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6の扉 シャット
修復
しおりを挟む「修復はあの、手前のお部屋なの。先に行って、待っていて?」
やっと、修復の授業になった。修復は私一人なので、他の日程と調整して後々になっていたのだ。
フローレスは他の生徒に説明をしてから行く、と言って裁縫の教室に入っていった。
マネキンが並ぶ扉前より少し手前にある、やや小さめの扉。扉が小さいからか、他よりも意匠が凝っている気がするのは気のせいだろうか。
葡萄や木の葉、木の実など何となく秋を感じさせる彫刻が施されたその扉を開けるとその小さな部屋もまた夢の空間だった。
「うーん。住める。」
一人、姫様の服を抱えながら、部屋の中で頷く。
その部屋はそう大きくない真四角の部屋で、教室にしては珍しく窓があった。
そう、窓といってもまじないの、だ。ウイントフークはなぜ裁縫の部屋に??
違う。あの人そんな感覚持ち合わせて、無い。いや、セフィラだな…………。
流石にウイントフークがここまで管轄してるとは思えない。セフィラは他の世界を知ってる筈なので、窓が無いのが耐えられなかったに違いない。分かる。一人また頷きながら、窓を眺める。
なんだか見たことのある、景色。もしかして?
「懐かしい…………。」
それは、ラピスの景色だった。しかも、丁度、私の部屋の窓からの景色に似ている。
「あ、でも、そうなんだ…………。」
教会、滞在歴、ベール、日記…………。
いつか、同じ景色を見ていた。きっとそうなんだ。何を思ってここで、この窓を作って、あの生地も作って、学んでいたんだろう?
セフィラは何処から来て、何処へ行ったのだろう?
色々な思いが湧き上がり複雑だが、心は暖かかった。大丈夫。この部屋にいると、そう思える。
そして、私はこのワクワクだらけの部屋の探索を始めた。
部屋は、丁度一人か二人が作業しやすい大きさで、大きな丸テーブルと小さな丸テーブルが一つずつある。
窓以外の壁は全て造り付けの収納になっていて、沢山の物が並んでいる。その全てが、多分私が好きであろう物で一つ一つじっくり眺めたい衝動に駆られるが、多分時間は無いので優先順位を決めなくては。
まずは…………あれかな?
小さな額縁に入れられた、細工物を見ようと近づくと扉が開いた音がした。伸ばした手を引っ込め振り向くと、フローレスが立っている。
しかし、部屋に入ってこようとしないので私も首を傾げた。どうしたのかな?忘れ物?
「本当、よく似てる事。」
そう言うと、フローレスは持っていたお茶のトレーをテーブルに置いて扉を閉める。私に座るよう促すと、そのまま自分はお茶の支度を始めた。
それに甘えつつ、私はまだ諦めきれずにキョロキョロしていた。ここ、泊っちゃダメかな?
お茶を注いで、二人分の用意ができるとフローレスはその薄い茶色の目を細めながら、またゆっくりと「やっぱり、そっくり。」と嬉しそうに言った。
「………先生は…セフィラの知り合いですよね?」
流石にこれだけ「そっくり」を連呼されたので、私はすぐ本題に入った。
静かに頷いてお茶を飲むフローレス。その間もあったかい目で私の事をずっと見つめている。少しの緊張が解けて、私も一緒にお茶を飲んだ。
いつものシャットの「マッタリ」した味。あの橙の景色に合う味だ。
「そうね。お友達、かしら。憧れてもいたけどね?」
そう言ってニッコリ微笑むと、私の手の包みを指して言う。
「縫いながら、話しましょうか。捗るわね?」
私も笑って答えた。
「同感です。」
姫様の服と一緒に、私はあの宝箱も持って来ていた。力が籠っているものが入っているので、修復に役立つと思ったからだ。
案の定、フローレスは「あら。懐かしい。」と言って手に取っている。
「この服はここを出てから作られたものだけど、この箱はずっと、使っていたわ。もう、多分子供の頃からじゃないかしら?」
