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7の扉 グロッシュラー
二人の思惑
しおりを挟む睨み合って、暫く。
しかし流石にミストラスの判断は的確だった。
長に執着していそうな彼は、きっと訊きたくは無いのだろうが素直にラガシュに尋ねる事にしたらしい。
でも多分それも、長の為になんだろうけれど。
「では。長自身も。何かを利用して、永らえている、と?」
その、言葉を聞きチラリと私を見たラガシュ。
その瞳は私があの図書室の奥、彼の空間で話をした時の色に似て見える。
何かを見つけた時の、少しワクワクする様なしかし強さもある、そのしっかりとした瞳。
それは彼の予測が確信であるかの様に、見せていた。
「まじないを溜めているのは、承知と思います。まあ、あなたが回収している様なものですしね。」
やっぱり、気付く人は気付くよね………。
あの、頭上に立ち昇る靄。
ラガシュは目がいいから、よく見えるのだろう。
この人は黙って、力を納めていたのだろうか。
それとも………?
「でも実際、石に力を溜めるのでも、集めるのでも、限界がある。だって、「世界」ですよ?この島一つじゃ、ない。多分、今だってギリギリの筈だ。現に、僕たちの世界は別れている。」
別れて、いる?
シン、とした室内は微かな「リン」という音が聞こえ、いつの間にかラガシュの空間になっている事が判る。
多分、それが無くともこの銀の部屋は安全だとは思うのだけど。
きっと、それだけ重要な話をしているのだ。
だって。
「別れて」るって。
そこから私が導き出した答えは、一つだ。
この旅をしていく中で、「扉を繋ぐ」事が私の目的の一つにも、なっていた。
何故だか別れていて。
それが、自然だと思っていたけれど。
もしかして………?
思わず正面の茶の瞳を確認した。
多分、ミストラスも同じ事を考えているのだろう。
でも何故だか視線は私に注がれたまま、「信じられない」という顔をしているけど。
「…………何を、知っている?青の家は。」
しばらく黙っていた彼だったが、落ち着いてきた様だ。ゆっくりと、静かに話す様子が事の重大さを物語っている。
時折聴こえる、ラガシュのまじないの鈴の音。
薄灰色の髪が、サラリと肩から流れる。
こんな時でも、私の目は「今日の組紐は瞳と同じ茶で赤い糸が編み込まれてるな」とその仕事の良さを追っていたのだけれど。
ミストラスの質問の内容。
勿論、私も答えを知りたい。
でも、私の本能が告げていた。
「これは聞かない方がいい話」だと。
無意識に目が職人の仕事を追うのは、その所為だと思う。なんとなく、考えない様にしているのだろう。
しかしきっと、それがこの世界の本質の話で、私がそれに関わっているであろうこと。
そしてそこから、逃れられないということ。
若しくは、聞いてしまえばもう放ってはおけないという、こと。
テーブルの彫刻を見ていた。
何も、考えてはいない。
ただ、目に映っているだけ。
でも、多分。
私が顔を上げたなら、この話が始まる事が分かっているのだ。
だってさっきのラガシュの瞳は、「その瞳」をして、いたのだから。
どう、しようか。
でも。
結果なんて、決まってる。
放っておくなんて、選択肢は無いし、やろうと思ってもできないだろう。
でも。
少し、ほんの少しだけ。
チカラが欲しくて、隣に視線を移す。
腕組みをしたまま、下を向いている彼の瞳は開かれて既に私を見て、いた。
そこには全てを語る、金色があった。
私のぐるぐるも、不安も、でもやりたい、やるんだ、という気持ちも。
全部、解って、それを包み込む色をしたその燃える瞳。
「ああ、大丈夫なんだ。」
そう思ってちょっと涙が出そうになる。
やっぱり、少し怖いのかもしれない。
でも。
この、金色があれば。
大丈夫なんだ。
私は決めた。成長するんだって。
大丈夫。
「できる」って、事だよね?
