透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

変化を促すもの

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「変えるのは、難しい。変わるのも、然り。」


静かな声が、私の隣に向けられている。

きっとお昼近くなってきたのだろう、太陽は見えないここでも窓から差す光は何故だかきちんと角度を付ける。
だからやっぱり、あの厚い雲の向こうには。

空があるのだと、思えるのだ。

「じゃが。然るべき時に「それ」を判断して、出来る事。「それ」は勿論お前さんのこれ迄の生き方が関わってくるじゃろうし、これからの生き方を、左右するもの。」

「しかし、幸いな事に、この世界にこの子が来た。が、意味する事。解るな?今迄とは違う。「自分で」判断するのだ。其々が。己が、意志で。それを皆が出来る様にするのも、ネイアの役目じゃろうよ。」


ゆっくりと話す、ウェストファリアの低く厚みのある声。


風が、流れている。

そう、思った。この、話を聞いて。

その、クテシフォンに対して話されている内容は正にこの世界が変化している、変化していける、「その時」が来た、という内容。

今迄はただなんとなく、流されているだけだった人々。
きっかけが、無かったのだ。きっと。
「変わりたい」と思う事も、「変わらなくてはならない」と思い変化を促す事も。

日々同じことが繰り返され、ただ流れていくこの日常で。
物事を深く考えたり、疑ったりするのは容易な事ではない。

。それもあって、きっかけとして、私は光を降らせようと思ったんだ。そうだ。
でもきっと、凝り固まった思考を崩し解すにはそれだけでは不十分な人も多いだろう。

特に、大人達は。
子供達以上に、囚われているものが多い筈なんだ。

二つの白いローブの間を、視線が行き来する。

こっちの白は、自分の場所を自分で作り好きな事をしている。でも、こっちの白は。
きっとこの世界のしがらみに囚われている。でも、あの時クテシフォンは私に言った。

あの日の造船所の帰りの、彼の変化。


-「でも子供の顔を見て、君のやっている事は間違ってないと感じた。どっちが正しいのかは、分からない。だが、そっちの方が「いい」のは分かるよ。それが、結局全てかもしれないな。…………あの子達の笑顔を見る事は、今迄無かった。」-


そうして彼は子供達の事にも協力してくれたし、私の事も、そうだ。
確実に、変わってるんだ。

何が、彼に手を伸ばす事を躊躇わせているのか、私には分からない。
でも。

彼に受け取って欲しいし、それがスタートになれば、いいと思う。
それが、一歩踏み出している彼が、石を受け取る布石になって、みんなが一緒に風を起こせるなら。

始めは受け取りたくない人も、多いかもしれない。でも「どうして受け取りたくないのか」それも、含めて。
「自分のことを考える」、その機会を作って欲しいのだ。

が出来たなら。


そんな、いい事って。無いよね?


思わず嬉しくなって背後の金の瞳を探してしまった。

すっかり明るい金色に戻った瞳は、揺ら揺らと燃える焔が私のやる気を反映している様に、見える。
しかし、しっかりクギは刺されたのだけど。

「あまり、張り切り過ぎるな。」

「う、うん………。」

自信、無いけど。

とりあえず、そう返事をしておいた。
うん、それは仕方ない。



………それにしても。

さっきの感じ。

大地に直結した様に感じた、「あのチカラ」は何だったのだろうか。

何か「あの人」が関係あるのかな………?
このまま一緒になっちゃったり、しないよね…?

いや、それは大丈夫。

私達の「還りたい場所」は、違う。

「あの人」はあっちで、「私」はここに、在る。
大丈夫。

私達は「同じ」で「違」って、それはきっと何らかの理由がある筈なんだ。
多分、何となくだけどそう思った。

だって。

「どちらか」だけで、いいんだったら。


  きっと、初めから「ひとり」の筈なんだ。


キュッと口と拳を結んで自分の中で確かめる。

うん。


そう、再確認して顔を上げた。





私がぐるぐるしている間に、三人はこれからの「木」についての話し合いをしていたらしい。
とりあえずまた後日、向こう側の木も確認に行く事になっていた。

勿論、私も行っていいよね………??
楽しみ過ぎだし、お弁当持っていけばいいかな??