「?先生、お友達というより幼なじみですか?」
私の素朴な疑問に、少し寂しそうな笑顔。
「小さな頃から、お友達だったら良かったわね。私に勇気がなくて、話が出来るようになったのはここに来てからなの。彼女は憧れのお嬢様だったから。私なんか、声を掛けられなかったわ?」
そう、チャーミングに微笑むフローレスからはそんな気配は微塵も感じられない。二人の間に何があったのかは分からないが、フローレスがセフィラを好いていたであろう事はよく、分かる。
私達は服を広げながら、修復の話と、思い出話を半々で進めていく。
「ああ、このレースがあれば割と手は掛からないわよ?これが一番難儀するでしょうから。」
「でも難しいやつ、覚えたかったです…………。」
「そうね。…でも、やる事は他にも沢山あるものね?やっぱりあなたも沢山の世界を巡っているのかしら?」
フローレスの口から「世界を巡っている」と言い当てられた私は驚いていた。でもすぐにマデイラから聞いた話を思い出して、腑に落ちる。
マデイラも言っていた。いつも、何処かへ消えてはまたやってきて、また何処かへと渡り歩いている、と。
「先生は…………何を知ってますか?正直、私は殆ど分かっていないと思うんです。セフィラの事。多分、私が彼女の血縁だって事くらい…。」
「そうね。」
そう言いながらも考えているのか、姫様の服のチェックをする手が止まらないフローレス。
流石に早い。切れた糸、解れたレース、破れたスカート。必要な箇所にどんどん印糸を付けていく。粗方終わると、「なかなか時間がかかりそうね。」と言った。
「長くても構いません。やりながら、聞きますからよければ聞かせてくれませんか?」
私の言葉に頷くと、宝箱の中の針に、糸を通して私の手に持たせると「ここから、ここね。」と指示をして自分は他の棚のレースを編み出した。
「どこから話しましょうね…………。さっきも言ったけれど、私達は同じ一族だったけれど身分が、違ったのね。彼女はそんな事気にする質じゃ無かったけれど、始めは私もそんな事分からなかったしね?お友達になったのは本当にウィールに来てからだった。いい、仲間だったわ。」
そう話すフローレスの瞳はさっき見た、懐かしさでいっぱいの瞳だ。窓のラピスの景色を見ながら、また話し出す。
「何から話をしていいか。何しろ、沢山あるのよ。本当に天真爛漫で太陽みたいな人なんだけど、見た目はとても美しくて妖精のようだったわ?本当に見た目はヨルに似てるけど髪と瞳の色が違うわね。セフィラは水色の髪に青の瞳で、初めて見た時は御伽噺の妖精に会ったのかと思ったわよ。」
実は見た目は同じに近い。でも、今は私が変化したので私の方が色が一段階薄くなっているのだろう。セフィラもまた変化したのだろうか。
フローレスのサクサク動く手に私の手が止まっているのを、気付かれる。だって、話に集中しながら綺麗に縫うのはまだ私にはハードルが高い。
「ゆっくりでいいわよ?………とにかく小さい頃はそんな感じで、殆ど接点が無かった。あそこでは彼女は特殊な存在だったしね。」
ここでフローレスは手を止め、私をじっと見つめて、言った。
「多分、貴方がセフィラの詳しい話を聞くのはここで最後だと思う。デヴァイに行ったら禁句だと思うわ。そして、あそこ以外で彼女の事を知っているのは私か、ラピスにいるお友達だけだと思うの。」
フローレスの真剣な瞳に少し圧倒されながら、ゆっくり、頷く。ラピスのお友達はマデイラだろう。後は、誰も、知らないのだ。確かにハーシェルも、何でも知ってそうなウイントフークも知らなかった。
私の顔が険しかったのだろう、フローレスは安心させるように言った。
「いや、変な話じゃないのよ?でもね、多分だけど。彼女の身内で今私が確認できるのは、貴方と、本家の長だけなの。」
?という事はどういう事なんだろう?
