ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
285 / 291

世界の秘密(3)

しおりを挟む
 私は怒ったのだが、お母さんが悲しそうに笑った。

「意識の無いあなたの顔を見ていると、いろんなことを考えちゃってね……。私、鈴音の子供時代の思い出で気を紛らわしていたのよ」
「お母さん……」

 心配させた罪悪感が凄い。親不孝して本当にごめんなさい。
 でもアルバムは付き合ってもいない先輩に見せたらイカンやつ。

「あ、そうだ。あとね、これも衛藤くんに読んでもらったよ!」

 お母さんが無邪気にトートバッグから取り出した、ポリプロピレンの樹脂製ファイル。私はそれを見て大げさではなく卒倒しそうになった。

 【ギルド回収人は勇者をも背負う】

 市販されている一般的な文房具であるファイルの表紙に、油性ペンでデカデカとそう書かれていた。
 私はコレを知っている。だって書いたの私なんだもん。

 【ギルド回収人は勇者をも背負う】

 二度見したが現実は変わらなかった。ファイルには数十枚のルーズリーフがじられている。
 そう、これは勇者エリアスとロックウィーナの恋を描いた異世界ファンタジー。あちらの世界の基礎となった、私の妄想が炸裂した中二病小説である。

 読んでもらった……? 衛藤先輩にコレを!?
 死んだ。本気でそう思った。

「ぎゃは────────!!!!!!!!」

 断末魔を上げた私の肩をポンポンと叩いて、お母さんは笑顔でファイルを私に手渡した。

「そんな大きな声を出せるようになるなんて、本当に元気になったんだねぇ」

 そうじゃねぇよマザー。そこじゃないんだよ──!!

「何てことしてくれたの! アルバムだけじゃなく、こんなものまで先輩に見せるなんて!!」
「あら衛藤くん、ずいぶんと熱心に読んでいたわよ?」
「ヒイィッ! お母さん、私の部屋を家探ししたの!?」
「いえ? しばらくあなたは家に帰れないだろうから、私が掃除してあげようと思って。ソレは机の上に普通に乗ってたよ。だから見てもいいものだと」

 ぐあぁ、隠し忘れた!! 普段はお母さん、勝手に私の部屋へ入らないから油断していたよ!

「照れなくて大丈夫、お母さんも読んだけどすごく良い作品だったよ! 鈴音は文章の才能が有るのね! でも少しだけ独りよがりな展開が気になったかな? 作者には当たり前の世界観でも、読み手にとっては初めて触れる設定なんだから、解りやすく伝えることが今後の課題だね☆」

 まるで編集者のようなアドバイスをして、お母さんは棚の上の花瓶を手にした。

「それじゃ私、花をけてくるね」

 そして灰と化した私を残して、鼻唄まじりに颯爽と病室から出ていったのだった。
 ルディオが姿を現した。

『ねぇスズネ、もしかしてそれが僕達の世界の元になった小説なん? 見せて見せて!』

 私は我に返った。冗談じゃない、恥の上塗りをしてたまるか。二次災害を阻止すべく、胸にしっかりとファイルを抱きしめた。
 しかしニャンコが横から引っ張ろうとするのですよ。

「ちょっと駄目、駄目──!!」
『何でさ』
「コレ誰かに読ませる為に書いたんじゃないの! 私の自己満足用なの!!」
『僕達が住んでいた世界は素晴らしい所だったじゃないか』
「ありがとう、私もそう思う。でも元ネタは見せられないの。中二病全開なんだから!」
『中二病とは、思春期時代にしがちな背伸び行動のことだよね?』

 うわぁコイツ、すっかり現実世界の雑学知識に馴染んでいる。
 ルディオとファイルを引っ張り合っていると、ルーズリーフの間から一枚の紙がヒラヒラと落ちてきた。

『ん? 何ソレ』

 ノートの切れ端だ。ルディオが拾ってひっくり返してみた。何か書いてあったようだ。
 読んだ彼は眉をひそめた。

「……どうしたの?」

 ルディオが何とも言えない表情を浮かべて、黙って私に紙片を差し出した。
 受け取った私もソレを読み、しばし身体を硬直させた。


☆☆☆☆☆☆
 面白かったです。テンポが良くて読みやすかった。
 エリアスがカッコ良くて、こういう男になりたいと憧れました。

 もし続編の予定が有るなら、俺は騎士が好きなので、ルパートの古巣である聖騎士達の活躍が見たいです。
 あと動物も! 魔王の使い魔として猫のキャラクターなんてどうだろう?


 キミが目覚めるのを待っています。頑張れ岩見ちゃん!
☆☆☆☆☆☆


『ねぇ、コレって……』

 ルディオが私を窺う。でも私は彼へ反応してやれなかった。
 何度も何度もメモを読み返した。
 名前は書かれていなかった。でも私はこのメモを挟んだ人物が誰なのかすぐに解った。力強く温かい筆跡。

 そしてあの世界で感じていた違和感の正体を知った。

「衛藤……先輩」

 ループの後に登場した、私が設定していないキャラクター達。聖騎士三人組、魔王の使い魔として活躍した猫三兄弟。
 宮殿に咲いていたオレンジ色のガーベラ。
 そして先輩と同調リンクしていたエリアスさん。

「先輩…………」

 メモを持つ手が震えた。
 あの世界に干渉していたのは、女神の私だけではなかったのだ。

 衛藤先輩はメモを仕込んだだけではなく、きっとお母さんが席を外した時に話しかけてくれた。眠っている私へ。
 先輩だけではなくお父さんやお母さんも。みんなして私へ呼びかけていたんだろう。目覚めることを信じて。何度も根気よく。待ってるから頑張れって。

「お父さん……お母さん……」

 あちらの世界に居る私に彼らの声は聞こえなかった。でも意識の奥には届いていたんだ。
 それが精神世界に力を与えた。新たな命となった。
 私が女神の力を失った後も、しばらく世界が存在し続けたのがその証拠だ。

 衛藤先輩の言霊ことだまは、自分をモデルにしたキャラクターのエリアスさんと同調リンクした。
 時にエリアスさんとして、時に衛藤先輩として、彼らは世界と私を護ってくれたのだ。

 私は泣いた。お母さんが戻ってきてまた心配されたけど泣き続けた。
 花瓶にけられたガーベラの花が揺れていた。向こうの世界の勇者が、笑顔で私に手を振ってくれているようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。 突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。 この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。 転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。 ※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...