透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

午前中の造船所

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「やあ。俺はハーゼル。赤のネイアだ。よろしくな。」

「………あ、はい。銀のセイア、ヨルです。よろしくお願いします。」


…………ネイアだったらどっちが先とか、関係無いんだっけ?


明くる日の朝、朝食後の神殿前。

私は何故だか気分が良かったので、午前中に造船所に行く事にした。
いつもは午前中、図書室で午後から造船所の流れなのだが、気分を変えたかったのと、元気が有り余っていたから予定変更してみたのだ。
たまには、気分を変えるのもいいよね?

きっと、あのお風呂のキラキラが効いているのかも知れない。

あれからお風呂の時は、少し思い浮かべただけでフワフワと雲が浮かぶ様になった、癒しのお風呂。
その日の気分によって、多少雲の色が違うのがとてもいい感じだ。

何となく、ピンクが多いと何だかハッピーな感じがするし、紫が多いと大人っぽくいられる感じがする。水色が多いと、爽やかな気分になるし。
我ながら、いいものを作り出したものである。



そうして食堂でクテシフォンに会った私は「今日は午前中に行きたい」と相談済みだった。

そしたら、この人が一緒に待っていたのだ。

赤いローブの彼は、何だかセイアの様にも見えるのだけれどローブにはラインが入っていない。

少し癖のある水色の髪がローブから覗く彼の瞳は紺色で、馴染みのある暗い色。
背の高さが多分、エローラくらいなので親近感が湧く。
年の頃も、多分そのくらいなんじゃないかな?

何しろ、始めの自己紹介からして何だかフランクな彼は一人ペラペラと喋りながら造船所への道を歩いていた。

途中でクテシフォンが「あいつはネイアで一番若い。」と耳打ちしてくれたから、何だか納得してしまった。
完全に、彼は男子学生のノリだから。



「いや、造船に女の子が来てるって聞いてはいたんだけど全く会わなかったよね?何で?」

何で……って…………こっちが聞きたいけど…。

少し彼の勢いに戸惑いつつも、少し慣れてきた私は普通に答える。

「タイミングじゃないですか?…………あとは、私がいつも行くのは午後だからかもしれません。今日はたまたま、思い付いたんです。」

「え?たまたま?じゃあ、俺達相性いいんじゃないか?」
「…………うーん。」

この人、気焔の事知らないのかな?

早速面倒になって適当な返事をし出した私は、途中からクテシフォンに最近の様子を聞く事にした。やはり、私がいる時といない時では、みんなの様子も違うだろう。
子供達も歓迎してくれる様になったとはいえ、まだまだ長い道のりには、違いないのだ。

「いや、ヨルが食事に気をつけ始めてからは本当に改善されている。作業中もデービスが窓を気に入って機嫌が良いから、あの子達も伸び伸びしてきたよ。」
「そっか…………良かったです。そう言えば、デービスさんとナザレに、何かお礼をしたいんですけど何がいいですかね?」

「ん?お礼?…………そうか。まぁ、君ならそう言うか…。何か、まじないでいいんじゃないか?物などよりは、喜ぶと思う。」
「確かにそれはあるかも知れませんね………。聞いてみようかな…。」


私達がそんな話をしていると、少し先を歩いていたハーゼルがスピードを落として近くに来た。

「そういや、ヨルが作ったんだって?あの、窓。凄いな。屋根に登ったのか?」

「何?その顔。何かおかしな事、言ったか?」

思わずクテシフォンと顔を見合わせてしまったが、確かに現場を見ていなければ、そう思うかもしれない。
あの大きさの、窓が浮かんで天井に嵌まったなんて信じられないだろう。

クスクスと笑う私を変な顔で見ているハーゼルは「何で?」とクテシフォンに言っているけれど、クテシフォンも知らん顔している。

「何それ?二人の秘密?怪しいな…………。」

ブツブツ言っているハーゼルを見ながら歩いていると、もう造船所だ。

午前中から来るのは、オルレアンと来て以来じゃない?


そして、今日何故ハーゼルがいるのかと言うと子供達の中で誰が力の訓練に参加するのかを見極めに来たのだそうだ。
何だかよく分からないけれど、とりあえず下見に来たらしい。
まぁ私はその辺、子供達が怪我とかしないのであれば別にいいんですけど。


戦闘訓練に関しては、シェランがやっていた様なリアルな訓練は見せてもらっていない。
基礎や体力作りの部分はよく見るが、クテシフォンはあまり私に見せたくない様で、私が帰ってからやっているみたいだ。
理由は分からないけれど、彼と話していい人だと思ってからは特に踏み込まない事にした。
きっと気を使っているのかもしれない。
確かに、子供達がバンバン倒されていたら、私は見学どころじゃないと思うから。

そういや、ウィールでも出禁になったしな…………。

クテシフォンはそれを見越したのかもしれない。
ルガが倒れた時も、怒ってたしね。私。
そういやそうだった。



大きな扉をクテシフォンが開けて、私も続いて中に入る。


すぐにハーゼルは何処かに見えなくなって、私はとりあえず石に力を入れる為船の上に上がった。

「シュレジエンさん!おはようございます!」

物見櫓にいるシュレジエンに声を掛ける。

「どうしたお嬢。今日は早いな?」
「いや、気分転換です。午前中の天窓も、いいですね!」

シュレジエンは頷くと「待ってろ」と言って降りて来る様だ。

子供達にも挨拶を返しながら、大人達のところへ行く。
二人とも、何が欲しいか言ってくれるかな?