フローレスの言葉の意味する所が、分からない。
私はそのまま疑問を口にする。
「二人だけだと?どうなりますか?」
「貴方が、次の長になるわね。」
「…………え???」
いやいや、長ってあの、悪の巣窟のでしょ?あり得ない。
いや、乗り込んで潰せばいいの?いやいや…………。
私がぐるぐるしている間にまたフローレスが話し出す。それはセフィラの、長い旅の目的の話だった。
「彼女も、そうやって悩んでた。自分達のあり方に疑問を感じていたのね。そして色んな世界が見たいと、文字通り飛び出して行ったの。誰も、出来なかった、誰もやっていないやり方でね。凄かったわよ?」
フローレスの話を聞いていくと衝撃の事実が分かった。
別に、秘密でも何でも無いらしいがもう知っている人がいなかっただけでセフィラは、なんと長の娘だった。何人も子供はいたが、養子ばかりで実子は彼女一人だった。それに「一番力が強くて美しいのが彼女だったの」とフローレスは言った。
ただ、貴石の女性との間に生まれた子だったので一族では少し変わった扱いをされていたようだ。
通常、貴石の女に産ませた子供は貴石で育てられる。そしてそのまま貴石で働くことが多いという。ただ特別に力が強い、若しくは男子はデヴァイに引き取られる。
そもそも力の強い子供が生まれる事が多い、その為の貴石だ。しかし女児はまた、強い子を作る為に残されるのだという。その、例外がセフィラだった。
生まれた時から水色の髪、青い瞳。稀に見る色彩のその赤ん坊は何処からか、生まれた時から石を持っていたらしい。フローレスが後で聞いたら「妖精が持ってきた」とセフィラ自身は言っていたらしいけど。
「彼女が持っていたのが、白の石だったの。」
「え?白は無いって…………。」
言ってたよね…?
「そう。後にも先にもその白だけ。それも、もう彼女がいないから…。」
フローレスはそう言って、寂しそうに微笑む。
勝手に、セフィラは亡くなったと思っていたが、本当はどうなんだろう?私の、おばあちゃんって事は亡くなっていてもおかしくは無いんだけど。
何か、引っかかる。聞いてもいい事だろうか。
「先生。セフィラは今…………?」
「…亡くなった、と聞いてはいるわ。でも、何処でどんな風に、亡くなったのか、お墓はあるのか、何も分かってないの。だから私は未だに信じられないのよね…………。」
そう言ってまたラピスの窓を見つめる。私も、青い家々の屋根を見ながら頭の中を整理する。
で、貴石から引き取られたセフィラはどうしたんだろう。
何故か、今どうしているのか、亡くなったのかはあまり気にならなかった。多分、私の中では分かっているのだ。きっと亡くなっていると思う。
そして、旅は私に託された。何故か、それは分かるのだ。
どうしてか、この扉への旅が私の中で当然の事で、みんなを笑顔にしたいと思うのも当然の事で、問題があったら解決したいし、次へ進みたい。自然と、そう思えるのだ。
それが何故だか、セフィラの一部だと思っていた。
共に、有ると。まじないは、その人の力だ。
もしかしたらこれのおかげかもね?自分の足元を見て、そう思う。
姫様の靴。
これもセフィラが作ったものだ。勿論、まじないも込められている筈。いつも足が進むのも。何となく、すべき事が分かるのも。想いが入っているからかもしれないなぁと、思った。
「話を戻すけど、色も勿論、特殊だったけど彼女の特異さはその白だったの。彼女の父親、その長が持っているのが黒だったから。」
「え。」
…また驚きの事実。
滅多にいないんじゃ、無いの??
「分かるわ。ふふ。でも、本当にいないのよ?レシフェが特殊なの。これだけ周りにいると、普通に感じちゃうわよね?でも、凄いことよ。レシフェは「ああ」だから、今でこそあんな感じだけど、狙おうと思えば長も継げると思うわ。優秀だしね。勿論、「血」も重視されるけど、何よりもまじない力を重視しているから…そのくらい、白と黒は重要で特殊なの。良かったわね‥ちょっと間違ったらレシフェが長を継いでヨルが嫁に行く、なんてありそうなパターンだったわよ?」
いや、あの人俺の女になれよ、はいつも言ってます…………。多分デヴァイが嫌いなだけです…。
そんな事を考えながら、また頭がぐるぐるする。
結局デヴァイって、何がしたい所な訳?それがイマイチ、見えない。
そのまま疑問を、フローレスにぶつける。ややこしい事は苦手だ。
「結局、デヴァイってどういう所なんですか?何故セフィラは、何をしようとして旅に出たんでしょう?」
「そうよね。そこが分からないと解らないわよね。」
フローレスは考え出す。私に、どう話したらいいのか考えているのだろう。
手に持った糸をくるくると玉留めして、一旦糸切りバサミで切る。私はちょっと、姫様の服を置いて話の続きを待った。だって、多分手は進まなそうだ。
「なんだか改めて考えると、言いづらいわね。あの子が奔走していた理由も、今となればよく分かるわ。あのね…………。」
そう言ってフローレスが言った言葉を飲み込むのに、私は少し時間がかかった。
「私達、デヴァイにいる一族は「神の一族」と言われていて、長は「不死」よ。」
…………は??
