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7の扉 グロッシュラー
気焔の不安
しおりを挟む夕食を済ませ、予定通りにお風呂ではピンクの雲を出した私。
もくもくと大きくした雲は、しっかりと寝室まで届く様に伸ばしたつもり。
少し、ピンクと金のキラキラが残る髪に、エローラのネグリジェ。
ルシアの石鹸のいい香りも、ダメ押しで沢山泡立てて香る様にした。
レシフェから届いていたイストリアのハーブティーも淹れて、寝室へ持ってきた。
多分、「いらない」というのは分かっているので私の分、だけだけど。
これでもか、というリラックス要素を盛り込んで寝室へ突撃した私は、やや困惑していた。
珍しく彼が半分金色の焔になって、どこかへ行きそうに見えたからだ。
ここ暫くは、飛ぶ事でもなければ人の身体を保つ様にしていた気焔。
特に訊いた事はないけれど、以前の様にフワフワと何処かへ行ったり、燃えながら消えたりする事は殆ど、無くなっていた。
その事実を、今ようやっと気が付いた自分にも少し驚く。
そして、今何故彼が半分消えているのかも。
しかも何だか神妙な顔をして、飛ぶでもなく何かを考えている様子なのだ。
余計によく、解らない。
しかし、夕刻の話の件で何かを考えているのだろう事は、予測がつく。
それって、多分…………。
あの、二人の話だ。
この世界に来てからは、「見る」事に専念すると言った、あの白い彼の事だろう。
それならば、私が口出しする事では、ない。
あの二人が、今はどういった関係なのか私には分からないけど。
悪くは、無いと思う。
でも、良くも、なさそうなんだけど。
入ってきた私に少しだけ視線を向けたが、すぐにまた何かを考え始めた。
珍しい。
この状態。
しかし特に苦しそうな、困った様な、問題があるという雰囲気は無い。
それなら、と私も久しぶりの美しい焔を堪能する事にしたのである。
うん、お茶しながら眺めるには丁度良い芸術品の様な姿だから。
少し、冬のふわふわを片付けた出窓に腰掛ける。
傍らにはハーブティー、お気に入りの置かれた棚がよく見えて、夜の薄明かりが私を思考の海へ誘う。
クローゼット前では半分焔の金色が、チラチラと光なのか、火の粉なのかをチラつかせ部屋の中はほんのりいい雰囲気だ。
初めてこの美しい姿を見てから。
もう、一年くらいは経ったろうか。
そもそも始めは、金色の騒がしい石だった気焔。
まさか、好きになるとは、思ってもいなかった。
だって最初は、「吾輩」だし、なんかオジサンぽいし、江戸っ子っぽかったし………。
クスクスと一人笑う私を、いつものおかしなものを見る目で、見ている。
いつの間にか、一緒に居て確か始めは頑張って、人型にして………。
確か、あれめっちゃ疲れるんだよね…。
なにが、どうなって、このままになったんだっけ…?
あれ?
私の、所為だったかな…………?
考えている間にも、視界にある金色の焔は大きくなったり、小さくなったり伸びたり縮んだりして変化している。
一体、何をしているのだろうか。
まぁ、綺麗だから見てて飽きないけど。
しかし私は、ピンときた。
「あれ、かな?」
そう一人納得すると、少し目を瞑りピンクの石を思い浮かべる。
どうやら自分自身を燃やしている様に見える、金の石。それなら、お手伝いをしようと思ってピンクの雲を、出す。
もしかしたらチカラに、なるのでしょう?
多分、いつでも出せる訳じゃ、ない。
でも、こんな夜。
静かに、二人で、いつもの部屋で。
彼はきっと、自分を変える為に何かしようと燃えていて。
私は、それを手伝いたいと、思っている。
想いが、発現しない、訳がない。
「小さくていいの。濃くて、たっぷりの栄養満点、元気に成るやつ、降らせて?」
小さな声で呟き、ふっと息を吐いて目を開けた。
「フフ、可愛い。」
「また………。お前、は。」
何だか目を細めているけど、チカラはあるに越した事ない、よね?
私の言いたい事は解るのだろう、全身を焔に包まれたまま、しかしきちんと実体に戻る気焔。
くっ。
人になっても、どうしてこんなに綺麗なの?
ホント、狡いな。
金色の彼の上に浮かぶ雲は、凝縮されたピンクと金でさながら大きな原石が浮いている様にも、見える。
「もしかしたら、今迄で一番かも。」
口の中で呟いた私に気が付いてはいないか。
柔らかそうなしかしギュッと密度の濃い雲がそのままハラハラと崩れ、私の息が消えるのと同時に全てが彼に、降り注いでいく。
世にも、美しい光景だ。
そうして暫し、身体を動かしピンクと金の星とチカラ、焔を取り込んだ彼。
確かめる様にもう一度全身を動かした後、一息吐いてこう、言った。
「お前、は。」
「?」
いつもなら、この後元気なってキラキラした気焔が見れる。
でも何だか………少し。変?
言葉を止め私をただ、じっと見つめる彼。
私も同じく見て、いた。
どう、したのだろうか。
でも。
扉の、話だよね…………?
私の瞳を読んだのか、口を開いた気焔。
それはやはり、あの扉の、話だった。
「今は。未だ。吾輩では抑えられん。」
そう言った彼は、やはり渋い表情をしている。
それは、冬の祭祀と同じ事を意味する。
しかし、私は黙って次の言葉を待っていた。
だってそれは、私達の中では暗黙の了解の事実で多分、彼の言いたい事はそれではないのだろう。
少し、迷いの見える瞳をじっと見つめて待つ。
何を、心配しているのだろうか。
シンに、頼むこと?
それとも再びあの扉を出した時に、何か起こるとか?
それとも他に、何か…………?
心当たりは無い。
無いけど。
一度開いた形の良い唇が閉じて、また開いた。
でも、また閉じたけど。
えっ。
そんな、言い淀む様な、事ある??
なんだろう?
怖いな…………。
しかしきっと、気焔は私の事を一番に考え、だから、迷っている筈だ。
それが解る私は、大人しく待っていた。
そこそこ待ってみたが、中々口は開かない。
少し考えて、話しやすい様に彼の手を取り隣に座らせる。話しやすい環境は、大切だ。
うん。
いや、私が心細くなっただけだけど。
きっと、ぴったり、いつもの様にくっついていれば。
安心して、話せるかと思ったのだ。
「以前。」
「………うん。」
長いよ。
「赤い、 」
ん?
途切れた?
「赤い、何?」
正面からしっかりと、金色の瞳を捕らえた。
ここまで、気焔が言い淀むのなんて珍しい。
赤?
赤い?石?
誰かに赤い石、配ったっけ??
それとも………赤。赤?うーーん?
あ、空かな?こないだの。
え?違う?
じゃあ………何だろな。カップ?あっちの部屋の?
え?全然ダメ?
「ねぇ。いい加減、教えて?」
考えている事がダダ漏れなのも、ちょっとどうかと思うけれど、そもそも教えてくれるつもりなんだよね??
多分、恨みがましい顔になっていたのかもしれない。
「すまない。」
そう、一言言った彼はいつもの様に私を膝の間に入れる。
そうして一息吐くと、決心した様に話し始めた。
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