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プロローグ(2)
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「う……くっ」
私が地面に足を付けた後、エリアスもヨロヨロと自力で立ち上がった。肩を貸そうとする私を、彼は右手を前に出して制した。
「女性に大きな身体の私を支えさせる訳にはいかない」
「ですが……深い傷を負われています。負傷者の搬送がギルド職員としての私の仕事ですから、遠慮なさらないで下さい」
「すまない。男としての意地を通させてくれ。気遣いには感謝する」
なんとまぁ。冒険者には荒っぽい男が多いのだけれど、エリアスは大した紳士だな。数日間お風呂に入っていない彼からは、汗と血が混じり合って牛乳をふいた雑巾みたいな匂いがしたが、それが気にならない程に言動が格好良かった。ルパートに爪の垢を煎じて飲ませたい。
「……それでは街へ戻ろうか、レディ」
おっふ、私をレディですって! 聞いた? ウンコ先輩!!
淑女扱いされて興奮しながらルパートの方を見やると、奴は魚の死んだような目で頬を紅潮させた私を眺めていた。何だよ。
「あの……先輩?」
ルパートは盛大に溜め息を吐いてから地面の荷物を拾い、そっくり私に持たせやがった。
「手が空いたんならおまえが荷物持ちな」
「へっ!? 先輩は手ぶらですか!? ズルいですよ!」
「何がズルいだ。俺様はモンスターが襲ってきた時にすぐ戦えるように、できるだけ手は空けておかなくちゃならないんだよ!」
そう言ってルパートはそっぽを向いた。ガキか。
戦うって言っても、今まで出動してモンスターと戦闘になったことなんてほとんどないじゃない。ギルド職員はあくまでも冒険者をサポートすることが仕事なので、訓練は受けていても積極的にモンスターと戦おうとはしない。モンスターを発見したら基本逃げる。エンカウント率を下げる護符も身に付けている。
「おら、さっさと行け」
はいはい。ギルドマスターにも素早く用を済ませて戻るよう言われているから、帰りますか。
負傷したエリアスに合わせた歩調で、慎重に歩いて私達は街へ向かった。
☆☆☆
翌日の朝。
冒険者ギルド受付カウンターの奥で報告書を作成していた私を、受付嬢のリリアナが甘ったるい声で呼んだ。
「ウィーお姉様ぁ、お姉様に会いたいって人が来ていますぅ」
私とリリアナの間に血縁関係は存在しない。彼女は年上の相手をお兄様、お姉様と呼ぶ傾向が有る。ギルドの愛される妹キャラだがたぶん計算してやっている。
それにしても面会人とは? 私は筆を止めて振り返った。
「………………」
カウンター正面に凛々しい美男子が佇んでいた。鎧を身に着けて大剣を背負っている。精悍な顔立ちに黒い髪が良く合っていた。ほえ? どなた様?
そのままだと他の冒険者達の邪魔になるので、私はカウンターを出て男性を建物の窓際へ誘った。
「こちらへどうぞ。私がギルド職員のロックウィーナです」
「ああ、正式名はロックウィーナと言うんだな、良い名だ」
「あ、ありがとうございます。あの、失礼ですが貴方は……?」
たどたどしく尋ねた私に、ぽっと現れたイケメンは優しく微笑んだ。
「エリアス・モルガナンだ。昨日は世話になったな」
「ふおぉっ!?」
驚きのあまり間抜けな声が漏れた。教養有る貴婦人ならば絶対に上げない悲鳴だ。
「エ、エリアスさんですか!?」
私の問いかけに、イケメンもといエリアスは笑顔のまま頷いて肯定した。ひょええ。
昨日は顔が土で汚れていて判らなかった。髪も乱れていたし、身体からは酸っぱい香りがしていた。身だしなみを整えるとこうなるのか。
(あ、昨日……)
私はエリアスと一緒に地面を転がったことを思い出した。彼に抱きしめられたことも。
「ふあっ……」
「レディ!?」
美形剣士との抱擁。恋愛経験の乏しい私には刺激が強過ぎる出来事だった。めまいを起こした私は、エリアスに咄嗟に腕を引っ張られて倒れずに済んだ。
「大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございます……」
大丈夫ではなかった。彼に掴まれている手が汗を掻き始めている。エリアスさん手袋をはめてて良かった。
「いったい何のご用件で?」
不機嫌そうな声が私の背後からした。いつの間にかルパートが立っていてエリアスを何故か睨んでいた。対するエリアスは余裕の笑みを浮かべていた。
大怪我だったのに身体は全快したようだ。ヒーラーの高額治療を受けたのだろうか?
「昨日の礼をしに来た」
そう言ってエリアスは私の手を持ち上げた。
「心からの感謝を捧げる、レディ」
そしてあろうことか私の手の甲にキスをした。あ、汗が! 手汗が凄いのに~!!