何それ。「神の一族」?
ちょっと待って。中2の私より、厨二病みたいな事言わないでくれる??
多分、私はおかしな顔をしていたに違いない。
少し、黙って私の顔を見ていたフローレスは急に笑い出した。
「フフッ…………フフ。」
「え?!先生?!ウソなんですか??」
私のツッコミも無視してしばらく笑うと、気が済んだのか戻ってきたフローレスは言った。
「残念だけど、本当よ。」と。
「いやね、私達は普通の人間よ?みんな勿論死ぬし、寿命もあるんでしょう。長が「不死」って言うのは本当なのか、正直分からない。多分本当の事を知っている人は生きてないんじゃないかしら?」
そんなハードな事をさらっと言いつつ、お茶のお代わりを注ぐフローレス。
私はちょっと置いてけぼり感が否めない。しかし、驚きの説明は続いた。
どうやら「神の一族」は自称らしいのだが、否定する根拠も無いらしく長がまた「不死」の為、信憑性を持って語られているそうだ。
長が「不死」な事は一般的には知られていないものの、年嵩の者や各扉の長などは知っているらしい。
「私も実物は見た事がない」とおばあちゃんのフローレスにして言わしめる長。本当に不死なのだろうか。
一般的には、肖像画で流布しているらしいその容貌は聞いているだけだとまるで魔法使いだ。
「長く白い髪に金の瞳、眼鏡をかけていて豪華なビロードの服」だそうだ。
想像だと、本当に魔法使いなんだけど。
正直、ちょっと突拍子もない話になり過ぎて、私はなんだか面白くなってきてしまった。
だって、自称神の一族の長、そして見た目魔法使いよ?うんうん、なんだか出来過ぎてる。
そして気になるのが「不死」っていう所。それ、もう人間じゃないよね?だからと言って神って言うのは言い過ぎじゃない??
何だか実物を見たくなってきたな…………。
でも、冷静になって考えるといずれ、会う事になるんだろうと本能的に、分かる。
だって、全ての扉には巡るのだ。私達は。そういう、道筋が出来ている。
とりあえず、私の仕事はこの姫様の服を修復して、石を探して、次の扉へ行く事。
姫様の服を見ながら考える。
これを修復…………まぁ地道にやるとして、石は一体何処にあるんだろう?
実際、私が石を見つけたのは白い森の時だけだ。それも、偶然。探して見つかるような物なのだろうか。この広いシャットの中から小さな石一つを探す。本当に宝探しだ。
本当に見つかるのかな…………。
「ヨル?」
「あ、すいません!」
いつもの様に、完全に思考の海に入ってた…。
「続き、話すわよ?」
「はい。お願いします。」
「とりあえず、うちの一族の考えはその一つに尽きる、という事ね。従って、それに準じた考え方として他の世界も全て自分達の為に存在してる、と考えているの。こう改めて説明すると、結構酷いわね…。それが、当たり前に教えられる世界なのよ。」
レシフェが言ってたやつだ。「全てが自分達の為に存在する」と思っていると。
世の中、言い換えれば或いはそうなのだろう。全ては何かの為に存在し、そして巡ってゆく。
でも、一方的な搾取で存在するのならやはり間違った存在であると言わざるを得ないだろう。
その影で、理不尽な想いをする人がいる。それは、許されない事だ。
フローレスの話は続く。
「そうして、影ながら他の世界の運営をし、自分達の一族が繁栄するよう力を高める事と、予言の研究をする事に力を注いでいたの。」
「予言…………。」
「そう。セフィラは予言の研究もしていたわ。聞いた事はある?ああ、じゃあ改めては説明しないけど本当にいつから在るか分からないし、本当の予言なのかも分からない。でも、予言なんてそんなものよね?当たるまで、分からない。」
そう言って、フローレスはじっと私を見つめた。
でもそれはとても優しい瞳だったから、私は安心して話の続きを待つ。
「実はね、やっぱり一族のやり方に疑問を持つ人も少なからずいたの。でも、何も、出来なかった。基本的に許可がないと外に出る事は出来なかったし、その方法も教えられていなかったから。でも彼女は違った。自ら、見つけ出したの。」
クスクスと楽しそうに笑う。セフィラの事を自慢げに話すフローレスは本当に可愛らしい。
「聞いて?勝手にね、どこにでも行くのよ?今まで誰も、やった事の無い、しかし当たり前の好きな所へ行くという事。力が強かったからね、移動が出来たのよ。その巨大なまじない道具を使わなくても。でも彼女は「ただ、扉を渡るだけ。白い道がある。」って言ってたけどね?」
「…………。そうなんですね。そっか…。」
多分、セフィラは白い部屋へ行くことが出来たに違いない。それは、確信だった。
そうして沢山の扉を行き来していたセフィラ。その、旅の目的は何だったんだろう?
