ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
1 / 291

プロローグ(1)

しおりを挟む
 彼は運が良かった。仕事に発って戻ってこなかった冒険者達は迷子を除いたら大抵、私達が発見する頃にはお亡くなりになっている。

「ひっでぇ傷だがまだ息が有るな。面倒くせぇ……」

 仕事熱心とは到底言えない先輩のルパートが、しかつらをして眉間にしわを寄せた。ルパートの視線の先には、モンスターにやられてボロボロになった冒険者が地面に転がっていた。
 私はギルド受付嬢から受け取っていた書類に再度目を通した。

「ええと、エリアス・モルガナン。29歳男性、身長188センチ。黒髪の剣士」

 目の前の冒険者は30歳前後の見た目で黒髪の男性、高身長だった。傍らには大剣が落ちている。彼が捜索対象であるエリアスという名の冒険者に間違い無いだろう。
 対象が生存している場合は人道的観点から、当然だがギルドまで連れ帰らなければならない。ルパートがぼやく理由がこれだ。
 ちなみに死亡していた場合は発見場所を地図に記入した上で、遺品のみの持ち帰りとなる。冷たいようだがモンスターがうろつく危険地帯に、死者の為に長居して二次災害を起こす訳にはいかないのだ。

 冒険者のほとんどはギルドに登録している。義務ではないが、登録することによって情報入手や仕事の斡旋、アイテムの売買など様々な恩恵を受けられる。帰還できなかった場合の捜索もその一つだ。
 エリアスはパーティを組まずにたった独りで、森の奥に咲く石輝花せっきばなという珍しい植物の採取の仕事を受けたが、通常半日で済むクエストであるのに二日経っても街に戻ってこなかった。そこで私達ギルドの回収人が出動したという訳だ。

「よし、荷物は俺が全部持ち帰ってやる。ウィー、本体はおまえに任せた!」

 ……まただよ、この人ってば。私はルパートとバディを組んでの出動が多いのだが、このヤル気の無い先輩はいっつも私に要救助者を押し付けてくる。これでも160センチの普通体型の女なんだけどな。
 ギルドに就職した時は受付嬢がやりたかった。でも華が無いという理由で裏方に回された。酷くない?

「あ~重~い。この大剣重~い。持ってやる俺に感謝しろよな、ウィー」

 わざとらしく騒ぐウンコ野郎を尻目に、私は身を屈めてエリアスの傷に応急手当をした。ルパートはギルドの古株で私の上司だ。理不尽な命令でも従わなければならない。
 エリアスの肩には深い爪痕が、脚には噛み傷が刻まれていた。狼系のモンスターにやられたんだな。相手は空腹ではなかったようで、食べられずに済んで彼は命を拾った。

「……そうれっ!」

 エリアスの両腕を私の肩に掛けて、腰で跳ね上げるようにして一気に彼の身体を背負った。
 うごっ、重い! 流石に鎧は外してウンコ先輩が持ってくれたが、それでも重い。背が高くて筋肉質なエリアスは90キロくらい有るかも? 何とか背中に乗せたものの、一歩進む度に相当な負荷が私の全身にかかった。しかも森の中だから石が転がっていたり、大樹の根でゴツゴツして歩きにくいったら。

「ぷっ、ウィーはまるで産まれたての子牛だな」

 脚をガクガクさせて進む私をルパートが笑った。うるせぇ。この仕事に就いてから七年、一応筋肉トレーニングは毎日こなしているけれどそれでもキツイ。推定90キロだよ?

「うう……ん」

 私の背中でエリアスがモゾモゾ動いた。悪路のせいでスムーズな運搬ができていない。振動で目を覚ましてしまいそうだな。

「あふ……うん……。んん!?」

 無駄に艶めかしい声と共にエリアスは覚醒した。

「えっ!?」
「あ、おはよーございます。ふーっ」
「こ、ここは!? ……それにキミは誰だ!?」
「え、ああ、冒険者ギルドの者です。ふーっ、ふーっ、行方不明だった貴方を捜しに参りました。ふーっ」

 大男を背負った状態で会話するのはしんどいな。自然と息が荒くなる。しかもこの先ちょっと登り坂になるんだよね。あんまりだ。

「そ、その声……女性なのか!?」

 女に乗っかっていることを悟ったエリアスはジタバタ暴れ出した。ぎゃおー。ただでさえ重いのにバランスが崩れる。

「動かないで! 転びます!」
「だっ、駄目だ! 女性に背負われるなど!」
「姿勢が崩れる! いやー!」
「私を降ろせばいいだろう!!」

 支え切れず私は両膝を付いた。グラッと重心が右に寄ってしまい、横に倒れて背中のエリアスと共に地面をゴロゴロ転がった。

「あちゃ~」

 荷物を抱えたルパートが駆け寄ってきた。

「おいウィー、大丈夫か?」
「あ、はい……」

 意外なほどに痛みが無かった。何で?

「!」

 エリアスが私をギュッと抱きしめて、クッションになってくれていたおかげだった。死にかけて行き倒れていた人が何やってんの!?

「くっ……!」
「ちょ、ちょっと、大丈夫ですか!?」
「……私は平気だ。貴女こそ何処か痛めなかったか?」

 苦しそうな声で背後からエリアスは私を気遣った。超々至近距離で。彼の低音ボイスと吐息が私の耳をくすぐった。うっわあぁぁぁ。
 ヤバイ。私ってば男性に抱きしめられたの、父親と祖父を除くと彼が初めてかもしれない。

「おら、無事ならとっとと立て」

 荷物を地面に置いたルパートが、私の身体を両腕で引っ張った。おお。ぐいっと一気に私はエリアスの腕の中から空中へと引き上げられた。ルパートは優男風なのにけっこう力が有るんだな。だったら荷物じゃなくて人を担げや。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。 突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。 この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。 転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。 ※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...