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7の扉 グロッシュラー
行き先
しおりを挟む灰青の階段を駆け降りて、廊下を歩く。
一階は二階よりも、人に会う可能性が高いのだ。
そう、少しお淑やかなフリをして進む。
「あ。猫かぶるの辞めるんだった。」
意外と身に付いていた自分を褒めつつも、「まぁ廊下は走らないに越した事はない」という結論に達し、そのまま外に向かって歩いていた。
濃灰青に生成りのラインが入った絨毯は、両端が紺色に切り替わっていて「ラインから色が違うのか」、「そこで切り替わって違う絨毯なのか」私はいつも気になっていた。
「うーん、踏んだ感触は同じだから、同じなのかなぁ?」
大概誰かと一緒にいるので、怒られると思って確認した事はない。
「チャンス………。」
辺りに人がいない事を確かめ、徐ろにしゃがみ込む。
生成りのラインに手を触れた、その瞬間。
「なぁに、してんのよ。」
「あっ。」
パッと反射的に手を引っ込める。
別に、確認したっていいんだけど。朝だし。
しかし、引っ込めた手を再び出す事はなかった。
入り口からヒョッコリ顔を覗かせたレシフェに、催促されたからだ。
「おい………。何してんだよ、そこの?」
「ごめん、今行く。」
ローブを払って立ち上がり、一応周りを確認して入り口へ向かう。
もし、見られていたら。
かなり、怪しい人確定だから。
「お待た、せ?」
ポンと跳ねる様に廊下に踏み出し、くるりと振り返ると見た事のない女の人が一緒にいるのが目に入った。
「…………?」
「ヨル、こいつはエレファンティネだ。少し、造船所まで、一緒だ。」
ん?なんだか歯切れが、悪いな?
その、女性は。
チラリと、視線を向ける。
私と目が合うとニッコリと笑って、軽く会釈をした、その人は。
物腰の柔らかい、大人の女性だ。
何か、同行する理由があるのだろうか。
「ヨルです、初めまして。」
私も合わせて、挨拶と会釈をする。
うーん?もしかしたら?
幻の魚の、運んできてくれた人とか??
勝手な想像を巡らせながら、白い廊下を二人の後からついて行く。
神殿内は落ち着かない様で、レシフェがさっさと歩き出したからだ。
しかし彼とそのエレファンティネの手には大きなバスケットが握られていて、きっと中身はお弁当なのだと判る。
それなら。
丁度お腹が鳴りそうだった私は、彼女の後ろ姿を見ながら足取りも軽く門へと向かった。
「お前は暫く免除だと言われている。」
「えっ?!ホント?」
道すがら、気焔が「ミストラスからだ」と伝言を伝えてくれる。
「ああ。なんせ、どんどん木が伸びられても困るからな。まあ、困りはしないのだろうが………。」
チラリと、私を見る茶の瞳。
そう、多分エレファンティネがいるから今日は茶の瞳なのだ。
最近、クテシフォンやラガシュ、白い魔法使いの前でも金の瞳の事が多い気焔。
もう、心を許したという事なのかと、私にとっては嬉しい彼の変化だ。
少し前まで、「まだまだ壁があるな…」と思っていた私としては彼の味方が増えたのだと思えて安心出来る、出来事。
でも、すぐに人を信用してしまう私にとっては「まだ気焔がみんなを信用していなかった」事に驚いてしまったのだけれど。
「本音は、このまま伸び続ければいずれお前が原因だとバレる可能性が高くなるからだろう。祈りたいのなら、二階へ行けと言っていた。」
「え?そう?やった!」
「…………。」
また少し、仕方のない様な目をしているけれど私にとっては二階の方が、雰囲気も好きだしスペースの規模的に落ち着くのだ。
「程々にしておけ。もしかしたら彼方でも伸びんとも限らん。」
「…………大丈夫!多分。」
そう言って、二、三歩気焔より前に出た。
だって多分。
また、あの目をして私を見ているに違いないからだ。
それよりも私は、前を歩いている二人が気になって仕方なかった。
何かをレシフェと話しながら歩いている、その女性は。
灰色のローブは纏っているが、多分ロウワではない。
雰囲気が、全く違うのだ。
濃い青だが紺色までいかない、ウェッジウッドブルーの様な美しい髪。
良く手入れされたウェーブが外の光で艶々として、きっと家格が高いのだろうと判る。
どこの家の人だろうか。
さっき見つめられた赤茶の瞳と相まって、何だか紫の様に見えるイメージだ。
ん?紫?
どっかで…………??
私よりも少し背が高くて、気品があるその様子はここグロッシュラーでは初めて会うタイプの女性だった。ブリュージュやビクトリア、ネイアの二人とも、雰囲気が全く違うのだ。
首を傾げながらも、そのスッとした後ろ姿を見ながら進んで行く。
もう、しばらく石畳を歩いてきたのできっとそろそろ造船所が見えて来る筈だ。
そういえば石の館には全く気が付かなかった。
ま、いいんだけど。
でも、欲を言えば一回くらいは入ってみたいよね…。だってアレってお城でしょ?だよね?
なら中には…。
「フフフ。」
「何よ?まぁ、いつもの事だけど。」
「じゃあ突っ込まないでよ…。」
「ん?でも行き先は?結局?造船所って言ったっけ?」
「心配するな。お前の要求だ。」
「え?…じゃあ…?」
気焔曰く、レシフェが一番に説明していたらしいのだけど。
どうやら、エレファンティネに気を取られて全く耳に入っていなかった様だ。
そうして聞いた、今日の目的とは。
やはり、幻の魚を届けに行く事だった。
「やった!!ちょっと、じゃあ何ですぐ教えてくれないの?ねぇ!レシフェ!」
私が背後で騒いでいると肩をすくめたレシフェが言った。
「だからだよ。」
「違いないわね。」
「え?朝まで??だから、って何??」
「分かった、分かった。ほれ、着いたぞ?」
気焔に嗜められつつも濃灰色の大きな建物が目の前に見えてきた。
ただ、私にはもう一つ、気掛かりな事がある。
そう、ナザレにも約束している、「アレ」だ。
いや、私が勝手に言ってるだけかもしれないけど。
「絵の具。だから…………。」
ブツブツ言っている声が聞こえたのか、レシフェは振り返らずにこう、言った。
「持って来てるよ。勿論、子供達の分も、な。」
「やった!レシフェ天才!!」
ぴょん、と飛び上がり駆け寄った私にエレファンティネは目を丸くしていたけど、そんなのは気にならない。
「いっぱい?いっぱい持って来てくれた??」
「ああ。ケースにあるのは殆ど持ってきたぞ?余れば返せばいいからな。「色」を選びたいんだろ?」
「そうなの…………。ありがとう、レシフェ。」
「行くぞ。」
私達の間を通って、手を取る気焔について大きな扉を中に入る。
手を握られて多少は動きが大人しくなった私は、まだ後ろを振り返りつつレシフェに石の色を聞き出そうとしていた。
出来るだけ、子供達本来のまじないの色に近い石にしたかったからだ。
その私達のやりとりを興味深そうに見ている赤茶の瞳に、石に夢中な私は全く気が付いていなかった。
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