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7の扉 グロッシュラー
ラガシュと気焔
しおりを挟む目の前の焔がみるみるうちに燃え上がり、私は焦っていた。
えっ。
なんでなんで。
なんでこうなってるの。
えっ、えーっ!
気焔の事を内緒にしようと思っていた私は、一人焦っていた。
しかし、男たちは私には目もくれず睨み合っていて、しかし、ラガシュは何だか楽しそうだ。
何これ。
どういう状況?
あの、小さな図書室の隅のスペースで燃え盛る気焔の焔はどんどん大きくなって、今にもはみ出しそうだ。
しかしさっき迄は一応、ここはラガシュのまじない空間だった筈だ。
気焔が来たという事は、それが破られて視認できる状態なのかそれとも。
「アキ。お願い。」
咄嗟に髪留めに触れ、アキに願う。
薄茶の繭玉がパッと現れみるみるうちにある程度の大きさまで膨らみ、私達を包む。
これくらいなら、大丈夫かな………。
きっと、きちんと出来ていればあの「見えないやつ」みたいにしてくれてる筈。
そう、アキを信じて無意識に掴んでいた右手の、気焔のローブを見た。
青い、ローブ、脱げたフード、私の金髪。
見上げた時にはもう、大分小さくなっていたその焔は、しかしまだ橙がチラチラと揺れ彼がまだ落ち着いていないのが解る。
そのままローブを引き私の側に寄せると、ギュッと腕を抱き寄せた。
駄目だよ、もう…………折角、隠してたのに。
ラガシュだから…大丈夫だとは思うけど。
「この男………信用出来るのか?」
「大丈夫。………多分。」
あらら。
瞳も金だよ……………。
でもさ、誰も気焔が金の瞳でも長のアレだと思わないよね………。ああ、みんな石なの知ってる人ばかりだからか………ん?それで言えばラガシュは、どう思うんだろう??
チラリと灰色の瞳を確認する。
多分、気焔に特別興味を示している訳では無さそうなラガシュはきっと私達二人のやりとりを観察しているのだろう。
私と、気焔交互に見ながら何やら頷いている。
なんかよく分かんないけど、大丈夫そう………。
気焔に「大丈夫」ともう一度目で伝えると、私は焔が落ち着くのを待って気焔を椅子に座らせた。
ちょっと、抵抗されたけどとりあえず座らせてその後ろに立つ。
ラガシュにも座るよう勧め、先ずは落ち着いて話せるよう、場を整えた。
えー。
なんて言おう。
無意識に金髪を撫でくりまわしていた、私。
明後日の方向を見ていたので気が付いていなかったが、その時もラガシュは楽しそうに私達を見ていて、気焔はラガシュをきっと警戒した目で見ていたのだろう。
「大丈夫ですよ。」
そう、気焔に向かって言うラガシュの声で我に返った。
「あなた達の、邪魔はしません。寧ろ、協力しないといけませんね。あの方にも、言われましたし。」
気焔が撫でていた私の手を掴み、クイと引いた所為で、彼の前にくるりと立つ。
ヤバ。
今の一言できっと、姫様が出た事が分かった筈だ。でも…………あれは………。
不可抗力だと思う。うん。
だって。
だってもう、多分、抑えられない。
なんでか、分からないけれどここに来てから多分、出てくる事が多くなった、あの、私の中の、あの人。
多分、気焔にとっても、大切な。
大丈夫。「私が」必要だと言った。
少し、私の瞳が揺れたのだろう。
「いや、大丈夫だ。依る。お前が。」
それ以上、言葉は続かなかったけれど彼が私を安心させようとして言ったのは解る。
頷いて、気持ちを落ち着かせる。
多分、なんとなくだけど。
私が、自分の気持ちを認識して。
気焔が、私の欲しいただ一つのもので。
私は、私の道が判って。
彼女と、私が違うものだと、求めるものが違うのだと、理解したから、きっと。
きちんと、分かれてだから、出てきたのだと思う。
それ迄私達は、混ざり合っていた。
そう、「混じりもの」と言っていた彼女。
彼女が私を「違う意志を持つもの」だと認め、私も彼女を「私の中にある違う場所を求めるもの」だと認識した。
何となくだけど、私達は今、協力し合う状態なのだと思う。
以前の、気焔とシンの、ような。
気焔と、シン。
んん?
