透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

制限

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あの時。

私が考えていた事?


しかし考え始めてすぐに、気焔が隣に来た理由に気が付いた。

そうだ。

「気焔に会うなと言われたら」を想像して、なったんだ………。


チラリと金の瞳を確認すると、ギュッと手を握られて心配しているのが分かる。
でも大丈夫。
今の私はあまり深く、考えていない。

それを想像してしまったら。

また、まずい事になるのは明白だからだ。


空いている方の手で頬を冷やして、グラスを持ちまた手を冷やす。
冷えてきた事で気が付いたのだが、何故それが関係あるのだろうか。

貴石に行くこと。
気焔に会えなくなる、こと?

繋がらないけど??

グラスを置きイストリアを見る。
私の疑問に気が付いているのだろう、再び話が始まった。


「あの、君は貴石が「どういう所」か知っているか?」

単刀直入なその質問。

以前もレナに訊かれた気が、する。
その時は何て答えたんだっけ………?

「女の人に………お金を払って…?」

えっ。
ここで言うの?

イストリアはいい感じの微笑を浮かべていて、逃がしてくれる気は無さそうだ。
しかし、隣は見れない。

「………公に、浮気?できる所?」

薄茶の瞳を確かめながら、口に出す。
私の答えを聞いて目を細めたイストリアは、追い討ちをかけるように、こう言った。

何をするのか。………知っては、いるかい?」


ぐ、具体的??

フリーズする私。
握られている手が熱くなってきた気がするのは気の所為だと思いたい。

ちょ、っと待って。

ぐ、具体的って、さあ。

うん、なに?その、なんて言うか、あの、その、アレだよね?
キスしたりとか?
なんか、もっと…………イチャイチャしたりとか?
えっ?する、んだよね??
ああああああああぁぁ………。


パッと、手を離して両手で顔を隠した。

無理。
無理無理。
もう無理。

何コレ。なんで。この場で、コレ、必要??
イストリアさん?!??


クスクス笑声が聞こえる。

いや、笑い事じゃあ無いんですけど………。


そうして私が顔を隠している間にも質問は続けられる。
しかし今度は気焔に向けて訊いた様だ。

「その、力が巡った時。その時は、どうやって収めた?君だろう?ストッパーは。」

あばばばば。

顔から手が外せない。
気焔は、どう答えるだろうか。
言う、のかな??

「まあ、大方貴方が想定している様なやり方だ。」

えっ。そうなの??

私が手の陰でアワアワしているのをお構い無しに、進む話。

でも、またどうして?
それが何か、関係あるの??

「ふぅむ。」

そう言ったきり、一瞬静かになったイストリアは私達二人に確かめる様に話し始めた。
私はまだ、指の隙間から見ていたけれど。


「あの、ね。私が一つ、心配しているのは。まぁ彼は分かっていると思うが、君があそこへ行った時になる事だ。君はね、共感性が高い。」

「共感性?」

「そう。だから、ここまでこうしてやって来て、みんなの為にあれこれしているのだろうけど。いや、いい事なんだよ、うん。君の長所でも、ある。しかしね………。」

なんだろうか。

イストリアが少し言い淀んだ事でチラリと金の瞳を確認する。
しかし静かな金色からは何も読み取れない。
でも、この色だってことは。

多分、気焔も分かっているんだ。
イストリアの心配の、内容を。


腕組みをして私の顔を眺めていたイストリア。
しかし一つ、溜息を吐くとこう言った。

「まず、エルバの所には行くこと。その前に少し練習する必要があるな?力が膨らみ過ぎたらすぐに抑えられるか?ん?どうした?」

イストリアの視線は私の横の、金色に注がれている。

くるりと向き直って、顔を確認した。
変な、顔になっている。

なんで?どうしたんだろう??
ちょっと、面白いけど。

「面白がるでない。お前も関係あるのだ。」

「えっ。」

て、言うか?

「練習??」

今度は振り返ってイストリアを確認する。

「そう。練習が必要だ。いいか?」

チラリと気焔を確認するイストリア、頷く気焔。

私の頭が「?」でいっぱいになっている中、その「練習」は急に始まった。


「あのね。貴石は勿論、女性の方に拒否権は無いんだ。デヴァイから来た、知らない男。に選ばれる。それがどういうことか、かい?」


瞬間、自分の中がザワリとする。

知らない靄が隅から湧き上がってきて、どんどん大きくなるのが、判る。

反射的に金色の瞳を探して、「お願い」の目をした。
これ以上、考えてはいけない事が本能的に、解ったからだ。



後で考えると、恥ずかしいんだけど。

その時はあの状態になるのはまずいという事しか、考えられなかったのだ。
そう、イストリアの目の前でチカラを注いで、もらったからだ。


ううぅ…………。

再び、両の手に隠れていた、私。

指の隙間から、イストリアのベッドカバーの赤い紋様を目に映しながら、冷静になろうと必死に細かい部分を観察していた。


しかし、そんな中でも。
二人は私を挟んで、普通に会話していた。

なんで?
なんでなの??!
大人だから??