わたわたする私をルパートが強引に後ろへ下げようとするが、エリアスは手を放さなかった。
(キス……手の甲だけど私にキス……! しかも相手めっさ美形)
恋人居ない歴イコール年齢のまま25歳まで来てしまった私。突然の絵本のような展開に心臓がバクバクして足元はフワフワしていた。
私を見つめるエリアスから目を離せない。ギリリリとルパートの歯軋りの音が聞こえた気がした。
■■■■■■(作者より)
※Web小説サイトでは文章の横表記が基本です。
当作品では文章に一・二・三の漢数字を使う場合も有れば、1・2・3のアラビア数字を使う場合も有ります。読みやすくする為の使い分けです。ご了承下さい。
私が地面に足を付けた後、エリアスもヨロヨロと自力で立ち上がった。肩を貸そうとする私を、彼は右手を前に出して制した。
「女性に大きな身体の私を支えさせる訳にはいかない」
「ですが……深い傷を負われています。負傷者の搬送がギルド職員としての私の仕事ですから、遠慮なさらないで下さい」
「すまない。男としての意地を通させてくれ。気遣いには感謝する」
なんとまぁ。冒険者には荒っぽい男が多いのだけれど、エリアスは大した紳士だな。数日間お風呂に入っていない彼からは、汗と血が混じり合って牛乳をふいた雑巾みたいな匂いがしたが、それが気にならない程に言動が格好良かった。ルパートに爪の垢を煎じて飲ませたい。
「……それでは街へ戻ろうか、レディ」
おっふ、私をレディですって! 聞いた? ウンコ先輩!!
淑女扱いされて興奮しながらルパートの方を見やると、奴は魚の死んだような目で頬を紅潮させた私を眺めていた。何だよ。
「あの……先輩?」
ルパートは盛大に溜め息を吐いてから地面の荷物を拾い、そっくり私に持たせやがった。
「手が空いたんならおまえが荷物持ちな」
「へっ!? 先輩は手ぶらですか!? ズルいですよ!」
「何がズルいだ。俺様はモンスターが襲ってきた時にすぐ戦えるように、できるだけ手は空けておかなくちゃならないんだよ!」
そう言ってルパートはそっぽを向いた。ガキか。
戦うって言っても、今まで出動してモンスターと戦闘になったことなんてほとんどないじゃない。ギルド職員はあくまでも冒険者をサポートすることが仕事なので、訓練は受けていても積極的にモンスターと戦おうとはしない。モンスターを発見したら基本逃げる。エンカウント率を下げる護符も身に付けている。
「おら、さっさと行け」
はいはい。ギルドマスターにも素早く用を済ませて戻るよう言われているから、帰りますか。
負傷したエリアスに合わせた歩調で、慎重に歩いて私達は街へ向かった。
☆☆☆
翌日の朝。
冒険者ギルド受付カウンターの奥で報告書を作成していた私を、受付嬢のリリアナが甘ったるい声で呼んだ。
「ウィーお姉様ぁ、お姉様に会いたいって人が来ていますぅ」
私とリリアナの間に血縁関係は存在しない。彼女は年上の相手をお兄様、お姉様と呼ぶ傾向が有る。ギルドの愛される妹キャラだがたぶん計算してやっている。
それにしても面会人とは? 私は筆を止めて振り返った。
「………………」
カウンター正面に凛々しい美男子が佇んでいた。鎧を身に着けて大剣を背負っている。精悍な顔立ちに黒い髪が良く合っていた。ほえ? どなた様?
そのままだと他の冒険者達の邪魔になるので、私はカウンターを出て男性を建物の窓際へ誘った。
「こちらへどうぞ。私がギルド職員のロックウィーナです」
「ああ、正式名はロックウィーナと言うんだな、良い名だ」
「あ、ありがとうございます。あの、失礼ですが貴方は……?」
たどたどしく尋ねた私に、ぽっと現れたイケメンは優しく微笑んだ。
「エリアス・モルガナンだ。昨日は世話になったな」
「ふおぉっ!?」
驚きのあまり間抜けな声が漏れた。教養有る貴婦人ならば絶対に上げない悲鳴だ。
「エ、エリアスさんですか!?」
私の問いかけに、イケメンもといエリアスは笑顔のまま頷いて肯定した。ひょええ。
昨日は顔が土で汚れていて判らなかった。髪も乱れていたし、身体からは酸っぱい香りがしていた。身だしなみを整えるとこうなるのか。
(あ、昨日……)
私はエリアスと一緒に地面を転がったことを思い出した。彼に抱きしめられたことも。
「ふあっ……」
「レディ!?」
美形剣士との抱擁。恋愛経験の乏しい私には刺激が強過ぎる出来事だった。めまいを起こした私は、エリアスに咄嗟に腕を引っ張られて倒れずに済んだ。
「大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございます……」
大丈夫ではなかった。彼に掴まれている手が汗を掻き始めている。エリアスさん手袋をはめてて良かった。
「いったい何のご用件で?」
不機嫌そうな声が私の背後からした。いつの間にかルパートが立っていてエリアスを何故か睨んでいた。対するエリアスは余裕の笑みを浮かべていた。
大怪我だったのに身体は全快したようだ。ヒーラーの高額治療を受けたのだろうか?
「昨日の礼をしに来た」
そう言ってエリアスは私の手を持ち上げた。
「心からの感謝を捧げる、レディ」
そしてあろうことか私の手の甲にキスをした。あ、汗が! 手汗が凄いのに~!!
わたわたする私をルパートが強引に後ろへ下げようとするが、エリアスは手を放さなかった。
(キス……手の甲だけど私にキス……! しかも相手めっさ美形)
恋人居ない歴イコール年齢のまま25歳まで来てしまった私。突然の絵本のような展開に心臓がバクバクして足元はフワフワしていた。
私を見つめるエリアスから目を離せない。ギリリリとルパートの歯軋りの音が聞こえた気がした。
■■■■■■(作者より)
※Web小説サイトでは文章の横表記が基本です。
当作品では文章に一・二・三の漢数字を使う場合も有れば、1・2・3のアラビア数字を使う場合も有ります。読みやすくする為の使い分けです。ご了承下さい。
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