ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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想いは解放されて願いとなる(7)

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『グボオォォ。グズブウゥゥゥ』

 鼻呼吸ができない個体らしくいびきがうるさい。
 キースが私の傍にピッタリくっ付いた。いざという時に防御障壁で私を護る為だ。いつものことなのだが、関係がこじれている今は涙が出そうになるほどに嬉しい。

「……キミはあくまでもみんなのサポート役だ。積極的に前へ出ようなんて決して考えるな」

 うん、解ってる。今の私の腕でドラゴン退治に挑むのは無謀だ。マキアに強化してもらった鞭でも牽制くらいしかできないだろう。みんなの邪魔はしない。

『グボオォォォ……ガッ!?』

 ドラゴンが目を覚ました。左右から走り込んだエンとユーリによって身体を斬り刻まれたのだ。
 ニンジャーズの置き土産として小さな炎が上がり、表皮の一部が白く氷結した。よし、エンチャントされた武器が効いている!

『ゴアァァッ』

 ドラゴンは長い尻尾を振って二人をぎ払おうとした。しかし読んでいたのか、エンとユーリは後退しつつ余裕を持ってかわした。
 
「己が影に囚われよ、拘束!!」

 マシューの声と共にドラゴンの影から無数の闇の手が出現した。長く伸びたそれはグルグルとドラゴンの巨体へ巻き付いたが────、

『ヴオォォ!』

 地団駄を踏んだドラゴンによって闇の手は千切れて消滅し、魔法を返された形のマシューは後方へ吹っ飛んだ。

「マシュー!」

 大地に片手を付いて止まったマシューが悔しそうに言った。

「くそ、力が強くて質量も大きい。人間相手みたいにはいかないか」
「みんな散開しろ! ヤツがブレスを吐く!!!!」

 緊迫した声でマスターが怒鳴り、全員が急いでドラゴンから離れた。まずキイィィンと耳鳴りみたいな音して、

 ブシュオアァァァァ!!!!!!

 大きな口から雷が放出された。眩しい。
 私とマキアと黒猫はキースの障壁で護られて無事だった。他のメンバーも上手くけたのだが、エンが一人ビクッと大きく身体を震わせてその場に両膝を付いた。どうして? 彼にも雷は当たっていないはずなのに!

「エン!?」
「だ、大丈夫。大したことは……ない」

 良かった。ふらついているがエンは自力で立ち上がった。
 見ると彼のつま先がわずかに水溜りを踏んでいる。きっとそこから感電したのだ。
 純粋な水は雷を通さないが、電解質であるイオンが含まれた水は広範囲に電流を拡散する。岩見鈴音の世界と私の脳がリンクしているので得た知識だ。
 ドラゴンのよだれと喰われた人間の体液が周辺の水に溶け込んで、塩素とナトリウムのイオン結合が起きたのだろう。

「野郎!」

 ユーリが右手のクナイを投げ付けた。クナイは投擲とうてき武器にもなるのだ。刺さったドラゴンの左腕一部が氷結する。

『ギュオッ』

 完全に怒ったドラゴンがユーリへ突進する。巨体なのに速い。ユーリは近くの樹へ瞬時によじ登ったが、ドラゴンの体当たりによって樹が倒された。何てパワーだ。

「危ねぇ!」

 樹の下敷きにならないようにユーリは逃れた。しかしドラゴンが尚も彼を襲う。ドラゴンが滅茶苦茶に腕を振り回してその爪がユーリの脇腹をかすめた。

「ふんっ」

 ユーリのピンチを救ったのは大ジャンプをしたソルだった。飛翔した彼はドラゴンの背中に剣を深く突き刺した。ペキペキッと背中の広範囲が白く凍った。

『グギュウオォォ!!!!』

 大ダメージにドラゴンが暴れた。ソルは追撃をせず、剣を抜いて再ジャンプしてその場から離れた。ヒット&アウェイ戦法だ。
 そこへマキアが火球を叩き込む。

「我が敵を撃て! ファイアーボール!!」

 ボンボンボン! 三連の炎がドラゴンの背中を焼いた。凍傷の次は火傷。爬虫類の王は痛みでのたうった。
 起死回生を図りドラゴンはまたブレスを吐こうと首を私達へ向けて下げた。

「もらったあぁぁぁ!!!!」

 ここで真打ち登場。マスターが走り寄り、低い位置に在ったドラゴンの首を両手剣で一気にねた。スパーンと。それはもう気持ち良く。

『???』

 ドラゴンは何が起きたのか解らなかっただろう。視界が急にグルンと回転したのだ。実際に回転したのは胴体と分断された彼の頭部なのだが。
 一拍置いてから首の切断面から大量の血が噴き出して、ドラゴンは活動を停止した。

(た、倒したの……!?)

 Sランクの魔物をこの短時間で討伐成功。みんな本当に強いんだな。
 地面を転がったドラゴンの頭を眺めて、マスターが満足そうに笑った。

「ふん、俺もまだまだやれそうだな」

 歴戦の勇士の笑みだ。やだカッコイイ。寂しい頭髪がまったく気にならない。
 ところが次の瞬間マスターはその場に崩れ落ちた。

「……キース、すまん。腰、腰がヤバイ……」

 ドラゴンには勝利したが寄る年波には勝てなかった。

「待ってて。ユーリとエンの治療の方が先だからね?」

 呆れ顔で、でも笑顔でキースが負傷者の方へ歩いていった。マキアはエンの元へ駆けていき、入れ替わりにマシューが背後から傍へ来た。

「俺ぜーんぜん活躍できなかった」
「私だってそうだよ、立ってただけ。でも大きな怪我をする人が居なくて良かった」
「まーね」

 不貞腐れていたマシューも笑った。私達もみんなの元へ行き、ギックリ腰でヘロヘロのマスターが宣言した。

「Sランクミッションクリアだ! ギルドへは委託金と保険料の収入が入るから、クリア報酬はおまえらに臨時ボーナスとしてくれてやる!!」
「マジで? やったぁ!!」

 歓声と拍手が上がった。私は何もしていないから貰う訳にはいかないけど、頑張ったみんなが報われて何よりだ。
 私は……焦っちゃ駄目だと解っているんだけど、キースとの距離を詰めたいなぁ。仲間を治療する彼の横顔を寂しい想いで見つめた。
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