そこまで考えると、静かに金の瞳は閉じられて「了承」の意が解る。
それなら。
私は不思議に温かくなった胸を一度見つめて、顔を上げる。
やっぱり向かい側の二人は、私を見つめて待っていた。
「いや、僕は。「風を起こすのに、協力しろ」と言われましたので。」
しれっとラガシュが言っているのは、私の中のあの人の事だろうか。
悪戯っぽい瞳に変化したラガシュを見ながら、頷き続きを促す。
ミストラスは、おかしな顔をしているけど。
「これは、青の家の極秘事項です。ここには無い、デヴァイでの保管資料の話で、僕も多少曖昧な所はあるのですが。」
「大丈夫なのか?」
うん、それは私も思った。
なんか、楽しそうだし。
そんな時のラガシュは暴走しがちだ。
それはもう、婚約者の件でよーく解っている。
しかしそんな事は意に介さず、楽しそうに話を続ける。
「はい。ここに来て、確信が持てました。本来ならば、青の家で解決しなくてはならない、話です。が、しかし。」
「「光を灯すもの」が現れ、姫は風を起こし全てを巻き込んで、全てを新しく塗り替える事をお望みだ。確かに、これは中途半端ではなし得ない事。そして、私達青の家だけでも。」
そう言ってここでお茶を飲むラガシュ。
ミストラスが「早くしろ」という顔をしているのが面白い。
「そう、元々土台無理な話なんですよ。世界を何とかしろなんて、数人で何とかできる様な話じゃ、ない。寧ろ殆ど全てを、巻き込まなきゃできる事ではないんだ。そして、巻き込まなければ駄目なんですよ。それに、気付かせてくれたのがあなたですよ。」
少し、憂いの混じった灰色の瞳が、私を見つめている。
何も、返せないけど。
少しだけ、頷いた。
「ここからは僕の予想も大分入ります。けれど、多分、そうなんでしょう。それでなければ、説明がつかない。僕も、不思議だったんです。いくら、力が強いとは言っても「人一人」で世界を支えるなんて無理がある。子供の頃から不思議に思っていました。そうして僕は家にある本、全てを読んだ。」
「その、中には。あの人の本も沢山ありました。」
チラリとミストラスを見る。
頷いているので、セフィラの本だという事は承知なのだろう。誰が、何処まで知っているんだろうか。
後でラガシュに訊かないといけないな…。
「彼女は、世界を巡っていた。その、類い稀なる力とその石で別の道を使っていたのだと思います。そしてどうやら世界は一つだった、若しくは元々は行き来があったのではないかと、結論付けていた。ただ、いつからか世界はそれぞれ離れてこのままだと最終的には分裂し、通ることすら出来なくなる、というのが彼女の結論でした。」
「世界を渡る事が出来なくなる。それが意味する事は。」
そう言って一度、私達を見渡す。
気焔も既に、瞳を戻して顔を上げていた。
「それは………。私達の滅びを意味する。あの、予言はそういう事、か………?」
ミストラスが言った意味が解らなくて、ラガシュを見るといい顔で教えてくれる。
大分、物騒な話を。
「まあ、争いは起こりますよ。でもあなた達がいたラピスは無事かもですね?あそこは一応それで世界が完結できる。白い森さえ、なんとかすればですけど。他は、食料が足りないんですよ。それは致命的だ。争ったってどうにもならない。しかし争いは、起こるでしょう。」
思わず隣を見る。
茶の瞳の気焔は「落ち着け」という様に私を見てから、初めて口を開いた。
「して。何故、世界が離れる?」
確かに。
今までと、何が違うのだろうか。
私?
やっぱり、私が…………。
その考えと共に、黒い何かがわたしに近づいてくる様な気が、した。
もしかしたら、この世界が滅びに向かう「元凶」が私なのだとしたら。
一瞬で浮かんだその黒い考えは、瞬時に私を蝕み始める。
どう、したらいい?
何か、できる?
何も、できないの…………?
すると、暗い何かに「ズズズ」と引き込まれそうになった私に明るい声が降ってきた。
「それは、違いますよ姫。」
その、ラガシュの声にパッと顔を上げた。
うん、「姫」はやめて欲しいけど。
しかし、そのあっけらかんとした声は私の隅に沸いた闇を消すのには充分な、色をしていた。
そう、多分彼の綺麗な青い空色の髪のような、澄み渡った色だったから。
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