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6の扉 シャット
気焔の服
しおりを挟む私に、隠し事は向いていない。
気焔に「後ろ向いてて?」って言った瞬間、分かった。
だって、肩が震えてるし、完全に気が付いてるでしょ?これ。しかも笑ってるって、どういう事?!
ちょっとぷりぷりしながら、服の入った包みを「目も瞑って!」と言いつつ手に乗せる。一応気が付いていないフリをして、真っ直ぐ立っている気焔の腕を掴んで、ちゃんと包みを持たせる。
「着替えてきて。」
そう言って、洗面室に押し込んだ。
実はホントの事言うと、パンツ以外も作った。
だって…合うシャツが無かったんだもん!
如何せん、パンツの出来が良過ぎたのだ。
綸子の縦地紋が入った燃えるような橙の生地。本人に染めてもらった糸はラップパンツの表に出る端に縦に刺繍を入れた。あとは、シンプルにウエストの紐に飾りを付けたくらい。タッセルみたくね。
生地自体が煌びやかに染まって、品の良い豪華さを出しているのであまり手を入れなかったのだ。
しかし、そこで問題が起きた。
パンツとテイストが合うトップスが存在しないのだ。そう、多分この世界には無さそう、というのが私の見解だ。
作るしか無いじゃん…………。
こんなにカッコいいパンツで上がダサいとか、耐えられない!エローラが人形にダメ出しした時もこんな感じだったんじゃ無いかと思っている。
そうして私は私の忙しさに、自分で拍車をかけたのだった。
デザインはエローラにもちょこちょこ相談しつつ決めたら「迷ってないって、こういう事ね。」って言ってたけどやっぱりエローラはシンか気焔かどっちかと言うと、気焔推しっぽい。
「頑張ってるのに報われないのが嫌」とかこの前言ってたから。多分どちらかと言えば、頑張って守ってくれてる感じがするのは気焔だよね?うーん。
そうして出来上がったトップスは私のワンピースの袖のように生地をたっぷり使った男物のブラウス。胸元は開けたり絞ったり出来るようにギャザーの寄せた襟ぐりにあの糸で作った飾り紐。
袖と身頃の生地はたっぷり取って、パンツに入れても出してもカッコいいシルエットになるようにした。
出来上がって、「結局アラビアンナイトじゃない?」って独り言言っちゃったけど、露出の少ないアラビアンナイトって感じかも。普段着ているベストも合いそう。てか、それだけ出して合わせるとか、出来るのかな??
そんな事をぐるぐる考えていると、どうやら着替えが終わったようだ。
カタン
ん?扉は?
ベッドで寝転びぐるぐるしていた私は顔だけ音のした方を向ける。そこに見えたのは、丸テーブルに座る気焔だった。
「ちゃんと扉開けて出てきなよ」
そう注意するのも、忘れていた。
私は、今布団の中。何故かって?
だって、なんか気焔が光ってるから。なんでか分からないけどキラキラ光っていて直視するのが眩しいのだ。で、そこから逃げて真っ暗な布団の中に居るのである。
私の反応を伺うような金の瞳から逃げたかったのも、ある。
仕上がりは、それはそれは素晴らしかった。だって、着る前から似合うように作ったんだから似合うのは分かってるし、アイテム一つ一つ、ディテールだって私好みに作った。気に入らない訳がないのだ。
そして、それを着て満足そうな気焔。あまりじっくり見れてないけど、オーラで判る。いつもの、優しい、薄い金色。その炎で包まれていたから。
うーん。だから眩しいのかな?ちょっと、消してもらう?
私は布団の中から気焔に声を掛ける。ちょっと、隙間を開けて。少し布団を上げて、入ってきた光に向かって言う。
「ねえ。ちょっとその炎、しまって?」
「何故?何も出してはいない。」
ウソ。そんな事言って。だって光ってるじゃん。
嫌な予感がする。
だって、気焔の話す声が明らかにテーブルからベッドの近くへ来ている。
ちょっと待ってよ…。ちゃんと消えてるんでしょうね…?でも、布団取ったら絶対、見てるよね。ぜーったい、見てる…………。
でも、正直私だってじっくり見たい。その為に、似合うように作った。そうだよ…カッコよく見えるように作ったんだから、しょうがないんだよ…。
やるしかない。
何の決意か、服を見るだけなのに決死の覚悟くらいの勢いで、布団をバッと退けた。
多分、私は予想していたんだと思う。
金の瞳で私を見ていた気焔。また、あの時のようにあの瞳で見てるかもしれない。そして嫌じゃないけど、怖いような、何だか私がよく分からなくなっちゃう感じのような、事をされるかもしれない…………。
でも、その覚悟?期待?は見事に打ち破られた。
気焔はとっても嬉しそうな顔をして、ベッドに腰掛けていただけだったのだ。でも何だか薄~く、光ってはいるのだけれど。
なんだろう、この残念なような寂しいような気持ち…………。うーん………?