えー、と?
「私はずっとあなたを探していました。だから、協力こそすれ、傷付ける事などあり得ませんよ。」
そうして私のぐるぐるは、ラガシュの言葉によって中断されたのだった。
「本当は二人だけでお話したかったのですが。」
ちょっとぉぉぉぉ!
何でそういう事言うかな?!
やっぱり、少し楽しそうなラガシュは揶揄うような様子でそう、話し始める。
さっきやっと焔が収まった所なのに、何でこの人はそういう事言うかな?!
ジロリとラガシュを睨むと、「ああ、姫の大切な人に失礼でしたね。」と言うラガシュ。
オブラート!
ちょっと!反省してないじゃん!
姫とか言わないでぇー!
ラガシュは私の事を「姫」とさっき、言った。
けれども気焔からしてみればそれは「姫様」を指す言葉だ。
まぁ、両方バレてるから同じようなものかもしれないけど、いや、全然違う。
ど、どうしよ。
このまま気焔と撤収してもいいけど、まだ祝詞の解釈を詰めていない。また、この話を初めからするのはちょっと………。
すると突然、視界が塞がれる。
多分、気焔の手だ。
彼の意図は分からないが、そのままとりあえず大人しくする私。
このまま、部屋に飛ばなきゃいいけど…………。
「お前は…………「何」だ?」
「私ですか?まぁしがないネイアですよ、ただの、力も無い、図書室の長と言うだけの。」
「何故、「姫」と呼ぶ?」
「それは…………私達、青の家が待ち望んでいた、存在だからですよ。彼女は「光を灯すもの」。僕はね、ずっと、待っていたのかもしれない。そうして、光を溢す彼女が現れ、少し覗いたその、光。しかし。僕達には。」
「やらねばならない事がある。出来れば、やりたくない事。しかしやらねば世界が。…………でも、彼女は「生贄」ではなく僕らを導く「光を灯すもの」だった。解ります?この、僕の気持ち。ちょっと、小躍りしたい気分ですよ。やりませんけど。まぁ、彼女と二人なら或いは踊りますけど。」
「それで?」
どんどん興奮し出すラガシュに、冷えた気焔。
何だろ、この空間。
私の薄茶の繭に包まれたこの空間は何だか怪しい雰囲気になってきた。
出来ればもう少し、この金色を刺激しない様、話せないものか。
いつの間にか外れた気焔の手を握り、落ち着く様に願う。
大丈夫。
この人はちょっと、アレなだけ。
私達の道は塞がないよ?
安心して?
ちょっと、バレたけどきっとこの人は話さない。
私が、みんなを救おうとしている事が分かっているから。
あの、姫様の事は、後で。ね?
チラリと金の瞳を確認する。
多分、解ったのだろう頷いた彼はラガシュの方に向き直った。
「何かしたら。消すからな。」
そう言って私の髪を撫でると、「何かあれば呼べ。」と、ラガシュの方を見て言いパッと、消えた。
ふぅ。
小さく息を吐く。
「何でああいう言い方するんですか。」
キロリとラガシュを睨み、そう言うとやはり彼は楽しそうに腕組みをしてニコニコしていた。
「彼は…………あなたを守るためにいるのですね。気が付きませんでした。」
「まぁ、はい。」
何と返事をしていいのか、分からない。
とりあえず曖昧に濁して、彼の表情を観察していた。
多分、何も言わないとは思うんだけど。
私の考えが、読めたのだろう「大丈夫ですよ。」とまたニッコリと笑うラガシュ。
この人の目はどこまで、分かるのだろうか。
いや、でも、私結構顔に出るからな‥…。
「では、続きといきましょうか。何処まで、話したのでしたっけ?」
「えーと…………?」
二人とも、分からなくなって顔を見合わせて笑うと、丁度鐘の音が聞こえてきた。
「じゃあ続きは昼食後にしましょうか。宜しければご一緒しても?」
「はい。」
確かにちょっと、頭も疲れた。
栄養を補給しなければならない。特に、食後のデザート。
ラガシュは食べるかしら、なんて思いながら髪留めにそっと触れて繭を消す。
その様子を、興味深く見ていたラガシュは「まだまだ面白い事がありそうですね。」なんて心配になる事を言いつつ、私を食堂迄エスコートしてくれたのだった。
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