ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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幕撤去 不穏な動きと輝ける聖騎士(6)

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「あの……」

 私は顔を上げて恐る恐る尋ねた。

「私、キース先輩のお傍に妹分として、まだ居てもいいんでしょうか……?」
「……え?」

 キースの声音が強張こわばった。

「傍に居てもいいかなんて、……今さら聞くの?」
「すみません私は本当に馬鹿なんです。察することができないんです。ハッキリ言ってもらえたらありがたいです」
「ちょっとおい、ロックウィーナ、さっきまでの勢いは何処に行ったんだ?」
「さっきまでのテンションは足を生やして彼方かなたへ逃げていきました! 冷静になったら私、ドヤ顔ですっごい大口を叩いてしまったような……。先輩に嫌な思いをさせてしまったんじゃないかって、急に心配になったんです!」
「ぷはっ!」

 キースは盛大に吹き出してから、ケタケタ笑い出した。いつもは微笑んでいるだけの彼が珍しいことだ。

「………………嫌じゃないよ」

 少ししてキースはこたえてくれた。

「嬉しかったよ、キミの言葉。魅了に負けない第一号になるなんて、そんなことを言う人間に会えるなんて思わなかったから」
「先輩……」

 おおおおお! 良かった、やらかしてなかったぁ!
 キースを元気づけられた、そのことが何よりも嬉しかった。

「じゃ、じゃあ私、変わらず先輩の妹分で居ていいんですね!?」
「……あ、妹分は卒業してもらう」

 え、何で? 私はちょっと考えて閃いた。

「そうですね、いつまでも妹なんて甘えていちゃ駄目ですよね。私もギルド職員として一人前にならないと!」
「ふ」

 キースは意味深な笑みを浮かべて立ち上がった。

「休憩終わり。森を抜けて馬車まで戻ろう」
「あ、はい」

 続こうとした私は下半身に力が入らず、へにゃんとその場にうずくまってしまった。

「……ええ? 何で立てないの!? 先輩、私の脚が変です!」
「ああきっと、魅了の効果が残ってたんだよ。腰に一番らしいから」

 改めて、魅了の瞳恐るべし。

「……でもこれは、良い機会かもな」
「はい?」
「ロックウィーナ、荷物を持って」

 キースは地図や水筒とわずかな保存食、更に魔道ランプが入ったリュックを私に担がせた。そして自分は私のすぐ前に後ろ向きで屈んだ。

「僕の背中に乗って」
「え!? そんな、ちょっとしたら回復しますよ。先輩におんぶなんてさせられません!」
「いいから、乗りなさい」

 強めに言われてしまったので、私はキースの背中に身体を預けた。彼にとって重くなければ良いのだけれど。

「よいしょっと」

 かけ声と共に、私を背負ったキースは再び立ち上がった。全くよろけず森の中をスタスタ歩いて行く。
 魔術師なのに戦士タイプの私より筋力有るみたい。毎日身体を鍛えているのに立場が無いな。マキアには勝っていると思いたい。

「すみません先輩。妹分は卒業って話をしたばかりなのに、結局お世話をかけてしまいました」
「ふふっ」

 また意味有り気にキースは笑った。なんだろう、くすぐったいような。

「……内緒だけどね、ロックウィーナ」
「はい」
「さっき、キミにならこのまま押し倒されてもいいって、ちょっとだけ思っちゃったんだ」
「!!!」

 何かサラッと凄いこと言ったよ?

「え、あ、あの、せ、先輩…………?」

 爆弾発言をかましたキースは、何事も無かったかのように鼻唄交じりに森を進んだ。おーい。
 ドックンドックンドックン。
 私の心臓の鼓動、絶対に背中越しにキースに届いている。
 何で? どういう意味? 冗談でああいうこと言う人じゃないでしょう? キースは何を考えているのだろう。

「……聞かないの?」
「はひっ!?」

 私が質問できないでいたら、キースの方から話を振ってきた。

「僕が何であんなことを言ったか、知りたいんじゃない? 察することができないから、ハッキリ言って欲しいんじゃなかったっけ?」

 そうだけど、そうだけどさ。今回に関してはハッキリさせたら私の意識が飛ぶ予感がする。でも聞かないままでいたら、ずっとモヤモヤするよなぁ。
 キースってば実は意地悪さん?
 ……ああもう! 私は腹をくくった。

「すみません、先程の発言について明確な意志表示をお願い致します」
「ぶはっ!」

 冷静になる為に事務的口調で言った私に、キースがまた噴き出した。

「キミはつくづく面白いコだね、ロックウィーナ。そんな所も好きだよ」
「ど、どうも……」
「明るくてハキハキしている所も好き。努力家の所も好き。自分に自信が持てなくて、たまに卑屈になってしまう所も好き」
「………………」

 キースの声が一際大きくなった。

「僕はね、キミが大好きなんだよロックウィーナ」
「!………………」

 好き。それはどういった意味合いの好きなのか。そこが問題だ。

「……妹として?」
「妹分は卒業だって言ったろ?」
「じゃあ、どういう意味で?」

 私の声は震えていた。

「恋、だよ」

 恋。その言葉が胸を締め付けた。

「でもずっと僕には、キミに恋をする資格が無いと思っていた」

 やばい。動悸が異常に激しい。全身に血液と酸素が過剰供給されている。

「……ルパートにとやかく言える立場じゃなかったんだ。僕もまた、キミへの想いにふたをして気持ちを誤魔化していた。何年間も……」

 顔を合わせない背中越しの告白。魅了の瞳を使わずにキースが本音を伝えるには、このポジションしかないのだろう。

「キミが幸せになればそれでいいと思っていた。どうせ僕なんか……って諦めてた。だけど今は欲が出てきたよ。キミが強く願えば、暗い気持ちを吹き飛ばせるって教えてくれたから」

 もうキースを止められない。せき止められていた川が流れ出した。切っ掛けを与えたのは私だ。

「僕は願う。強く。この先もキミと共に居られるように」

 これが先輩としての発言なら素直に嬉しい。でもキースは男性として女性の私を求めている。怖さと、嬉しさと、どうしていいか判らない不安。
 彼の肩を掴む手に自然と力が入った。彼と触れている身体の部分が熱を持った。いや、火照っているのはキースの方なのか。彼もまた緊張して私を意識していた。

 そしてキースは宣言した。

「キミを愛してる、ロックウィーナ。僕自身よりも、この世界の全てよりも」
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