気焔に聞く訳にもいかない。なんとなくスッキリしないままベッドに腰掛ける。モヤモヤしつつも
私は浮かれている気焔が珍しいのでそのまま立ってもらったり、くるりと回ってもらったりして服の出来を堪能していた。
しかし見れば見るほど似合ってるな…………。
上半身にボリュームがあって、パンツは太いけれどストンと落ちてバランスがいい。今のシンよりは背は低いけれど決して小さい訳ではない気焔は、こうして見るとスラリとした顔立ちのハッキリしたイケメンだ。整ってるとは思ってたけど、やっぱりカッコいいんだなぁと改めて実感する。
なんかいつもアラビアンナイトだし、石だし吾輩って言うしたまにジジくさいし…正直、きちんと意識した事がなかったかもしれない。
まじまじと見つめる私が珍しいのか、気焔の浮かれた気分も多少収まってきたようで動きを止めて私の事を逆に見出した。
私の作った服を着ている気焔。
とても似合っていて、嬉しそう。そんな彼を見て、私も嬉しくなる。やっぱり、この橙似合うな………。ターバンとか巻いたらもっと「ぽく」なってカッコいいかなぁ…?
多分、顔がニヤけていたんだと思う。
「そんなに、似合っているか?」
揶揄うような声に、ピクッと身体が反応してしまった。
多分、カチッと「そっち」のスイッチが入って気焔の雰囲気が変わったのが分かる。
私は踵を返すと、急いで布団に逃げ込んだ………と行きたかったけど、捕まってしまった。
あと一歩でベッド、と言うところで腕を掴まれ引き戻される。
気焔の胸にそのまますっぽり納められると、「逃げるな。」と言う声に更に心臓が煩くなった。
え?逃げるな?!無理無理、あのキラキラで迫って来られたら死んじゃうよ!
結構必死でジタバタしても、びくとも動かない気焔の腕。私はギュッと目を瞑って、次に何が起こっても心臓が飛び出さないように心の準備をする。よし…………多分大丈夫…………
………………………………んん?
静かだ。何も、起きない。
恐る恐る、目を開ける。私はまだ、気焔に抱きしめられたままだ。このままだと何も見えないんだよね…。でも、何だか今、目を合わせたらいけないような気がする。でも、合わせてみたいような気もする。どんな顔、してるんだろう?
今、どんな気持ちで私の事を抱きしめてる??
急に訪れた一抹の不安なのか、寂しさなのか、私は顔を上げて気焔を見た。
静かな、水色の部屋の中。いつもの私達の部屋の落ち着く空気。
その中で、私を見つめる気焔の綺麗な金の瞳。優しい表情、纏う凪いだ薄い炎とその雰囲気。
全てが、私を優しく包み込んでいて、それを認めた私は安心してそのまま、目を閉じた。
うーん。撫でられてるな…………。
優しく確かめるように触れるその手は何度も、私の顔を撫で同じ動きを繰り返している。何だか同じ所をぐるぐる回っているような、迷っているような、そんな動き。
正直、キスくらいされるかと思った。
ぶっちゃけ、それでもいいと思ったから、私は目を閉じたから。「そんな雰囲気」が分かるようになってきたのも、ある。この頃の気焔の様子から。
私だって、そこまで子供じゃ、ない。
確かに、「私」を見ていると感じたから、目を閉じた。多分、初めてきちんと「他の誰でもなく、「私」を見ている」とハッキリ認識できたんだと思う。
でも、気焔はそれ以上踏み込んで来ず私の頬を撫で繰り回している。
やっぱり………違ったのかな?
私の思い過ごし?
…………分からない。
分からないなら、開けちゃえ。
そう思って、もう一度目を開ける。
思った通り、気焔は優しいけれど困ったような戸惑ったような色も見える瞳で私の頬を撫でていた。
私の心の中の問いが、無意識に口をついて出る。
「何に、迷っているの?」
「ちゃんと教えて?気焔だけが辛いのは、嫌。」
少し驚いたような顔。でも分かるよ。ずっと一緒だもん。どうして?きちんと私にも、分けて?これからも一緒にいてくれるのなら。
「…………お主…。」
シン、とした部屋。
気焔の薄い炎の中、彼の鼓動が聞こえそうな程、そばにいて、包まれている。
でも、何が寂しいのか、分からない。何が引っかかっているのか判らないのだ。
「でも、無理しなくてもいい。気焔のタイミングで、いいから。」
金の瞳の色の変化を見ながら、なんとなく、それ以上踏み込んで行くのを止めた。
困らせたい訳じゃない。
ただ、一人で悩まれているのが嫌なだけ。一緒に、悩みたいだけだから。
私の考えが分かるのか、口に出ていたのかは分からない。
「お主の方がよっぽど強いの。」
そう言って、気焔はまた私をキュッと抱きしめたからそのまま身を任せておいた。
私は、私の想いを少しずつ伝えていくしか、ないのだ。それをどう受け取って、どうするのかは彼に任せよう。
そう思って、心地よい炎に揺ら揺らと身を委ねて、いた。
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