ギラギラした目を向けていたら、気焔が溜息を吐いていたけどスルーしておく。

うん、反対側も楽しみだなぁ!
どこから、出ているだろう?
早く行きたいなぁ………。



「さて。で、どうするね?」


再び静かになった白い部屋。
二人の視線は私の隣のクテシフォンに注がれて、いた。

邪魔をしない様、なんとなく隣で背筋を伸ばし座っている、私。
目の前に無造作に積まれている、青の本達は金の箔押しがキラリと光って「開いて?」と言っている様に、見えるけど。

今は、無理だな………。

それらを見つめながら、辺りの空気を窺う。

私も彼を見てしまうと、プレッシャーだろうか。


しかし緊張を破る様に、白い魔法使いが突然、言った。
やはり空気を読まない所は、あの人に似ているのだ。

もしかしたら意外と近い親戚なのかもしれないな?

「私にも一つ、融通してくれんか?お前さんの石だと、何が違うのか。それも、少しな………。」

「あの、もしかして。」

ピンときた私は考えながら、口を開く。
この前、四人で話した扉の、話。

その、「なにか」が出てきそうだった、石が爆けた時。
「私の石」だけ爆けなかったと、白い魔法使いも聞いたのだろう。
確かにそれは何故なのか、私も気になる。

それに………。

「あの………。ウェストファリアさんは、勿論。」

ゴクリと唾を、飲んでしまった。

「あの、扉。見えました、よね?あれ、って………。」

私の心中を、慮ってか少し微笑む彼。

その様子を見て「ああ、そうなんだな」と複雑な気持ちになった。すんなり納得した様な、何か嫌な予感が、する様な。微妙な感じだ。

そうして白い魔法使いは当然の様に、こう応えた。

そう、やはりそれは、誰でも思い付く事だったのだ。


「まあ。そうであろうな?こそが神の扉だと。噂をしている者は、いる。もしかすると、アリススプリングスが流したのやも知れぬが。」

やっぱり。

背後の気焔が私の肩に手を置く。
あの時の、女子達の話は気焔にはまだしていないからだろう、きっと心配しているのだ。

一度振り返って金の瞳を確認すると、また口を開く。

私の、「なにが」「どう」危険なのか。

それを聞いておかなければならない。

私がぐるぐるしながら口を開くと、話し始めたのはクテシフォンだった。

ん?

パタンと開いた口を閉じて、隣の彼を見る。
しかし、私をしげしげと見つめながら口を開く彼の表情は、思いの外真剣だった。

「思っているより、複雑なのかもしれません。」

「??」

「じゃろうな?」

「おかしいと思っていたんです。彼が連れて来たのは「銀の家の少女」だった。元々数が少ない、しかも丁度よい年頃の少女。あくまで、目を逸らして………。」

白い魔法使いから移された視線は、再びくるりと私に向いた。

「始めはきっと、「そうであればやり易い」くらいだったのかもしれないが、ここまでくると…。」

そう言って下を向くと、何やら考え込んでしまったクテシフォン。

さっぱり、訳が分からない。


すると白い魔法使いがよく分からない素敵な提案を、してくれた。
気焔は少し、微妙な表情だったけれど。


「さ、そうと決まればお前さん達、午後にも「あちら側」へ行くといい。レシフェにも連絡しておけば、石も、創れるじゃろうて。」


「そうと決まれば?」

思わずツッコミを入れてしまったが、そんな事は意に介していない白い魔法使い。

でもきっと、何か彼なりの意図があるのだろう。

気焔とまた何か、視線を交わしていたけれどとりあえず頷いていたのでそれでいいという事らしい。
勿論、私に異論は無い。

いつ行けるかと、楽しみに待たなくていいのだ。

しかも朝ごはんを食べずに、お昼になりそうだし??
早めに食べて、早く行けば良くない??

名案!

ソワソワし出した私を見て、きっと背後の気焔は苦い表情をしているに違いない。
だから、振り向かずにこう言った。

「レシフェも来るし、気焔もいる。クテシフォンさんも行きますよね??……………って事は。」

笑みが、抑えきれない。

「私は、思いっきり歌ったり祈ったり、してもいいって事ですよね?!!」

ヤバい。

頑張って興奮を抑えようとしていたけど無理だった。
足をジタジタさせながら、青い瞳、青緑、交互に見て確認する。背後の金色は見ない。うん。


「程々にな。」

一応、そう言って嗜める姿勢を見せる白い魔法使い。だがそれが、建前である事を私は知っている。

だって、この人絶対、ワクワクしてるもん!

青緑の瞳が悪戯っぽくキラリとしたのを私は見逃さなかった。

「大丈夫、私も行くし。ベイルートも呼ぼう。」

クテシフォンが気焔にとりなしている。
正直、怖くて背後は見れない。



そうして気焔が二人に説得されるまで、私は一人、ワクワクを抑え切れずにグフグフ言っていたのであった。

うん。

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