんばかりに驚いたマリナは慌ててテントの入口へ向かおうとしたが、親友のミラが上からズボッとワンピースタイプの服を被せた。
「馬鹿っ、そんな格好で行ったら露出狂よアンタ!」
「そ、そうだったわ! ありがとう!!」
ほぼ下着姿だったからね。急いで服を着たマリナは今度こそテントを出ていった。私とミラは顔を見合わせてから、こっそり追ってマリナとエドガーの様子を覗くことにした。完全に好奇心です。
テントを出た少し先で二人は立ち話をしていた。
「怪我の具合はどうだろうか?」
「はいっ、治療して頂いたおかげで、一切の痛みも痕も残っておりません!」
高官相手なので、マリナはいつものフワフワ口調ではなくキビキビ話していた。エドガーも真面目な対応だ。デート風景を期待していた私達は少しガッカリした。
「それは良かった。治療に当たって下さった師団長にもお伝えしておこう」
「はいっ、ありがとうございます!」
「ではな」
「エドガー連隊長!!」
立ち去りそうだったエドガーをマリナは呼び止めた。頑張れ。
「治療して下さった師団長にお礼申し上げます!」
「ああ」
「そして連隊長には最大限の感謝を捧げます!!」
「……ん?」
「わたくしが今こうして生きていられること、連隊長のおかげだと思っております。決してご恩は忘れません。本当にありがとうございました!」
「そうか……」
エドガーは口元を緩めた。
「同じ第七師団の兵士として、今後の活躍を期待している」
「はいっ、精進致します!」
今度こそエドガーは去り、残されたマリナの元へ私とミラは向かった。振り返ったマリナは潤んだ瞳で私達に質問した。
「ねぇ……正直に言って。エドガー連隊長に私、少しは脈が有ると思う……?」
「有ると思う」
私が答えてミラも続いた。
「うん……素で驚いた。わざわざ個別に会いに来てくれるなんてね。アンタに気が無ければしないでしょ」
「やっぱり!? そうよね! ああ嘘みたい倒れそう、どうしよう!!」
マリナはミラに抱きついてキャーキャーはしゃいだ。それを見守る私の目尻は自然と垂れた。
ねぇアルクナイト、新しい恋人達が誕生しそうだよ。
第七師団の面々は繰り返された十日間に登場しなかった。せいぜいルービックの名前だけ。でも今、目の前には血肉を持った友達が居る。神様が書いた物語ではない、新しい世界と人々が生まれたんだよ。
護ろう、この世界を。希望の灯を消しちゃいけない。崩壊なんてさせない。
今はまだ私とアルクナイトだけの約束。でもいつかはみんなと力を合わせることになる。時間のループを越えた時みたいに。
きっとまたできる。そして長生きしよう。新しい世界の物語はもう始まっているのだから。
「私、エドガー連隊長の妻を目指すわ♡」
身体を清める為に女性兵士テントにお邪魔した私は、上ずった声のマリナと疲れた顔をしたミラに迎えられた。
「……マリナはどうしちゃったの?」
キャミソールから零れそうな大きな胸を揺らしながら、マリナはテント内を派手に転げ回っていた。明らかに他の女性兵士達が迷惑そうにこちらを窺っているね。彼女達に頭を下げながらミラが私へ説明した。
「昨日の戦闘で、マリナはエドガー連隊長に一目惚れしちゃったのよ」
「ちょっとそれ違うわよ、一目惚れじゃないわ! 私のあの方への愛は、そんな瞬間的な薄っぺらいものじゃないの!!」
「へーへー」
夕べは財宝奪還を狙ったアンダー・ドラゴンの下っ端部隊が、私達がテントを張った草原のあっちこっちに出現した。ミラとマリナもエドガー連隊長に率いられて、北東から襲ってきた部隊の一つと激突していた。
「マリナね、その戦闘で敵に肩を斬られたんだ」
「ええっ!? 大丈夫なの!?」
テントを転がるマリナには一見して怪我は無いようだが……?