ペタペタと頬を叩いていると、少しずつ二人の会話が耳に入ってくる。

どうやらその私の「練習」の話らしいのだけど。
これって、どうやって練習するんだろうか………。


「直接、女の子達に会うのはまだ無理だろう。」

「まぁそうだろうな。」

「しかし、しようかな。君はどのくらい迄の暴走なら、抑えられる?さっきのはまだまだ序の口だろう?」

「まあ。…………それなんだが。」

「どうした?」

「少し、具合の悪い、事がある。」

そう言うと、立ち上がってイストリア側へ行き、何かを耳打ちした気焔。
そうして少し、コソコソと何かを話している。


いや、ヤキモチは妬かないけど?
なんだろう?単純に、気になるんですけど?

しかしその内緒話はすぐに終わり、元の位置に戻って腰掛けた。

「しかし、君は。あれだね、この話を以前誰から聞いた?その時は、だった?今の様に、なったかい?」

そうイストリアから言われ、改めて思い出してみる。


あれは………確か、シャットで。
休憩室じゃ、なかったっけな?
レナと…エローラもいたか、いなかったか。
それで、なんで貴石の話になったんだっけ………?

まだ、確か初めの頃だ。
ああ、そうか。確か、「どうしてシャットに来たのか」を訊いたのではなかったか。

レナは確か魅力のまじないがどう、とか言ってた筈だ。

」と。

 
ドクン、とまた自分の中が騒めき出したのが分かる。

椅子に戻っていた気焔が再びベッドへ来て、私を懐へ入れた。

「どこまで、考えたか分からないが。だ。吾輩は反対だ。何が起きるか、分からん。」

「まあね。それも、解るよ。でも、この子は行く事を望んでいるし、それは多分必要な事なのだろうよ。それに、以前大丈夫だったのが、ここに来てならば。それはやはりこの子が何かを見つけたのだろうよ。以前とは、違う何か。」

「それは君にとっても、大事なものだと、私は、思うけどね?」

そうして立ち上がると、話し合いは終わりだと言うイストリア。
確かに、私はどのくらい寝ていたのだろうか。
心なしか、お腹も空いてる気がするな?

「さあ、もういい時間だ。」

パンと手を叩いて、紙袋をポン、とベッドへ置いた。

「後は君達が少しずつ、解決していく問題だ。二人で相談して、行ける様になったら言ってくれ?まあ私も、じきに神殿へ出向くとは思うが。焦る事はないよ。焦って、どうなる事でもない。まぁ、時間はかかるだろうな…。私も少し、考えるよ。」

私の側に置かれたその紙袋の中身が、あのテーブルに置いてあったセットなのが分かり少しホッとした。

「ありがとうございます。」

「ああ、もう休むといい。分かっていると思うが、くれぐれも無理はさせるなよ?いや、ちょっとこっちへ来なさい。」

うん?

そう言って気焔を引っ張って部屋を出て行ったイストリア。
どう、したのだろうか。

しかし、私の頭の中は疲れていた。

それに。
今、「その事」を深く考えるのは止めた方がいい事は分かっていたのだ。
モヤモヤは、まだ私の中に残っている。

消えた、訳じゃない。
でも気焔が側にいないと危険だし、不安だ。

その話を、しているのだろうか。


「ま、何しろしっかり休ませる事だな。」

背中をバシバシ叩かれながら、気焔が戻って来た。
微妙な、色をしている。
何を言われたのか気にはなるが、確かに今は休んだ方が良さそうだ。

疲れた私の頭は、ろくな働きをしないだろう。


「さ、ここから飛んでもいいぞ?」

キラキラした瞳でそう言うイストリアを無視して、私を立たせる気焔。

軽く服を直して、袋を持つと手を引かれて寝室を出た。

どうやらここは、店の奥にある住居部分だった様だ。今度来たら、奥も見せてもらわなきゃ。


そうしてイストリアに見送られ、魔女の店を出る。
「チリン」と鳴る扉を閉じると、いつもと違う、色が映った。


外がどうかは、分からないけど湖の上の空は美しい茜色だ。
もう、確かにいい時間らしい。

歩く度にカサカサいう紙袋の感触を感じながら、桟橋、紙袋の中のお楽しみと、茜色を見てチャージする。


木の感触と木目、可愛いもの、綺麗な、色。

くるりと振り返って、もう一つの綺麗な色も目に映す。

「大丈夫、かな………。」

私のその不安には応えずに、一瞬自分を燃やした気焔。

彼の中にも、何か変化があったのだろうか。


そうして闇色に侵食される茜をずっと、眺めていた。
珍しく気焔も、何も言わないし。
どう、「練習」して「解決」出来るのかは、分からないけど。

二人なら。

きっと。

「なんとかなる、よね?」


そうして隣の金色の手を取り「帰ろう?」とその、美しい瞳を見上げた。
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