「おはようございま…………す???」

「ああ、いいところに来た。お前さん、これ組んでくれないか?」
「えっ。何ですか、これ?なんか、凄いけど…………?」

デービスが開口一番私に頼んできたのは中々の大きさのガラスの、板。それが、五枚ある。

「どうするんですか?これ?なんだろう?」
「これはな………水槽だ。」
「え?…………魚…………?いませんよね??」

「フフ…………交渉が、遂に成功したんだよ。あの、魚のな…………。」

え。
なに?
デービスさんがコワイ。

チラリとナザレを見る。
何だか苦笑しているけれど、理由は知ってそうだ。
私が目を合わせて頷くと、何も言わなくても教えてくれた。

「あの、「幻の魚」を融通してもらう事になったらしいです。」

「えっ!!」

あ。声が大き過ぎた。

「融通って、誰に…?」
「あの、商会が来てくれる様になったんです。以前は来なかったんですが…。新しい人になったんですかね…?」

ああ。
レシフェだ。

え?幻の魚売ってんの?駄目じゃない?それ。

うーん?でも「まじないのいい材料になる」ってウイントフークさん言ってたしな………まぁ、こういう人しか買わないか………。

それにしても商売上手過ぎない?あの人。
何処にでもいるな?


レシフェの手広さに感心しながらも、デービスの話を聞く。

どうやら、私の仕事はこのガラス板をくっ付けて、巨大な水槽を作る事らしい。

「私、二人にお礼、しようと思ってたんですけど………。」
「俺はこれでいい。寧ろこっちから返さなきゃいけないかもしれないな。」
「え?いいですよ………これ、くっ付けるだけですよね?」

私はデービスが打ち解けてきているのが嬉しくて、ホイホイ返事をする。

だって最初、取りつく島も無い感じだったもん。
デービスさんも、結局ただのまじないオタクだからさ………うん。

しかし私が安請け合いをしたその作業はそこそこまじない力を使うらしく、デービスがやるとその日一日、仕事にならないのだそうだ。
しかしこの間の窓を見ていた彼からすれば、私のまじないならばすぐに出来ると言う。
確かに見た感じは、窓を天井に上げるより楽そうだ。


「じゃあ、力を込めたら来ますね。ナザレも何か、考えておいてね?」

二人にそう言うと、シュレジエンの所に戻って話を聞こうとまた、船に上がろうとした私。
しかし、一階の船室で「こっちだ。」と言っているので、進路変更をしてそのまま中に進む。

何だろう?石は、上の船室なんだけどな?


いつもの小部屋に入ると、珍しく扉を閉める二人。
いつもの、シュレジエンとクテシフォンの二人だ。

扉を閉めると、シュレジエンは小声で私に訊ねた。それは、ハーゼルの話だった。

「お嬢、今日は何であいつが付いてきたか分かるか?」

「?知りません。え?私の所為?」

焦る私にクテシフォンが落ち着く様に、言う。

「ヨル。シュレジエンは心配しているだけだ。しかし急に私の所に来て「行く」と言い出したからな…。食堂で君との話を聞いていたのかもしれないな。」

「?どういう人なんですか?何かまずい事でも??」

「いや。…………まぁ、そうでも無いが…。赤は日和見だからな………。」

日和見?
何だっけ、それ……………。
確か、どっちつかず、みたいな意味だったっけ?

「まぁ兎に角気を付けとけ。お嬢は用心し過ぎるに越した事はない。悪いが、デービスの仕事も次にした方がいいな。あのまじないは結構、デカい。」

確かに大きなガラスだったけど。
これ、今日駄目って言ったらデービスさん泣くんじゃない?

「私が行ってこよう。」

その、ちょっと気が重い役目をクテシフォンが買って出てくれ、小部屋を出て行った。

「あの、力は込めて行って、大丈夫ですよね?」
「ああ。あれは部屋の中だから大丈夫だろう。周りを見て部屋に入るんだぞ?」
「はぁい。」

そんなに変な人に見えなかったけどな?
ちょっと煩かったけど。


とりあえず注意事項が終わった私達は、解散してシュレジエンは上に戻り、私もゆっくり一階を歩く。
一緒に内緒話をしていた事がバレない方がいいかと思ったからだ。


うーん?
でもやっぱり、この船、ちょっとな…………?

謎の違和感を再び感じた私は、ゆっくりと何かを確かめながら、船の中を進んで行った。
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