ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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西へ駆けろ!(4)

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☆☆☆


 正午。四十五分間の昼休憩だ。年長組と合流して私達は昼食用の干し肉と乾パンをかじった。
 
「これが本日最初で最後のまともな休憩だ。後は短いトイレ休憩が一回挟まれて、それからアンダー・ドラゴン本拠地へ乗り込むことになる。だから装備品のチェックはここでしっかりやっておけよ」

 ルパートの注意を頷いて聞いた。エンとの話し合いはやはり昼休憩中にしておかないとだな。
 私はマキアと目配せしてから急いで昼食を済ませた。忍者のエンはもともと野外では食事に時間をかけない習性が有るようで、私達より先に食べ終わっていた。

「エンは武器の手入れが得意だったよね? 私の鞭の調子を見てくれないかな?」
「……構わないが」
「すみません先輩達、お先に失礼しまーす」

 私とエン、マキアは連れ立って歩いた。人気の無い場所へ。

「馬車へ戻るんじゃないのか?」

 不審がるエンへ私は切り出した。

「エン、あなたはアンドラの本拠地でユーリさんに会ったらどうしたい?」
「!…………」

 ストレートに聞いた。時間が無いからね。

「俺は……」

 エンは口ごもりつつ言葉にした。

「もう……助けることはできないと思う。あいつは……師団長の暗殺を企てた」
「じゃあ、殺すの?」
「それしかないだろうな……」

 そうは言ってもエンは苦しそうだった。本心では殺したくないんだろう。昨晩はユーリに先手を取られて苦戦していたけれど、きっと義兄弟と戦うことに対しての迷いも有ったはずだ。

「何とかできねぇかなぁ……」

 相棒の苦悩を察したマキアが頭を振った。

「殺したていにしてこっそり逃がすとかは?」

 私の提案をエンが取り下げた。

「無理だろう。当のユーリ本人が話に乗ってくると思えない。アイツは職務に忠実な男なんだ。契約している間は首領を裏切らないだろう」
「………………」

 駄目なのか。ユーリは殺すしかないのだろうか。

「一度は捕らえるしかあるまい」

 偉そうな声が明後日あさっての方向から響いた。驚いて視線を移すと、声の主である魔王、そして他のギルドメンバー達が勢揃いしていた。

「みんな……」
「水臭いぞ。なぜ俺達にも相談しないんだ」

 そう言って近寄ってきたルパートが、私のオデコを軽く人差し指で弾いた。デコピンだ。エンではなく何故私にやる?

「まったく、ルパートお兄様はすぐお姉様に触ろうとするんだから。あの手にも菌が付いてるんじゃないですか?」
「くっ……、私がアレをやるとロックウィーナが脳震盪のうしんとうを起こしてしまう」
「力加減しなさいよ勇者様」

 全員が私達を取り囲んだ。

「三人寄れば賢者アルクナイトの知恵と言うが、馬鹿が三人集まっても馬鹿な意見しか出ないぞ?」

 魔王が造語で失礼なことを言った。そこは「文殊もんじゅの知恵」でしょーが。
 …………………………。
 あれ? 文殊もんじゅってどなた? エンが紹介した箸といい、最近の私は知らないはずの知識が頭に浮かぶことが有る。何だろうか、この現象は。

「ユーリとやらは、死なない程度に痛めつけて捕らえるべきだ」

 あっと、今はユーリの問題を議論しないとね。私は頭を切り替えて意見を出したアルクナイトへ尋ねた。

「でも殺さずに捕えても、結局は投獄されて処刑されるんじゃない?」
「司法取引を持ちかければいい。ユーリにはアンドラの情報を積極的に吐いてもらい、その代償として刑を軽くしてもらえるよう兵団に交渉しよう」

 それはいいかもと思ったのだが、エンが否定した。

「ユーリが雇い主にとっての不利な情報を漏らすとは思えません」
「国は隠し財宝のに興味津々だろうから、首領ではなくそちらの情報を渡せばいい。それに組織が壊滅した時点で契約もクソもあるか」
「………………。ユーリがそれで納得するでしょうか?」
 
 煮え切らない態度のエンに、アルクナイトは静かに言った。

「おまえがユーリをさとすんだ。戦闘中はおまえの声は届かないだろうが、捕縛した後なら時間が取れる。ルービック師団長ならある程度の融通を利かせてくれるだろうから、何度もユーリに面会を求めろ。そしてゆっくり説得するんだ。弟であるおまえが」
「!………………」

 エンの瞳に生気が宿った。そして彼は力強くこたえた。

「はい……! やってみます。ありがとうございます!」

 アルクナイトは伊達に長生きしていないな。見直した私は魔王を感謝の瞳で見つめたのだが、彼は腕を組んで不機嫌そうな素振りをした。

「話は変わるが小娘、一つ前の休憩でそこのワンコと親しげに手を繋いでいなかったか?」
「あ」

 やっぱり見られていたか。面倒臭い。

「おい何だと? どういうことだウィー!」
「そう言うチャラ男、おまえも昨日の朝に繋いでいなかったか?」
「え、アル……あれ見てたんスか?」
「ふふふふふルパート、キミはちゃっかり抜け駆けをしていたんですね……?」
「いやゴメン、いてっ! マジでゴメ……いてぇっ! キースさん、障壁で何度も弾かないで」
「ヤレヤレ、毎日騒がしい連中だ」
「とか言ってお姉様の肩を抱かないで下さいエリアスさん! ちんこ菌が肩に付きます!」
「ちん……!? 私のはこんな高さに生えていない!!」
「手、手に菌が付いてるのぉ~!!!!」
「ほっほっほ」

 いい歳をした大人達が馬鹿馬鹿しい話題で騒いでいた。その光景を眺めながら、道が開けた気がして私とマキア、エンは密かに笑い合ったのだった。
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