「でもね。聞いて驚いて?始めはね、予言の事を調べてた。「世界を知らないと本当の事は分からない」が口癖だったわ。そして世界を渡り歩き、沢山のものを見て、沢山の人とお友達になったのね、きっと。そうしていく中で「恋」をしたのよ。」
「恋?」
「そう。なかなかの、壮大な恋よ。世界を知って、私達の狭い世界を変える為に旅に出ていた彼女が、旅を終える事になった、その理由。それは、「恋」だった。悩んでいたわ?分かってたのよね、きっと。自分があそこから居なくなる意味を。長を止められる人が誰も居なくなる。予言の解釈も変わらず、世界は滅びに向かうと、みんなが信じてしまうかもしれない。それでも。」
「恋を取った?」
パチンと、ウインクをしてフローレスは言う。
「そう。でも、それでいいのよ。」
じっと、また私の瞳を見つめながら。
「何者も犠牲になるべきじゃない。そう言って奔走していた彼女は、勿論悩んでいたわ。でも、私は何者も犠牲になるべきじゃない、と言うのはセフィラも、という事だと思う。あの子だって幸せになっていい。何も、一人で背追い込むべきものなんて無いのよ。あとね、やっぱり恋ってのは応援するものよね?」
悪戯っぽく、笑う。
「私達一族は結婚相手も自由に選べない。勿論、彼女もね。でもやはり白を持つ彼女の相手はかなり吟味されてたみたいで決定はしていなかった。私は余計なお世話かもしれないけど、心配してたの。このまま、一族の事を考え奔走し沢山の事を考え行動してきた彼女を、またあそこに閉じ込めるのが、嫌だった。私にとって、彼女は自由の象徴だったから。いつまでもあの、くるくる楽しんでいる笑顔で世界を駆け回っていて欲しかった。だから、私は勿論賛成したわ?分かるかしら。…いつでも人のために動いていた彼女が嬉しそうに「好きな人ができたの」って報告してくれた時の気持ち。」
「…………。」
「私はね、「理由が出来た」と思ったの。彼女をこの輪から抜け出させる、理由。そのまま、自由に羽ばたける、理由。このままじゃ、きっとまた一族の檻の中に閉じ込められる事が分かっていたから。もう、全力で賛成したわよ?「行きなさい」って。迷っていたからね、かなり。」
「好きな人って…………。」
「勿論、違う世界の人よ?誰かまでは知らないけど、とても素敵な人だって言っていた。ラピスの慣習に因んで、人形神を作るのだと言っていたわ?多分、その服がこれね…。」
そう言って私の手の中の姫様の服を愛しそうに見る。
ああ、そうか。セフィラの、そういう事なんだ。
好きな人の作った人形に着せる為のもの。そう考えながら服を玩ぶ。…………ん?
好きな人って、ラピスの人なの?
その疑問をそのままぶつけると、フローレスは首を傾げた。
「でもラピスのお友達にもさよならしなきゃって言ってたから、違うんじゃないかしら?」
「…………良かった。」
ん?良かったって、まあ今更セフィラの想い人がおじいちゃんじゃなかったらまた疑問が増えすぎるからね、うん。
「何しろ、私はもう大賛成だったし、そして結局帰らなかった彼女、そして現れた貴方。恋は実ったと思っていいわよね?もう、私も思い残す事はないわ。」
「え?不吉な事言わないで下さいよ。まだまだこれからですよ?私が予言、ぶっ壊しますから!」
「フフッ。やっぱりそっくりね。………そうね、心残りがあるとしたら、きちんと言えなかった事かしら?」
「??…何をですか?」
そこでまたクスリと小さく微笑んで、お茶を飲むフローレス。少し、さっき迄よりも寂しそうな色が浮かぶ瞳でこう言った。
「ヨルは、恋をしてるかしら?」
と。
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