「あの時はもう死ぬかと思ったわ。でも連隊長が魔法で土の壁を築いてくれて、敵の追撃を防いでくれたの」
なるほど。エドガーの魔法属性は土か。
「そこからは連隊長の独壇場だったよね。部下を斬られて怒った連隊長が、剣と魔法で敵をボッコボッコ」
「そう。あの方は私の為に怒って下さったのよ。それに……ああ~~♡」
またマリナはテント内を激しくローリングした。ワニみたい。よく目が回らないものだ。
「負傷した私を背負って下さったの! 更に信じられないことに、師団長の元へ行って私の手当をお願いして下さったのよ!? 下級兵であるこの私の為に!!」
破格の待遇だ。エドガーは非常に部下想いの騎士らしい。今のマリナに怪我が無いのは、ルービックの治療魔法を受けたからか。
「ああ、そこまでされたら好きになっちゃうね」
おんぶネタはとってもタイムリー。私もゆうべエリアスに背負われた。夢の中では衛藤先輩に。
「でしょう!? ロックウィーナなら私の気持ちを解ってくれると思ったわ!」
「いや私も解るよ? でも夕べからずっとハイテンションなんだもん。いい加減ウザい」
周囲の女兵士達もミラに同調してうんうん頷いていた。
「だぁってえぇ~♡♡♡」
まったく悪びれずにマリナは♡マークを量産していた。そこへテントの入口方向から声がかかった。
「認識番号7-3321、マリナは居る?」
「え? はぁい」
入口で体格の良い中年の女性兵士が手招きしていた。
「すぐにテントから出なさい。エドガー連隊長がお呼びよ!」
「えっ!? はい、ただちに!」
飛び上がらんばかりに驚いたマリナは慌ててテントの入口へ向かおうとしたが、親友のミラが上からズボッとワンピースタイプの服を被せた。
「馬鹿っ、そんな格好で行ったら露出狂よアンタ!」
「そ、そうだったわ! ありがとう!!」
ほぼ下着姿だったからね。急いで服を着たマリナは今度こそテントを出ていった。私とミラは顔を見合わせてから、こっそり追ってマリナとエドガーの様子を覗くことにした。完全に好奇心です。
テントを出た少し先で二人は立ち話をしていた。
「怪我の具合はどうだろうか?」
「はいっ、治療して頂いたおかげで、一切の痛みも痕も残っておりません!」
高官相手なので、マリナはいつものフワフワ口調ではなくキビキビ話していた。エドガーも真面目な対応だ。デート風景を期待していた私達は少しガッカリした。
「それは良かった。治療に当たって下さった師団長にもお伝えしておこう」
「はいっ、ありがとうございます!」
「ではな」
「エドガー連隊長!!」
立ち去りそうだったエドガーをマリナは呼び止めた。頑張れ。
「治療して下さった師団長にお礼申し上げます!」
「ああ」
「そして連隊長には最大限の感謝を捧げます!!」
「……ん?」
「わたくしが今こうして生きていられること、連隊長のおかげだと思っております。決してご恩は忘れません。本当にありがとうございました!」
「そうか……」
エドガーは口元を緩めた。
「同じ第七師団の兵士として、今後の活躍を期待している」
「はいっ、精進致します!」
今度こそエドガーは去り、残されたマリナの元へ私とミラは向かった。振り返ったマリナは潤んだ瞳で私達に質問した。
「ねぇ……正直に言って。エドガー連隊長に私、少しは脈が有ると思う……?」
「有ると思う」
私が答えてミラも続いた。
「うん……素で驚いた。わざわざ個別に会いに来てくれるなんてね。アンタに気が無ければしないでしょ」
「やっぱり!? そうよね! ああ嘘みたい倒れそう、どうしよう!!」
マリナはミラに抱きついてキャーキャーはしゃいだ。それを見守る私の目尻は自然と垂れた。
ねぇアルクナイト、新しい恋人達が誕生しそうだよ。
第七師団の面々は繰り返された十日間に登場しなかった。せいぜいルービックの名前だけ。でも今、目の前には血肉を持った友達が居る。神様が書いた物語ではない、新しい世界と人々が生まれたんだよ。
護ろう、この世界を。希望の灯を消しちゃいけない。崩壊なんてさせない。
今はまだ私とアルクナイトだけの約束。でもいつかはみんなと力を合わせることになる。時間のループを越えた時みたいに。
きっとまたできる。そして長生きしよう。新しい世界の物語はもう始まっているのだから。
1
あなたにおすすめの小説
時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜
いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。
突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。
この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。
転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。
※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる