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7の扉 グロッシュラー
新しい、彼
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だよね…………?
だと、思うよ?
…………でもな。
いやいや、そうだって。
あんな人、他にいる訳が、無い。
そう、限りなく白っぽい、薄灰色の髪に赤い瞳。
私の前で話をしているのは、多分、シンだ。
しかし、彼は全く私に反応を示さない。
入って来て、そのままこれからの説明を始めた。
私の事に目もくれず、まるで気が付いていない様なのだけど、気が付いていないのだろうか。
えー。ホントに?
寂しくない?
なんで?…………違うシンになっちゃったのかな??
案の定、全く話を聞いていなかった私は、話が終わっていた事すら、朝に膝に乗られるまで気が付かなかった。
「ねぇ。」
「言いたい事は分かるけど。」
「帰るわよ?」
どうやら私は朝が話し掛けても全く反応しなかったらしい。
最終的にベイルートが前髪を滑り降りて来て、慌ててキャッチして、やっと気が付いた。
うん、顔が痒い。
「ねぇ。朝。」
「うん。」
「そうだよね?」
「だと思うわよ?」
「なんで?」
「…………事情があるんじゃないの?」
「…………だよね…………。」
やっと、現実に戻ってきた気がする。
ボーっと、腕の上を歩くベイルートを見ながら、教室に既に誰もいない事にも、気が付いた。
あ、お友達作戦も…………何もかも…………失敗。
ん?でもシンの事は、失敗って訳じゃなくない?
結局、何か理由があるんだろうけど元気でここでも会えたんだから、問題は………ない筈。
「でも。でもさ…………寂しいじゃん。やっぱり。」
机に突っ伏して、愚痴を言い始める私。
朝も机に座って、付き合ってくれる。
「まぁ、仕方ないんじゃない?何だか………うーん。」
「なぁに?珍しいな………朝がそんな言い方するの。」
結構朝は、ハッキリしている。助けてくれるか、放っておくか。
でも、何だか曖昧な朝の言葉を聞いて少し不安になった。
「私の事、忘れちゃった訳じゃないよね…………?」
「それは、無い。」
そう、キッパリ言われたのでとりあえずその点は安心する。
でも、何だか突き放された感があるのは、変わらないんだけど。
とりあえず、ここでグダグタしていてもしょうがない。
「朝、話聞いてた?」
そう朝に頼りながら、とりあえず部屋を出て自室に戻る事にした。
部屋に戻ると、段々自分の所行が心配になってきた、私。
何となく、シンが目の前で喋っていた事しか、思い出せない。
マズくない?これ。
「ねぇ、自己紹介とか無かった?」
朝が「あそこがいい」と言うので、寝室で話をする。
朝はいつもの出窓で丸くなり、私はベッドに腰掛けていた。横になってダラダラしたいのは山々だが、これからどうするのか、授業が有るのか無いのか、それも何も分からない。
「そうね。とりあえずは1日の流れとか、礼拝に参加するようにとか、授業を選択できるとか、言ってたわよ?」
「うーん。時間割とか、無いのかな?」
「でもあんた達は結構自由らしいわよ?銀は一日一回、礼拝に出れば後は自由なんだって。結局みんな時間があるから何かしら勉強はするみたいだけど。絶対じゃ無いらしいわよ?」
そうなんだ?ふぅん?
「で?選択って?何があるか、覚えてる?」
何もかも、朝頼りの私。こんなんで、いいのか。
いや、良くは無いんだけど。
「えーと、確かね………なんかあの、最初に依るが怒ってた運営とか言うやつと、図書室と、なんだっけな?戦うやつ。」
「え?戦うの?ホント?」
「いや、実戦かは分からないわよ?でも力でなんだか、戦うって言ってた。」
むむ?
でも確かに、シェランは訓練があるって言ってた。デヴァイ出身者も戦闘するの?でもベオ様もなんだかんだでレシフェに習ってたしな………。
ため息を吐いて、窓の外を見る。厚い雲に覆われた空は、いつも通りゆっくりと交差している。
「また戦闘か………でも、採らなきゃいいんだよね………。」
今日も雲は白くて所々、灰色だ。シンの髪は、今回雲に似てるな………?
そんな事を思いつつも、ウィールでの戦闘訓練で出禁を喰らった事を思い出していた。
うん。とりあえず、みんなに辞めろって、言われてるからね…。
でも、避けていても戦闘が無くなる訳じゃないし実態が分からないのは何だか気持ちが悪い。
そのうち、行くしか無いか…………。
「でも図書室は絶対、気になるでしょ?運営も、エンリルにああ言った以上、なんか採らないと負けた気が………。」
そう、あの、啖呵を切ったやつ。これで選択しないのも、何だか悔しい。
「いやそこ、争わなくていいから。余計な事はしない方がいいわよ?」
「う………まぁ、分かってる。」
朝にそう、言いつつもゴロリと横になり、またぐるぐるし始めた。
正直、運営は気になる。
天井から下がる綺麗な白い布を視界に映し、ひだの陰翳を変化させて遊ぶ。垂れ下がる端には飾りが付いているからだ。
その糸飾りを玩びつつ、考える。
だって、ラピスに箝口令が敷かれているのもそれ絡みって事でしょう?しかも人口調整とか、あんたら神かっての!
ああ、自称神なんだった…………。
税を取る、っていうのも必要以上に栄えさせない様、ギリギリ上手く搾取しているのかもしれない。
あ。搾取と言えば。
「ねぇ、レシフェとレナ、いつ頃会えるかな?」
出窓に視線を移すと、朝はもうすっかり丸くなっていて、代わりにベイルートが答えてくれた。
「どうだろうな?俺も、貴石関係者は知らんからな。大体、神殿には来ないだろう?」
「まあ、そうですよね…………。私が行くしかないのかな?でも、気焔は私は入れないって。」
「そうだろうな?しかしレシフェに任せておけ。その辺は流石に考えてるだろう。」
「そうですよね…………。」
そう、授業もいいけど、礼拝も出るけど、私はレナと店もやりたいんだ。どうするつもりなのかな?レシフェは………。
「とりあえずお前、行かなくていいのか?」
「え?何処に?」
「何だか、昼前に礼拝の仕方を教えるから来いって言ってたぞ?」
「ウソ!何処に?」
「あの部屋の隣だと思うが…………。」
「ありがとうございます!」
勢いよく、ベッドから起き上がるとそのまま部屋を飛び出した。
もし、さっきの話が終わった、すぐ後だったら。
もう、誰も居ないかもしれない。
ヤバ……………。
途中、鍵をかけてくるのを忘れた事を思い出したが、朝とベイルートがいればとりあえずは大丈夫だろう。
とにかく廊下も走って、階段も走って、深緑の館の二階に着いた。
あまり人が多くなくて、良かった………。
ちょっと、銀のローブで爆走するには体裁が、悪い。
肩で息をしながら二階の廊下を歩く。
部屋までは、すぐだ。
とりあえず、ノックをした。
誰も居なかったら、どうしよう。しかも、誰に聞けばいいのかも、分からない。
扉の向こうで返事が聞こえた気がして、ホッとして「失礼します。」と扉を開けた。
うう…………。
なに?なんなの?
この状況…………。
分かってるんだよね?微妙じゃない?これ。
扉を開けると、何も無い部屋にシンがポツリと待っていた。
扉の正面にある窓を背にして立っていたので始めは誰だか分からなかったが、あの、白灰色の髪。
紫の彼とほぼ背の高さは一緒だろうか、ただ、髪色以外にも何かが違う気がするが、何かは分からない。
その部屋は、先刻の部屋を仕切った部屋なので設えは同じだが、何も無いというか端に幾つか机や椅子が避けてある。そうして壁には、あの絵も掛かっていた。少し、小さめの絵だ。
何処にでもあるな?コピー?
大小のその絵を見た事がある私は、同じ物なのか、じいっとそれを見ていたのだけれど、それに負けず劣らず、シンも私を見ていた。
そう、始めに入った時。
シンだと気が付いてからはゆっくり話せるかと思って、少しホッとした私。
「シン?」と呼び掛けてみたのだけれど、彼は私を見るばかりで全く返事をしない。
しかし寡黙なシンも知っている私は、特段おかしく思う事もなく、部屋の観察をしていたのだった。そう、彼は初めに会ったラピスのシンとも似ていたからだ。白いし、赤い瞳。
ん?いや?青かったよね?ああ、小さいシンが白かったからか………。
そうぐるぐるしつつも私も質問せずに黙っていた。
話す事があるのなら、彼から話すだろうと。
しかも多分、私が訊いても答えない事も、多いからな…シンは。
そうして私がウロウロしたり、絵を見たり、シンを見たり、窓の外の雲を見たり、シンを見たりしている所をずっと、観察しているシン。
そう、見ている、というか観察されてる気分…。
なんでなんだろう?
そう思って立ち止まり首を捻った所でやっと、声が掛かった。
「じゃあ、やるか。」
「え?」
そう、まさかのまさか、シンは経緯の説明はゼロで礼拝の説明を始めた。
面食らっている私は、彼の美しい所作に見惚れつつもあまり頭に入ってこなくて何度もやり直しをさせられる。
みんな簡単そうにやっていた様に見えて、意外と細かい所が決まっているのだ。
左膝を立てて跪き、ローブを捌くのは右手とか。
祈りを唱える時は斜め下前方、50センチくらい前を見るとか。膝をついている右足の甲は立てるとか。指先は真横にきちんと、伸ばすとか。
細かっ。
一度やっては一つダメ出し、一つ直してはまた追加でダメ出し。
これ、終わるのかな……………。
そうこうしている間になんとか形になってきて、私もシンがどこか違うかもしれない、というのは忘れかけていた、頃。
だって、結構スパルタなのだ。この、白灰のシンは。
「まあ、この位か。」
やっと、立ち上がった私にそう言い、窓際で眺めつつダメ出しをしていた彼が近くに来た。
立ったり跪いたりしているだけだけど、ずっとやっていると結構、疲れる。
少し、深呼吸しながらまた改めて、シンを見た。
さっきは驚きすぎてあまり気にしていなかったけれど、彼は白のローブを着ている。
でも、服は、アレじゃない。
赤い瞳を見ながら、「白のローブと合うだろうに………。」と悔しく思っていると、彼はまた私の考えを読んだ様にこう言った。
「あれは、きちんと、ある。」
ふぅん?知らんぷりしている訳じゃ、無いんだ?
少し安心して、少し訊いてみる。この位なら、教えてくれるかもしれない。
「今度は、居なくならない?」
青の彼とも、紫の彼とも、違う雰囲気の白い彼。
なんだろう?…………なんて言うか。
「依るが居るうちは、多分。」
その、抑揚の無い声を聞いて気が付いた。
彼は多分、今迄のシンとは違う。
この、礼拝もそうだけどなんて言うか見ているだけ。
多分、今回のシンは見てるだけだ。
「見守る」とも少し、違うだろう。「見る」だけ。きっと今迄の様に助けてくれたり、手を差し伸べてくれる感じが、全く、今の彼には無いのだ。
何故か分からないけれどそんな気が、する。
そして多分、それは事実だろう。
少し距離を取って、それ以上踏み込んで来ない彼の態度で何となく、分かる。
しかし私は、さっきまで感じていた寂しさはあまり感じずに、何故かそれが自然な事だと受け入れた。
なんだろう…ここでの彼は、見ている、だけ。
それが、何故だかしっくり来るのだ。
私が納得したタイミングと、シンが指をパチンと鳴らしたのはほぼ同時のタイミングだった。
「気焔。」
そう、合図と共に気焔が現れ、少しシンと目を合わせる。
二人の間に、なんとなく微妙な空気が流れた気がした。
「では、また。」
そう言って、特に何も言わずにシンはそのまま出て行き、そして、部屋には私と気焔だけが残された。
なんだか肩の辺りがチリチリする気が、する。
私と気焔の間にも、微妙に気まずい空気が流れているのが、分かる。
どうして?二人は仲が良かった………とも違うけど、こんな感じだった?
今迄とは二人の関係が変わっているのがハッキリ、分かった。
シャットでも、最後の方少し、なんとなく距離があった二人。もしかしたらシンが白灰色のシンになった事でそれがハッキリ、見える様になったのかもしれない。
なんだか、違う人みたいだし………。
チリチリする肩を抑えながら金色の瞳を見る。
なに、考えてるんだろう?
憂いを含んだ金の瞳を見ながら、「最近何ともなかったのにな…」と久しぶりに疼いた肩のあざを、抑えていた。
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